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第24章 クリスマスとコミケと試験勉強
クリスマスとコミケと試験勉強⑥
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あっという間に年が明け、冬休みが終わった。冬休みが明けると大学生は忙しくなる。何故なら、期末試験が目の前に迫ってくるからだ。
大学は2月以降、入試のために学生の出入りができなくなる。そのため、2ヶ月ほどの長い春休みがやってくるのだ。その春休みを優雅にすごせるか、憂鬱に過ごすことになるのかは、この期末試験の出来にかかっている。
というわけで、私とひばりはラウンジで試験勉強に励んでいた。専攻は異なるものの、学部は同じということもあって、共通して履修している科目が多い。共に試験勉強をするにはうってつけの相手なのだ。
そういえば、最初のひばりの認識も、ドイツ語のクラスが同じ人、だったっけ。
「みずほさん、ここの活用間違ってるわよ」
ひばりからの容赦ない指摘が飛んでくる。
「えっ、マジで?」
「ええ。それとこの冠詞と代名詞も間違えてるわ。ネコは女性名詞よ」
ドイツ語って本当にめんどくさい。難しいというよりも、ひたすらめんどくさいのだ。格変化とか、色々覚えないといけないことが多すぎる。
「あー、難しいよー」
「頑張って、みずほさん。ドイツ語の文法の基本は英語とあまり変わらないの。だから、基礎さえ覚えてしまえば大丈夫よ」
それは英語の堪能なひばりだから言えることじゃないか。いいよなー、おばあちゃんがイギリスの人だなんて。年末年始も、コミケ後すぐに飛行機に乗って、イギリスで過ごしたそうじゃないか。
ああ、羨ましい。私なんて、実家から一歩も出ていないというのに。
「迷った時は例文に立ち返ると良いのよ。例えば、イッヒ リーベ ディッヒ」
ぽかーん。え、何?
「リピートアフターミー。イッヒ リーベ ディッヒ」
「イ、イッヒ リーベ ディッヒ」
「はい、意味は?」
「愛してる、でしょ?」
「そう。これはアイラブユーが文法上そのままの形で残ってるの。イッヒは英語で言うアイ、一人称を意味する言葉ね。それの主格だから──」
「ああ、もう、わかったわかったから! ちゃんと覚えますから!」
想像以上にひばりの教え方はスパルタなのだ。頼む人、間違えた気がする。とはいえ、他に頼める人もいないしなぁ。少なくとも彼女が家庭教師などの仕事をしていなくて良かったと思う。
そういえば……。家庭教師といえば、さくらがやっていたなぁ。うーん、でもあいつを呼んでもなぁ。そもそも学部違うし。やっぱり、同じ講義を受けた者同士で勉強しあうから意味があるのだと思う。
「ほら、みずほさん。再開よ」
「うわーん。ひばりの鬼ー」
やっぱり彼女はスパルタだ。だけど、外国語の勉強において、彼女ほど頼れる人物はいない。それもまた事実なのだ。
仕方ない。やるしかないのだ、やるしか。単位落とそうものなら来年度が地獄だ。必修再履だけは勘弁願いたい。ああ、頑張らないと。
「みずほ……?」
「え?」
ふと、聞き覚えのある声が飛んできた。視線を送ると、何ということはない、さくらだった。こいつのことをちょっとばかし思い浮かべていたからだろうか。偶然とは怖い。
「お前……何してんの……?」
「何って、見ての通り試験勉強だけど?」
「試験勉強……?」
私とひばりを交互に見やる。普段より顔が怖い。まるで睨んでいるような。一体、どうしたのだろうか。
「ひばりと2人で……?」
「うん。そうだけど?」
「なんで……?」
なんで? なんでって、どういうこと?
「なんで、ひばりと2人きりでやってんだよ……?」
「えっ?」
そんなこと言われたって。学部が同じだから、としか。
「私に連絡くらい入れてくれたって良いだろ?」
「れ、連絡?」
連絡ってなんで? わざわざ? 試験勉強するだけなのに?
「いや、だって、さくらに連絡入れたってどうしようもないじゃん。そもそも、学部違うんだし──」
「どうしようもないって何だよ!」
突然、さくらが声量が最大級に跳ね上がった。瞬間、周囲の視線は一斉に私たちを向く。
彼女が声を荒げるなんて珍しい。幼少期からの付き合いだが、こんな姿は初めて見た。
「ちょ、さくら、どうしたの? ちょっと落ち着こうよ」
彼女の肩に手を伸ばそうとして
「これが落ち着いていられるかよ!」
乱暴に払われた。
待って。怒ってる? なんで? 私、何か悪いことした?
