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第26章 さくらの本音 at JR宇都宮線ヒガハス
さくらの本音⑤
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「私のこと、邪魔だと思ってるでしょ?」
ひばりのその言葉は、さくらの全身に電流を走らせるのに充分だった。
「いや、ちょっと待てよ。そ、そんなわけねえだろ? 私たち、友達だし……。現にこうして2人で写真撮りに来てるじゃんかよ!」
「ええ、そうね。私とさくらさんはお友達よ。大切なお友達。だけど、それはみずほさんが関わっていないときに限られるでしょう?」
ガタンガタンと列車の走る音が遠くから聞こえてくる。目の前には宇都宮線の線路が真っ直ぐ横たわっていた。
「さくらさんは、私とみずほさんが仲良くしているのが気にくわない。そうでしょう?」
「いや、そんなことは……」
「別に構わないのよ。今は私たち2人しかいないし。わざわざ、みずほさんに伝えようとも思わないわ」
目の前を15両編成の列車が通過する。風を切るように。
「ひばり……。いつからそう思ってた……?」
「烏山線の撮影に行ったときに、みずほさんと親しくなったでしょう? あの頃からかしらね」
まるで全てを見透かされているようだった。隣に座っている友人が、恐ろしい悪魔のようにさえ思えるほどだった。
「……そうだよ」
彼女の言っていることに誤りはない。その通りなのだ。
みずほはやたらひばりにデレデレしている。口を開けばひばりを賞賛するようなことばかり。まるで、ひばりを神聖な存在として崇めているようにさえ映る。
それが気にくわないのだ。自分以外に親しい友人なんていなかったはずなのに。自分以外との人付き合いすら苦手だったはずなのに。
なのに、なのに、なのに。
まるで自分から離れていくように、ひばりに吸い寄せられていく幼馴染みを見るのが我慢ならなかった。
確かに、みずほが雑誌で連載を持ったことに嫉妬していたのも事実だ。だが、キッカケはそれではなかった。みずほが自分から離れていってしまうのではないか。その危機感だった。
「あいつはさ、子供の頃からずっと私と一緒だったんだ。離ればなれになった時期もあったけど、大学に入ってから、昔みたいにまた一緒にいられてさ。それで良かったはずなのに。ひばりが現れたんだ。そこから全部変わったんだ」
これは自分勝手な感情だ。ひばりにぶつけるのは間違っている。しかし、止めることができなかった。
「ひばりがあいつを変えたんだ。あいつは変わっちまった。ひばりがみずほを奪ったんだよ! 私から!」
「……そう」
ひばりは冷静で、そして冷たかった。雪の女王のように。
「友達同士でそういう感情を持つことだってあるわ。さくらさんの気持ちを否定するつもりは全くない。それに、たとえそうでも、さくらさんは私のことを嫌ったりしないわよね?」
「そりゃあ……。友達だからな……」
そうなのだ。決してひばりのことが嫌いなわけではないのだ。彼女のことも友人だと思っている。だからこそ、ひばりに嫉妬する自分自身に嫌悪感さえ抱いている。
「何度も言うけど、その気持ちを否定する気はないわ。あなた自身も苦しんでいるでしょうし。それに、さくらさんがみずほさんのことを誰よりも大切に思っている証拠じゃない」
また遠くから列車の音が聞こえてきた。宇都宮線の運転間隔はかなりハイペースなのだ。
「だからこそ、みずほさんと仲直りすべきよ。そんなに大切な人を手放したりしないで。さくらさんの方から歩み寄るべきよ」
「うん……。わかってるよ……」
段々とガタンガタンという音が大きくなってきた。
「結局そこに戻るんだな」
「もちろん。さくらさんとみずほさんを仲直りさせたくて話してるんだもの」
やはり最初から目的はそれだったのか、と思った。回りくどいのか、ストレートなのか、本当によくわからない人だ。
「どこまで話すかは、さくらさんに任せるわ。少なくとも、私にみずほさんを奪られたと思ってることは言わないでおいてあげるから」
「あ、ああ……」
助かったと思った。他人からそんなこと暴露されたら、とても生きていられない。
「でも、忘れないでね。私はみずほさんと今まで通り仲良くさせてもらうわ。たとえ、さくらさんがどんな風に思おうとも、私は私の意思で誰と仲良くするかを決めるから」
また目の前を列車が通過した。木々がざわめいている。
「覚悟しておいてね」
「ははっ。まるで宣戦布告みたいだな」
「その通りよ」
「は?」
さくらを射抜くひばりの視線には、強い意志がこもっていた。
「私はみずほさんの一番のお友達になりたいの。だから、さくらさんとは仲間でライバルってところね」
たまげたものだ。それこそ生まれた頃からの幼馴染みであるさくらに、そんなことを堂々と言い放つのだから。
「受けて立つよ。やれるものならやってみな」
互いに笑顔を交わす。それは、友として交わしたものであると同時に、たたきつけられた挑戦状に受けて立つ姿を示すものでもあった。
―――
数日後、さくらはみずほに謝罪をした。みずほは怒ることも拒絶することもせず、ただたださくらの謝罪を受け入れた。久方ぶりにさくらとの仲が修繕されたみずほの様子は、どこか嬉しそうに映った。
