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最終章 果てなき旅路 at 函館本線・比羅夫駅
果てなき旅路⑤
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長万部を出てから1時間ほどで蘭越に到着する。ここは蘭越町の中心部だけあって、それまでの途中駅と比べると幾分か町が広がっていた。
車窓からは高校も見える。時間が時間なら学生の利用も多いだろう。廃線になった後の通学はどうするのだろうか。やはりバス通学に変わるのだろうか。
沿線にはお米の倉庫も見えた。蘭越米という地元ブランド米があるらしい。初めて知った。
蘭越を出てから再び山の中に入り、リゾート地としても有名なニセコを過ぎる。そして、ニセコを出てから10分弱。ワンマン運転特有の自動放送が流れた。
『まもなく比羅夫、比羅夫です』
「ああ、もう着いちまうか」
のそのそと動いたさくらが網棚から荷物を下ろす。自分のものを下ろすと、続いてひばりの荷物、そして私のリュックを手渡してくれた。
「ありがと」
一斉に立ち上がった私たちは、幾分か空き始めた車内を抜け、運転席のすぐ後ろに到達した。真っ白な雪原の中を2本の鉄のレールが駆け抜けている。駅の姿は既に見えていた。
減速した列車は所定の位置に停止した。運転手が切符の確認のために振り向いた。フリー切符を提示すれば、「ありがとうございました」と我々3人全員に応答してくれる。
ドアボタンを押して下車。瞬間、突き刺すような冷気が全身に襲いかかった。うーん、たとえ着込んでいても、暖房の効いた車内から外に出るとやはり寒い。
雪の降り積もったホームに降り立って、目の前の駅舎を見上げてみる。三角屋根の比較的大きな駅舎だ。思ったよりも立派な佇まいをしている。
エンジン音をうならせた列車が倶知安方面へ向かって発車していった。今度は駅舎に背を向けてみる。すると、どうだろうか。先ほどまで車窓に広がっていた樹氷がどこまでも広がっていた。
雪化粧をした針葉樹林が永遠に広がっているような錯覚。遠くには同じく白く塗りつぶされた山並みが続いていた。一際大きいのが羊蹄山だろうか。
「うう、寒っ」
幸いにも雪はちらちらと舞う程度。日差しも出ている。雪に反射した陽光が眩しい。
「早く入ろうぜ」
「待って」
駅舎の中に入ろうとするさくらを、ひばりが制した。
「折角だし、写真でも撮らない?」
「写真?」
「そう。だって、こんな一面の雪景色、滅多に見ることができるものでもないわ」
ひばりは父方の実家が宮城にあると言っていた。だから、雪には見慣れているはずだ。そのひばりが興奮気味にまくし立てるのだから、よっぽどなのだろう。流石に北海道の雪は質が違うということだろうか。
「仕方ねえな。じゃあ──」
そう言って一眼レフを取り出そうとして
「違うわ。みんなで一緒に撮るの」
そう言って、私たちを引き寄せた。抱き寄せるように引っ張り込まれたせいか、距離が近い。ひばりの体温も吐息も間近に感じるかのようだ。揺れるブロンズヘアが私たちをくすぐる。
「何? 自撮り?」
「そんな感じ。はい、チーズ」
スマホのインカメラを使ったプチ撮影会が始まった。ホームを、駅舎を、線路を、樹氷を、色んな景色をバックにして撮影が続く。
私たちはひばりに振り回されていた。だけど、互いに文句の1つも出なかった。
だって、いつか貴重な資料になる写真なのだから。廃駅になることが確定している山間の小駅で、私たちは3人だけの時間を過ごし続けた。
車窓からは高校も見える。時間が時間なら学生の利用も多いだろう。廃線になった後の通学はどうするのだろうか。やはりバス通学に変わるのだろうか。
沿線にはお米の倉庫も見えた。蘭越米という地元ブランド米があるらしい。初めて知った。
蘭越を出てから再び山の中に入り、リゾート地としても有名なニセコを過ぎる。そして、ニセコを出てから10分弱。ワンマン運転特有の自動放送が流れた。
『まもなく比羅夫、比羅夫です』
「ああ、もう着いちまうか」
のそのそと動いたさくらが網棚から荷物を下ろす。自分のものを下ろすと、続いてひばりの荷物、そして私のリュックを手渡してくれた。
「ありがと」
一斉に立ち上がった私たちは、幾分か空き始めた車内を抜け、運転席のすぐ後ろに到達した。真っ白な雪原の中を2本の鉄のレールが駆け抜けている。駅の姿は既に見えていた。
減速した列車は所定の位置に停止した。運転手が切符の確認のために振り向いた。フリー切符を提示すれば、「ありがとうございました」と我々3人全員に応答してくれる。
ドアボタンを押して下車。瞬間、突き刺すような冷気が全身に襲いかかった。うーん、たとえ着込んでいても、暖房の効いた車内から外に出るとやはり寒い。
雪の降り積もったホームに降り立って、目の前の駅舎を見上げてみる。三角屋根の比較的大きな駅舎だ。思ったよりも立派な佇まいをしている。
エンジン音をうならせた列車が倶知安方面へ向かって発車していった。今度は駅舎に背を向けてみる。すると、どうだろうか。先ほどまで車窓に広がっていた樹氷がどこまでも広がっていた。
雪化粧をした針葉樹林が永遠に広がっているような錯覚。遠くには同じく白く塗りつぶされた山並みが続いていた。一際大きいのが羊蹄山だろうか。
「うう、寒っ」
幸いにも雪はちらちらと舞う程度。日差しも出ている。雪に反射した陽光が眩しい。
「早く入ろうぜ」
「待って」
駅舎の中に入ろうとするさくらを、ひばりが制した。
「折角だし、写真でも撮らない?」
「写真?」
「そう。だって、こんな一面の雪景色、滅多に見ることができるものでもないわ」
ひばりは父方の実家が宮城にあると言っていた。だから、雪には見慣れているはずだ。そのひばりが興奮気味にまくし立てるのだから、よっぽどなのだろう。流石に北海道の雪は質が違うということだろうか。
「仕方ねえな。じゃあ──」
そう言って一眼レフを取り出そうとして
「違うわ。みんなで一緒に撮るの」
そう言って、私たちを引き寄せた。抱き寄せるように引っ張り込まれたせいか、距離が近い。ひばりの体温も吐息も間近に感じるかのようだ。揺れるブロンズヘアが私たちをくすぐる。
「何? 自撮り?」
「そんな感じ。はい、チーズ」
スマホのインカメラを使ったプチ撮影会が始まった。ホームを、駅舎を、線路を、樹氷を、色んな景色をバックにして撮影が続く。
私たちはひばりに振り回されていた。だけど、互いに文句の1つも出なかった。
だって、いつか貴重な資料になる写真なのだから。廃駅になることが確定している山間の小駅で、私たちは3人だけの時間を過ごし続けた。
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