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第26章 さくらの本音 at JR宇都宮線ヒガハス
さくらの本音③
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さくらにとって印象的だったのは、ひばりが子供のようにはしゃぎ続けたことだった。宇都宮線に普通列車が通っても、日光・鬼怒川方面へ向かう特急が通っても、貨物列車が通っても、同じように楽しげに写真を撮るのだ。
ひばりは英国の血が入っている。そのせいか、年齢以上に大人びて見えることもしばしばであった。
が、彼女の中身は子供のように無邪気なのだ。むしろ、子供そのものと言っても良いかもしれない。そのギャップが彼女の魅力なのだろうと改めて感じ入るほどであった。
1時間ほど撮影を続けて、一旦休憩を取ることにした。
「まあ、これさくらさんが作ったの?」
「ううん。お母さんだよ」
車のシートを倒したさくらは、お弁当箱を広げた。まるでピクニックのようだ。
並べた昼食はさくらの母親が作って持たせてくれた物。昔から父親と出かける時も、こうしてお弁当を持たせてもらったことがある。ふと、そのときのことを思い出した。
あの時は本当に幼かった。純粋に鉄道が好きで、そしてどこかに出かけられることが楽しくてしょうがなかった。隣にはいつもみずほがいた。
「さくらさん?」
「え?」
「怖い顔してるわよ?」
「えっ、そうか? ははは、どれから食おうか迷ってさ」
おにぎりにかぶりつくひばりの姿は新鮮だった。何しろ、彼女の見た目は欧米人そのものだ。その邸宅も完全に洋風建築であったことは記憶にも新しい。やはり、彼女にはパンやサンドウィッチなどの類いが似合っているのだ。
それに、パン食だということも以前に話していた。それでも、おにぎりを美味しい美味しいと喜んで食べている。やはり、魂は日本人なのだと再認識させられる光景であった。
「そいや、成果はどんな感じ? 写真の?」
「ええ。順調よ」
ウェットティッシュで手を拭いてから、傍らの一眼レフを取り上げた。とてもお嬢様の行動とは思えないような行儀の悪さなのだが、ここはさくらと2人きりの空間だ、あえて何も言うまい。
「やっぱりこの辺は編成が長いから収めるのが大変ね。最初は苦労したわ」
E231系の写真が表示される。宇都宮線、及び首都圏近郊路線の主力車両だ。宇都宮線の旅客列車は、基本的に10両ないし15両で運転される。そのせいか、最初の写真はお尻が切れてしまっていた。
「だから、レンズの使い方、構図の取り方、シャッターを切るタイミング。色々試行錯誤してみたわ。そうしたら、段々良くなってきたの」
最後の方に見せてくれた写真は、編成が全て収まっていた。しかも、15両編成だ。流石ひばりである。鉄道写真における修正力はお見事だ。
「そうしたら、貨物にも応用できたのよ」
続いて、貨物列車の写真。長大な貨物列車を1枚の写真に収めきっている。
「へー、すげえじゃん。私なんて全然だよ」
「あら。じゃあ、私が教えてあげるわ」
「えー、悪いって」
「そんなことないわよ。さくらさんにも納得いく写真撮ってほしいもの」
ひばりと話していると、彼女のペースに飲み込まれてしまうときがある。それは不思議な感覚だった。みずほとの会話なら、絶対に起こりえないことだ。
(みずほ……?)
ふと浮かんだ幼馴染みの名前をかき消すように、さくらはかぶりを振った。
「さくらさん?」
「ああ、ちょっと前髪が邪魔だなって。まあ、良いや。それより、折角だから指南よろしく」
「任せて!」
昼下がりの時間は続いていく。時間が止まっているような錯覚を打ち消すように、宇都宮線の普通列車が通り過ぎていった。
ひばりは英国の血が入っている。そのせいか、年齢以上に大人びて見えることもしばしばであった。
が、彼女の中身は子供のように無邪気なのだ。むしろ、子供そのものと言っても良いかもしれない。そのギャップが彼女の魅力なのだろうと改めて感じ入るほどであった。
1時間ほど撮影を続けて、一旦休憩を取ることにした。
「まあ、これさくらさんが作ったの?」
「ううん。お母さんだよ」
車のシートを倒したさくらは、お弁当箱を広げた。まるでピクニックのようだ。
並べた昼食はさくらの母親が作って持たせてくれた物。昔から父親と出かける時も、こうしてお弁当を持たせてもらったことがある。ふと、そのときのことを思い出した。
あの時は本当に幼かった。純粋に鉄道が好きで、そしてどこかに出かけられることが楽しくてしょうがなかった。隣にはいつもみずほがいた。
「さくらさん?」
「え?」
「怖い顔してるわよ?」
「えっ、そうか? ははは、どれから食おうか迷ってさ」
おにぎりにかぶりつくひばりの姿は新鮮だった。何しろ、彼女の見た目は欧米人そのものだ。その邸宅も完全に洋風建築であったことは記憶にも新しい。やはり、彼女にはパンやサンドウィッチなどの類いが似合っているのだ。
それに、パン食だということも以前に話していた。それでも、おにぎりを美味しい美味しいと喜んで食べている。やはり、魂は日本人なのだと再認識させられる光景であった。
「そいや、成果はどんな感じ? 写真の?」
「ええ。順調よ」
ウェットティッシュで手を拭いてから、傍らの一眼レフを取り上げた。とてもお嬢様の行動とは思えないような行儀の悪さなのだが、ここはさくらと2人きりの空間だ、あえて何も言うまい。
「やっぱりこの辺は編成が長いから収めるのが大変ね。最初は苦労したわ」
E231系の写真が表示される。宇都宮線、及び首都圏近郊路線の主力車両だ。宇都宮線の旅客列車は、基本的に10両ないし15両で運転される。そのせいか、最初の写真はお尻が切れてしまっていた。
「だから、レンズの使い方、構図の取り方、シャッターを切るタイミング。色々試行錯誤してみたわ。そうしたら、段々良くなってきたの」
最後の方に見せてくれた写真は、編成が全て収まっていた。しかも、15両編成だ。流石ひばりである。鉄道写真における修正力はお見事だ。
「そうしたら、貨物にも応用できたのよ」
続いて、貨物列車の写真。長大な貨物列車を1枚の写真に収めきっている。
「へー、すげえじゃん。私なんて全然だよ」
「あら。じゃあ、私が教えてあげるわ」
「えー、悪いって」
「そんなことないわよ。さくらさんにも納得いく写真撮ってほしいもの」
ひばりと話していると、彼女のペースに飲み込まれてしまうときがある。それは不思議な感覚だった。みずほとの会話なら、絶対に起こりえないことだ。
(みずほ……?)
ふと浮かんだ幼馴染みの名前をかき消すように、さくらはかぶりを振った。
「さくらさん?」
「ああ、ちょっと前髪が邪魔だなって。まあ、良いや。それより、折角だから指南よろしく」
「任せて!」
昼下がりの時間は続いていく。時間が止まっているような錯覚を打ち消すように、宇都宮線の普通列車が通り過ぎていった。
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