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最終章 果てなき旅路 at 函館本線・比羅夫駅

果てなき旅路④

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 昼食を終え、長万部駅に戻った私たちは、改札を抜けて次なる列車へと乗り込むことにした。

 ホームに着くと、既に乗り継ぎの車両が待ち構えている。メタリックな銀色のボディに角張ったフォルム、緑色のラインカラーが特徴的な単行のディーゼルカーだった。

「わあ! 面白い!」

 一目見た瞬間、ひばりが感嘆の声を上げた。カメラを取り出して小走り気味に歩み寄っていく。

 その瞬間だった。凍結した路面に足を取られたのは。

「きゃ!」

「ひばり!」

 慌てて受け止める。良かった、転ばずに済んだ。

 舞い上がったブロンズヘアが鼻先をくすぐる。ふんわりとフローラルの香りがした。ああ、良い匂い。幸せの香りだ。……って、そうじゃなくて。

「大丈夫?」

「ええ、なんとか。ありがとう、みずほさん」

 冬場の雪国は足場の凍結が頻発する。それは駅のホームとて例外ではないのだ。

「気をつけてね。ちゃんと足元見ないと危ないよ」

「ごめんなさい。気をつけるわ」

 ひばりと密着した時間はすぐに終わりを告げた。改めて、3人で車両に向かってカメラを構える。

「こじんまりとしててピカピカで可愛いわ!」

 興味津々といった様子でシャッターを切り続けている。彼女のセンサーのどこに引っかかったのだろうか。

「DECMOっていうんだよ」

「デクモ?」

 この列車の愛称だ。正式には、H100形気動車という。

「Diesel Electric Car with MOtors だな。その頭文字をとってDECMO」

 やたら良い発音でさくらが捕捉した。

「要するに、電気式気動車ってこと。ディーゼルエンジンで発電して、その電力で進むんだよ」

「へー! ますます興味深いわ!」

 私も細かい仕様までは詳しくない。だけど、興味を持ってくれたなら良しとしようか。鉄道の世界は奥深いのだ。

 一通り撮影を済ませた頃には、既に扉が開放されていた。ドアボタンを押して乗車。4人がけのボックスシートに腰かけて、やや待てばあっという間に発車時間だ。

 ここから先は、いわゆる函館本線の山線やませんを進んでいく。函館本線の長万部から小樽おたるへ至るまでのルートは、ニセコアンヌプリや羊蹄山ようていざんの麓を通る山線区間だ。これまで内浦湾に面していたルートから外れ、峠を越えていくことになる。

 この山線区間は、特急なども通らず(特急は長万部から先、室蘭本線に入る)完全なローカル輸送となっている区間である。

 そして、北海道新幹線新函館北斗~札幌間延伸開業に伴い、廃線となることが確定している区間でもある。今回の旅の目的の1つは、この廃線となる山線区間を通ることであった。

 やはりと言うべきか、単行のディーゼルカーの中は鉄道ファンと思しき人も複数人いる。それに混じって、沿線にニセコがあることも相まってかスキー客も乗っており、長万部発車時点で座席は全て埋まっているという現状であった。

 私たちを乗せたDECMOは室蘭本線と別れ、山へ向かって突き進んでいく。雪によって真っ白に包まれた山の中だ。何が起きてもおかしくない。

 ある意味、一種のアトラクションに乗っているような感覚だった。

 列車は右へ左へ、いくつものカーブを抜けていく。それが山越え、峠越えである証。どんどんと標高が上がり、車窓も人の営みを感じられないような風景へと移り変わっていく。まさに自然の中を突き進んでいるような感覚だ。

「見て。樹氷よ」

 山肌には鬱蒼と針葉樹林が立ち並んでいる。それらは全て雪を被っていた。葉に、枝に、雪が被り、幻想的な風景を演出していた。

「本当だ。めっちゃ綺麗じゃん」

 雪被りの森の中を突き進んでいく車窓は、都心では決して見ることのできない光景だった。おとぎ話のように美しい風景を列車から眺めることは、もうまもなくできなくなる。既にタイムリミットへのカウントダウンは進んでいるのだ。

 その事実があまりにも口惜しかった。この区間に新幹線が通ったとしても、同じような光景は決して拝めないというのに。

 樹氷の中を蛇行しながら、1両編成のディーゼルカーは突き進んでいった。この時間が永遠に続けば良いのに。
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