さくらを呼ばずに試験勉強したから? でも、学部が違うんだし、一緒にやれることなんて無いって、さくらだってわかるはずじゃん。どうして? おかしいよ。
なんで? わからない。さくらのことがわからない。一体、何が彼女の琴線に触れたというのだろう。
「さくら……?」
「……ごめん。次の講義あるから」
そう言って、彼女は早足で姿を消した。あとには、一瞬の静寂が残され、徐々にざわめきが湧き上がった。
「な、何だったんだろう……。ねえ、ひばり。さくら、どうしちゃったんだろうね。ひばり? ひばり……?」
ひばりは私の問いに答えなかった。ただ、さくらが立ち去った方角をじっと見つめていたのであった。
大学は2月以降、入試のために学生の出入りができなくなる。そのため、2ヶ月ほどの長い春休みがやってくるのだ。その春休みを優雅にすごせるか、憂鬱に過ごすことになるのかは、この期末試験の出来にかかっている。
というわけで、私とひばりはラウンジで試験勉強に励んでいた。専攻は異なるものの、学部は同じということもあって、共通して履修している科目が多い。共に試験勉強をするにはうってつけの相手なのだ。
そういえば、最初のひばりの認識も、ドイツ語のクラスが同じ人、だったっけ。
「みずほさん、ここの活用間違ってるわよ」
ひばりからの容赦ない指摘が飛んでくる。
「えっ、マジで?」
「ええ。それとこの冠詞と代名詞も間違えてるわ。ネコは女性名詞よ」
ドイツ語って本当にめんどくさい。難しいというよりも、ひたすらめんどくさいのだ。格変化とか、色々覚えないといけないことが多すぎる。
「あー、難しいよー」
「頑張って、みずほさん。ドイツ語の文法の基本は英語とあまり変わらないの。だから、基礎さえ覚えてしまえば大丈夫よ」
それは英語の堪能なひばりだから言えることじゃないか。いいよなー、おばあちゃんがイギリスの人だなんて。年末年始も、コミケ後すぐに飛行機に乗って、イギリスで過ごしたそうじゃないか。
ああ、羨ましい。私なんて、実家から一歩も出ていないというのに。
「迷った時は例文に立ち返ると良いのよ。例えば、イッヒ リーベ ディッヒ」
ぽかーん。え、何?
「リピートアフターミー。イッヒ リーベ ディッヒ」
「イ、イッヒ リーベ ディッヒ」
「はい、意味は?」
「愛してる、でしょ?」
「そう。これはアイラブユーが文法上そのままの形で残ってるの。イッヒは英語で言うアイ、一人称を意味する言葉ね。それの主格だから──」
「ああ、もう、わかったわかったから! ちゃんと覚えますから!」
想像以上にひばりの教え方はスパルタなのだ。頼む人、間違えた気がする。とはいえ、他に頼める人もいないしなぁ。少なくとも彼女が家庭教師などの仕事をしていなくて良かったと思う。
そういえば……。家庭教師といえば、さくらがやっていたなぁ。うーん、でもあいつを呼んでもなぁ。そもそも学部違うし。やっぱり、同じ講義を受けた者同士で勉強しあうから意味があるのだと思う。
「ほら、みずほさん。再開よ」
「うわーん。ひばりの鬼ー」
やっぱり彼女はスパルタだ。だけど、外国語の勉強において、彼女ほど頼れる人物はいない。それもまた事実なのだ。
仕方ない。やるしかないのだ、やるしか。単位落とそうものなら来年度が地獄だ。必修再履だけは勘弁願いたい。ああ、頑張らないと。
「みずほ……?」
「え?」
ふと、聞き覚えのある声が飛んできた。視線を送ると、何ということはない、さくらだった。こいつのことをちょっとばかし思い浮かべていたからだろうか。偶然とは怖い。
「お前……何してんの……?」
「何って、見ての通り試験勉強だけど?」
「試験勉強……?」
私とひばりを交互に見やる。普段より顔が怖い。まるで睨んでいるような。一体、どうしたのだろうか。
「ひばりと2人で……?」
「うん。そうだけど?」
「なんで……?」
なんで? なんでって、どういうこと?
「なんで、ひばりと2人きりでやってんだよ……?」
「えっ?」
そんなこと言われたって。学部が同じだから、としか。
「私に連絡くらい入れてくれたって良いだろ?」
「れ、連絡?」
連絡ってなんで? わざわざ? 試験勉強するだけなのに?
「いや、だって、さくらに連絡入れたってどうしようもないじゃん。そもそも、学部違うんだし──」
「どうしようもないって何だよ!」
突然、さくらが声量が最大級に跳ね上がった。瞬間、周囲の視線は一斉に私たちを向く。
彼女が声を荒げるなんて珍しい。幼少期からの付き合いだが、こんな姿は初めて見た。
「ちょ、さくら、どうしたの? ちょっと落ち着こうよ」
彼女の肩に手を伸ばそうとして
「これが落ち着いていられるかよ!」
乱暴に払われた。
待って。怒ってる? なんで? 私、何か悪いことした?
さくらを呼ばずに試験勉強したから? でも、学部が違うんだし、一緒にやれることなんて無いって、さくらだってわかるはずじゃん。どうして? おかしいよ。
なんで? わからない。さくらのことがわからない。一体、何が彼女の琴線に触れたというのだろう。
「さくら……?」
「……ごめん。次の講義あるから」
そう言って、彼女は早足で姿を消した。あとには、一瞬の静寂が残され、徐々にざわめきが湧き上がった。
「な、何だったんだろう……。ねえ、ひばり。さくら、どうしちゃったんだろうね。ひばり? ひばり……?」
ひばりは私の問いに答えなかった。ただ、さくらが立ち去った方角をじっと見つめていたのであった。
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