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ニールとシガツ
その2
しおりを挟む夕刻近くに星見の塔へと向かう道をひとり歩きながら、ニールは少しドキドキしていた。魔法使いに見つかれば怒られるのは確実だし、そもそもこれまで星見の塔へ向かう時はたいてい誰かと一緒だった。ひとりでこの道を歩いたのは春の夜祭りの時、マイン達を迎えに行った時くらいだろうか。
だけどさすがに今日は誰も連れては来られない。騒がれて魔法使いに見つかっては困るし、何より新入りのシガツと二人で話をしたかったのだ。
シガツの事は、ハッキリ言って気に入らない。気に入らないけれど、それは自分よりもマインの身近なところにいるからだ。全然違う場所で出会ったなら、ここまで嫌いにはならなかっただろう。
それを自覚したニールは冷静になって考えてみた。これまで、マインの近くにいる邪魔者という印象でつい皮肉を言ってしまっていたけれど、よくよく考えてみればシガツはそんなに悪い奴じゃない。だったらマインの事を打ち明けて、上手くこっちの味方につけてしまえば、二人の事を応援してくれるんじゃないか?
シガツがすでにマインの事を好きになってたら無理だが、二人はまだ知り合って間もない。まだシガツにそんな気持ちは無いかもしれない。
だったら今の内に釘を刺しとけばきっと、応援してくれなかったとしてもマインをそういう風に見ないのではないか。
そんな気持ちが芽生え、ニールはシガツを呼び出す事にしたのだ。
うまくいくかどうかは分からない。だけどシガツは来ると言ったのだから言うだけの事は言おう。
そんな事を考えながらニールは待ち合わせの場所へと急いだ。
修業が終わり、師匠は家へマインとソキは二人で花のたくさん咲いている辺りへと行ったのを見届けて、シガツは約束の場所へと歩き始めた。
ニールはもう来ているだろうか。
遠くから見る分には、ニールの姿は見えなかった。まだ来ていないのか、それとも師匠に見つからないよう木の陰に隠れているのか。
何の話をするのか、半分期待、半分警戒しながらシガツはニールを目で捜しつつ約束の場所へと向かった。
目的の場所につくと、やはり隠れていたらしい。茂みの中からニールがガサリと出てきた。
「よう」
どう声をかけたらいいのか分からないといった様子でニールが声をかけてくる。そんなニールに照れくささを感じながらシガツは笑顔を返した。
「こんにちは。待たせちゃったかな」
ニールの雰囲気からして、文句を言う為に呼び出したわけじゃなさそうだ。
シガツはほっとしながらニールの言葉を待った。
「いや。今来たところだ」
そう言いながら、ニールは目線をキョロキョロと動かす。
「他の人はいないよ。師匠は夕食の仕度をしに家に戻ったし、マインとソキは二人でちょっと遊んでくるって別の方向に行ったから」
シガツの言葉を聞いて、ニールは安心したように頷いた。
「そうか。その、時間は取らせない」
そうは言いつつニールは言い出しにくいのか、少しの間続きの言葉を紡がなかった。
それでも辛抱強くシガツが次の言葉を待っていると、やがてニールは覚悟を決めたように口を開いた。
「オレは、マインの事が好きなんだ」
顔を赤くしながらニールが告げる。
「え? そうなんだ」
うん、気づいてたよとはさすがに言えなかったので、シガツは知らなかったフリをしながら返答をした。けどなんでそれをオレに言うんだろうと、不思議に思いながらシガツはニールを見る。ニールはそんなシガツにほんの少し睨みをきかせながら質問してきた。
「お前は、誰か好きな子、いるのか?」
ここで冗談でも「マインが好き」なんて答えたら、きっと決闘を申し込まれてしまう。そう思わせる雰囲気をニールは漂わせている。
つまり恋敵かどうかの確認がしたかったのか。
シガツは小さく苦笑しながらニールに答えた。
「いないよ。今、好きな人はいない」
明らかにホッとした顔をしたニールを見て、正直な奴なんだなとシガツは思った。そんなニールを好ましく思ったのも束の間、彼は威張り散らすような態度でシガツに言った。
「だったらオレとマインが仲良くなれるよう、協力しろ」
遊び仲間の中でリーダー格の存在だから、こんな風に命令口調になるんだろうか。
ずっと一緒にいる友達ならばそれも許されるのだろう。だけどまだ出会って間もないシガツは、自分よりも年下であろうニールにそんな風に言われ、少しばかりムッとした。
それでもここで腹を立ててはいけないと、ニールに向かって笑顔を作る。
「協力って、例えば?」
いいよ、応援するよと言うのは簡単だ。だけど安請け合いしてせっかく始めた魔法の修業の妨げになるのはどうにか避けたい。
「それは、あれだ。今は思いつかないけど、作戦が決まったら伝えるからオレの言う通りにすればいいんだ」
「……その作戦の内容によっては協力出来ないかもしれないけど、それでもいいなら決まるの待ってるよ」
今約束出来るのはこのくらいだった。だけどニールはその返事が気に入らなかったようだ。
「なんだそれ。内容によっては協力しないのか? オレの兄ちゃんはその内村長になる男なんだぞ。黙ってオレの言う事聞いとけばいいんだよっ」
ニールの言い分に、シガツは呆れた。単に子供達の中でリーダー格だから偉そうにしているのかと思ったら、虎の威を借る狐か。
思わず深く、溜め息をついてしまう。
「たとえ身内がどんなに偉い人でも、君自身はまだ何も成し遂げていない子供だろう?」
風の塔にいる時に、別に威張り散らしたわけでもないのに何度となく言われた言葉をシガツは口にしていた。
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