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最終章 果てなき旅路 at 函館本線・比羅夫駅
果てなき旅路⑧
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夕食とお風呂を終えた私たちは、部屋に戻って消灯までの時間をくつろいでいた。電球の灯りが揺れる室内は、まるでテントの中にいるかのような錯覚を抱かせた。都市部のホテルや温泉街の旅館も良いけど、たまにはこういうのも有りだ。
ふと、外を眺める。羊蹄山の山麓にある比羅夫駅は、周辺にわずかしか民家が存在しない。見える灯りといえば、ホームを照らすものだけだ。漆黒と呼んでも差し支えないほどの夜空を眺めるなんて、都市部では決してできない経験だ。この非日常感がたまらない。
「あっ」
思わず立ち上がった。窓を開けることは叶わないが、外を見上げることはできる。
「見てよ!」
私が天を指さすと、さくらとひばりが近寄ってきた。
「わあ!」
「すげえ!」
私の指し示す先。そこには満天の星空が広がっていた。夜空に宝石を散りばめたような景色。建物も灯りもほとんどないからこそ見られる光景だ。
「やっと見ることができたね」
「あっ、確かに」
満天の星空を眺めるのは、夏休みにさくらとキャンプをしたとき以来だ。かつて、小海線の観光列車に乗って星空を眺めようとしたこともあるが、そのときは曇り空で星の1つも見ることは叶わなかった。
「やっと約束果たせた」
「ええ、そうね」
私たちは約束したのだ。3人でいつか満天の星空を眺めるのだと。まさか、こんな場所で叶うとは思いもしなかった。冬場から春先の北海道は天気が良くないことが多いのだから。
「なんだか……目標がなくなっちゃったような気分だね……」
約束は夢でもある。それが叶った今、私たちが旅を続ける目的は何なのだろう。
ふと、そんな感慨に襲われた。
「え? 何言ってんだよ」
そんな曇り空を払拭してくれるのは、いつだって大切な友人2人なのだ。
「目標はあるだろ? 日本の鉄道全線完乗!」
「素敵! 大きな夢ね」
「夢はでっかく! だろ?」
じゃあ、それが終わったら?
「そしたら、今度は世界の鉄道全部乗る!」
「良いわね。英国なら案内できるわよ」
「おっ、良いね。じゃあ、イギリス行くか。まず、最初は」
夢。目標。途方もないほど大きければ、追いかけるのは大変だけど。中々達成できない方が満足度も高い。夢や目標って、そんなものだ。
「でもさ、一番は楽しむことじゃね?」
「楽しむ?」
「そう。目標とかあるけどさ、結局鉄道が好きだから鉄道旅をするんだよ。ただそれだけ。私らはそれだけで良いと思うんだよな」
「……そっか」
なんだか忘れていた。初心を取り戻したようだ。
そうだ。私は鉄道が好きなんだ。好きから始まった趣味は、最高の友人と引き合わせてくれた。そして、私たちは私たちの好きを追い求め続ける。
だって、鉄道が大好きなんだもの。
「あら? そろそろ消灯時間ね」
「マジかー。なんか楽しくて寝たくねえなー」
「ダメよ、さくらさん。明日が一番大事でしょ? ちゃんと寝なくちゃ」
「だよな。折角留萌本線に乗るのに、寝ちゃったらもったいないもんな」
この3月末で廃線となる留萌本線。それに乗るのが明日の目的だ。
「うーっし。じゃあ、名残惜しいけど寝るか。おやすみ、みずほ、ひばり」
「うん。おやすみ。また明日」
「おやすみなさい。明日も楽しみましょう」
未来への希望と楽しみを胸に、私たちは各々の布団へと潜り込んでいく。これから待つ沢山の鉄路と、いつか出会うその日のために。
『線路は続くよ、どこまでも。たとえ失われても、思い出の中でいつまでも。 MIZUHO』
完
ふと、外を眺める。羊蹄山の山麓にある比羅夫駅は、周辺にわずかしか民家が存在しない。見える灯りといえば、ホームを照らすものだけだ。漆黒と呼んでも差し支えないほどの夜空を眺めるなんて、都市部では決してできない経験だ。この非日常感がたまらない。
「あっ」
思わず立ち上がった。窓を開けることは叶わないが、外を見上げることはできる。
「見てよ!」
私が天を指さすと、さくらとひばりが近寄ってきた。
「わあ!」
「すげえ!」
私の指し示す先。そこには満天の星空が広がっていた。夜空に宝石を散りばめたような景色。建物も灯りもほとんどないからこそ見られる光景だ。
「やっと見ることができたね」
「あっ、確かに」
満天の星空を眺めるのは、夏休みにさくらとキャンプをしたとき以来だ。かつて、小海線の観光列車に乗って星空を眺めようとしたこともあるが、そのときは曇り空で星の1つも見ることは叶わなかった。
「やっと約束果たせた」
「ええ、そうね」
私たちは約束したのだ。3人でいつか満天の星空を眺めるのだと。まさか、こんな場所で叶うとは思いもしなかった。冬場から春先の北海道は天気が良くないことが多いのだから。
「なんだか……目標がなくなっちゃったような気分だね……」
約束は夢でもある。それが叶った今、私たちが旅を続ける目的は何なのだろう。
ふと、そんな感慨に襲われた。
「え? 何言ってんだよ」
そんな曇り空を払拭してくれるのは、いつだって大切な友人2人なのだ。
「目標はあるだろ? 日本の鉄道全線完乗!」
「素敵! 大きな夢ね」
「夢はでっかく! だろ?」
じゃあ、それが終わったら?
「そしたら、今度は世界の鉄道全部乗る!」
「良いわね。英国なら案内できるわよ」
「おっ、良いね。じゃあ、イギリス行くか。まず、最初は」
夢。目標。途方もないほど大きければ、追いかけるのは大変だけど。中々達成できない方が満足度も高い。夢や目標って、そんなものだ。
「でもさ、一番は楽しむことじゃね?」
「楽しむ?」
「そう。目標とかあるけどさ、結局鉄道が好きだから鉄道旅をするんだよ。ただそれだけ。私らはそれだけで良いと思うんだよな」
「……そっか」
なんだか忘れていた。初心を取り戻したようだ。
そうだ。私は鉄道が好きなんだ。好きから始まった趣味は、最高の友人と引き合わせてくれた。そして、私たちは私たちの好きを追い求め続ける。
だって、鉄道が大好きなんだもの。
「あら? そろそろ消灯時間ね」
「マジかー。なんか楽しくて寝たくねえなー」
「ダメよ、さくらさん。明日が一番大事でしょ? ちゃんと寝なくちゃ」
「だよな。折角留萌本線に乗るのに、寝ちゃったらもったいないもんな」
この3月末で廃線となる留萌本線。それに乗るのが明日の目的だ。
「うーっし。じゃあ、名残惜しいけど寝るか。おやすみ、みずほ、ひばり」
「うん。おやすみ。また明日」
「おやすみなさい。明日も楽しみましょう」
未来への希望と楽しみを胸に、私たちは各々の布団へと潜り込んでいく。これから待つ沢山の鉄路と、いつか出会うその日のために。
『線路は続くよ、どこまでも。たとえ失われても、思い出の中でいつまでも。 MIZUHO』
完
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