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最終章 果てなき旅路 at 函館本線・比羅夫駅

果てなき旅路③

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 特急で函館本線を北上した私たちは、途中の長万部駅で下車をした。長万部町の中心駅である長万部駅は、函館本線と室蘭本線むろらんほんせんが分岐する運行上の拠点駅の1つだ。北海道新幹線札幌延伸の際には、新幹線の停車駅となることも決まっている。

 とはいえ、函館駅や札幌駅のように駅前に繁華街や観光地が広がっているわけではなく、駅ナカの商業施設があるわけでもない。東京基準で考えれば、地方の小駅といった様相だ。構内は広いけど。

 さて、そんな長万部で降りた理由は簡単。乗り換えのためだ。

 とはいえ、あまり接続はよろしくない。次の列車まで1時間以上待ち時間が生じるのだ。

 時間はお昼時よりやや早いが、始発のはやぶさで来たこともあってお腹の虫が騒ぎ始めている。ちょうど時間もあることだし、ここで昼食タイムを取ることにした。

 長万部といえば「かにめし」だ。どういうことかというと、長万部の駅弁といえば昔から有名なのが「かにめし」なのだ。その駅弁を買って駅舎の中で食べるというのも乙なのだが……。今回はあえて別の選択肢をとることにしよう。

 駅舎の外へ出る。駅前から伸びる一本道を真っ直ぐ行くと、すぐに内浦湾うちうらわんにぶつかるのだ。それほど海に近い場所にあるのが、ここ長万部駅なのである。

 まあ、それはともかくとして。

 駅前の交差点を渡ってすぐ。食事処の門を開くことにした。

「いらっしゃいませー」

「3人です」

「空いてるお席どうぞ」

 お店の前で靴裏の雪を落としてから入店。流石に北海道といったところだろうか。店内は暖房がガンガンに効いていた。

 いやはや、ちょっと外に出ただけでも寒くて仕方がないのが北海道の冬だ。3月といえども、所謂しばれる寒さである。暖房のあるところは本当に助かる。暖かい。むしろ、熱いくらいだ。

 さて、席に着いた私たちは、早速お品書きを広げた。

「おっ、あるある」

 見開き一面を使ってデカデカと載せられたそれ。そう、「かにめし」である。

 実はこのお店は、長万部駅の「かにめし」を製造販売している会社が運営している飲食店なのだ。当然、メインは「かにめし」。「かにめし」尽くしである。

「いやー、流石さくらだね。こんなお店知ってるなんて」

「まあな」

 偉そうに仰け反っていやがる。まあ、良いか。折角落ち着いてゆっくり食べられる場所に連れてきてくれたんだ。少しくらいは感謝してやろう。

「で、どうする? やっぱかにめしか?」

「そうね。私もそうしたいわ」

 さくらとひばりはすんなり決まったようだ。

「うーん、そうだなぁ……」

 ペラペラとお品書きをめくってみる。すると、興味そそられるメニューを見つけたではないか。

「あっ、私これにしよう。カニカレー」

「カニカレー?」

「そう。これ」

 お品書きの一面を使って大きく載せられていた。「かにめし」ほどは強調されていないが、きっと看板メニューの1つなのだろう。

「んじゃあ、そうすっか。すいませーん」

 かにめし2つとカニカレー1つを注文。相変わらずさくらはこなれている。

「んでも、わざわざかにめしにしないん?」

「え? 別に良くない?」

「いやいや、否定してるわけじゃねえよ」

 それはわかっている。

「それに、かにめしって有名だからさ、東京でも百貨店とかで売ってたりするじゃん? カニカレーはここでしか食べられないかなって」

「おお、出た出た。みずほのご当地主義」

「何よ。良いじゃん、別に」

「私はみずほさんのそういうところ、素敵だと思うわ」

「ほら。せめて、ひばりみたいな言い方してくんないかなー」

「悪かったな。愛想も遠慮もなくて」

 そう言いつつも、私は満足なのだ。また普段通りのやりとりをさくらとできているのだから。

 そうこうしているうちに、注文していた料理が到着した。さくらとひばりの前には「かにめし」。そして、私の前にはカニカレーだ。

 このカニカレー、見た目は中々ワイルドである。よくあるルーとライスを半々に分けたカレーライスの上にカニのほぐし身が乗っているのだ。ライスの上にまとめられたカニ身を混ぜ合わせながら食べれば良いのだろうか。

 では、早速いただきます。

 ご飯の壁を崩し、ルーと混ぜ合わせる。そして、そこにカニ身を乗せてっと……。それでは、食べてみよう。パクリ。

 おお、これは結構本格的なカレーなのかもしれない。ピリリとスパイスが効いたルーは、コクの深い味わいを感じさせる。じっくり作った証左だろう。そして、そこにカニの旨味エキスが重なって、新鮮な味わいが生み出されていた。

 カニのほぐし身は、「かにめし」にも使われているおなじみのもの。独自の製法が作り上げたふわふわのカニ身は、旨味が凝縮された香ばしさ漂わせる味わいだ。

 そこに加わるカレーの旨味。シーフードカレーはよく見る組み合わせだけど、カニとカレーって想像以上に合うものなんだ。これは頼んで正解だったかもしれない。

「結構美味しい、これ」

「へー、マジで?」

「うん。あったまる感じ、これ」

 この時期に食べるからこそ美味しいのかもしれない。外、めちゃくちゃ寒かったもん。

「みずほさん、一口いただいても良いかしら?」

「うん、良いよ」

 そう言って、ひばりが固まった。

「どうしたの?」

「……流石にお箸でカレーは食べられないわよね」

 そういえば。私のもとにはスプーンがあるけど、ひばりにはお箸しかないようだ。注文した品の特性上、仕方ないといえば仕方ないんだけど。

「使う? 私のスプーン」

「ありがとう!」

 受け取ったスプーンを使って手際よく食べるひばり。そういえば、彼女の家って洋風の豪邸だったもんね。銀食器の扱いには慣れているんだろう。物音一つ立てずに食べてしまった。

「本当だわ、美味しい」

 そんなひばりの肥えた舌でも満足だったようだ。

「今度うちでも試してみようかしら。ありがとう、みずほさん」

「ううん、全然」

 そう言って、スプーンを受け取って、再び食べ始めようと思った矢先。重大な事実に気付いてしまった。

 あれ……? 私、今ひばりと共用しようとしてる……? このスプーン……。

 ま、待て待て待て。ととと、ということは、だ! こここ、これって、つつつ、つまり……。

 か、間接……キ、キ、キッ……!

「みずほ」

 瞬間、対面の幼馴染みのジト目が刺さった。

「流石にそれは……気持ち悪いぞ」

「……わかってるよ」

 それは久しぶりに受けたさくらからの「気持ち悪い」攻撃だった。
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