だが、さくらは一つだけ、隠しごとをした。それは、みずほとひばりの仲に嫉妬していたこと。それだけは、さくら自身と、そしてひばりが、戦友として墓の下まで持っていく秘密となったのである。
ひばりのその言葉は、さくらの全身に電流を走らせるのに充分だった。
「いや、ちょっと待てよ。そ、そんなわけねえだろ? 私たち、友達だし……。現にこうして2人で写真撮りに来てるじゃんかよ!」
「ええ、そうね。私とさくらさんはお友達よ。大切なお友達。だけど、それはみずほさんが関わっていないときに限られるでしょう?」
ガタンガタンと列車の走る音が遠くから聞こえてくる。目の前には宇都宮線の線路が真っ直ぐ横たわっていた。
「さくらさんは、私とみずほさんが仲良くしているのが気にくわない。そうでしょう?」
「いや、そんなことは……」
「別に構わないのよ。今は私たち2人しかいないし。わざわざ、みずほさんに伝えようとも思わないわ」
目の前を15両編成の列車が通過する。風を切るように。
「ひばり……。いつからそう思ってた……?」
「烏山線の撮影に行ったときに、みずほさんと親しくなったでしょう? あの頃からかしらね」
まるで全てを見透かされているようだった。隣に座っている友人が、恐ろしい悪魔のようにさえ思えるほどだった。
「……そうだよ」
彼女の言っていることに誤りはない。その通りなのだ。
みずほはやたらひばりにデレデレしている。口を開けばひばりを賞賛するようなことばかり。まるで、ひばりを神聖な存在として崇めているようにさえ映る。
それが気にくわないのだ。自分以外に親しい友人なんていなかったはずなのに。自分以外との人付き合いすら苦手だったはずなのに。
なのに、なのに、なのに。
まるで自分から離れていくように、ひばりに吸い寄せられていく幼馴染みを見るのが我慢ならなかった。
確かに、みずほが雑誌で連載を持ったことに嫉妬していたのも事実だ。だが、キッカケはそれではなかった。みずほが自分から離れていってしまうのではないか。その危機感だった。
「あいつはさ、子供の頃からずっと私と一緒だったんだ。離ればなれになった時期もあったけど、大学に入ってから、昔みたいにまた一緒にいられてさ。それで良かったはずなのに。ひばりが現れたんだ。そこから全部変わったんだ」
これは自分勝手な感情だ。ひばりにぶつけるのは間違っている。しかし、止めることができなかった。
「ひばりがあいつを変えたんだ。あいつは変わっちまった。ひばりがみずほを奪ったんだよ! 私から!」
「……そう」
ひばりは冷静で、そして冷たかった。雪の女王のように。
「友達同士でそういう感情を持つことだってあるわ。さくらさんの気持ちを否定するつもりは全くない。それに、たとえそうでも、さくらさんは私のことを嫌ったりしないわよね?」
「そりゃあ……。友達だからな……」
そうなのだ。決してひばりのことが嫌いなわけではないのだ。彼女のことも友人だと思っている。だからこそ、ひばりに嫉妬する自分自身に嫌悪感さえ抱いている。
「何度も言うけど、その気持ちを否定する気はないわ。あなた自身も苦しんでいるでしょうし。それに、さくらさんがみずほさんのことを誰よりも大切に思っている証拠じゃない」
また遠くから列車の音が聞こえてきた。宇都宮線の運転間隔はかなりハイペースなのだ。
「だからこそ、みずほさんと仲直りすべきよ。そんなに大切な人を手放したりしないで。さくらさんの方から歩み寄るべきよ」
「うん……。わかってるよ……」
段々とガタンガタンという音が大きくなってきた。
「結局そこに戻るんだな」
「もちろん。さくらさんとみずほさんを仲直りさせたくて話してるんだもの」
やはり最初から目的はそれだったのか、と思った。回りくどいのか、ストレートなのか、本当によくわからない人だ。
「どこまで話すかは、さくらさんに任せるわ。少なくとも、私にみずほさんを奪られたと思ってることは言わないでおいてあげるから」
「あ、ああ……」
助かったと思った。他人からそんなこと暴露されたら、とても生きていられない。
「でも、忘れないでね。私はみずほさんと今まで通り仲良くさせてもらうわ。たとえ、さくらさんがどんな風に思おうとも、私は私の意思で誰と仲良くするかを決めるから」
また目の前を列車が通過した。木々がざわめいている。
「覚悟しておいてね」
「ははっ。まるで宣戦布告みたいだな」
「その通りよ」
「は?」
さくらを射抜くひばりの視線には、強い意志がこもっていた。
「私はみずほさんの一番のお友達になりたいの。だから、さくらさんとは仲間でライバルってところね」
たまげたものだ。それこそ生まれた頃からの幼馴染みであるさくらに、そんなことを堂々と言い放つのだから。
「受けて立つよ。やれるものならやってみな」
互いに笑顔を交わす。それは、友として交わしたものであると同時に、たたきつけられた挑戦状に受けて立つ姿を示すものでもあった。
―――
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だが、さくらは一つだけ、隠しごとをした。それは、みずほとひばりの仲に嫉妬していたこと。それだけは、さくら自身と、そしてひばりが、戦友として墓の下まで持っていく秘密となったのである。
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