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第23章 来て見て発見天浜線 at 天竜浜名湖鉄道天竜浜名湖線

来て見て発見天浜線⑤

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 浜名湖佐久米を後にした私たちは、掛川方面へ向かう列車に乗り込んだ。午前中に辿ってきたルートを戻る形でたどり着いたのは、天竜二俣駅。天浜線の車庫がある駅だ。

 ここで降りたのには理由がある。実は天浜線の車庫は誰であっても見学が可能なのだ。毎日最低1回は車庫見学ツアーが催されている。私たちはそれに参加するのだ。

 窓口で見学用の入場券を購入。やや待つと、担当者であろう女性社員さんが現れた。

「それでは、天浜線車庫見学ツアーの皆様、ご案内いたします」

 改札口を通って駅構内へ。構内踏切を渡って線路を横断しきると、関係者以外立ち入り禁止の鎖を外して駅の反対側へと抜ける。本来立ち入れない場所を通るこの感覚。ちょっとわくわくする。

「皆様本日は、見学ツアーにご参加いただき誠にありがとうございます。本日皆様をご案内いたします、営業部の我孫子あびこと申します。よろしくお願いします」

 ガイドさんの自己紹介が入った。

「まず初めにご紹介しますのは、駅舎とホームでございます。当駅の駅舎は昭和15年、1940年に築造された木造の駅舎です。なぜ木造なのかと申しますと、当時は戦時中で鉄などが徴用されてしまい、使用できなかったことが挙げられます。また、当駅がございます浜松市天竜区が、天竜材という木材の産地だったことも由来しております。こちらの駅舎、及び上下両プラットホームと上屋は全て国の登録有形文化財に指定されております」

 説明を聞きながら、ふと、見学ツアーの面々を見やる。私たち含めて10名ほど。親子連れが1組と、後は年齢もバラバラの男性陣お一人様連中だけだ。

 こういうのに限らず、鉄道趣味は子供や男性が多いので、こんな感じの構成になることは往々にしてある。むしろ、若い女性3人組がいる状況の方が珍しいのだ。まあ、あんまり気にしないけど。楽しめればそれで良いのだ。

「それでは皆様、ご案内いたします」

 線路沿いのフェンスに沿って進んでいく。この辺りはまだ公道だ。民家も建ち並んでいる。

 数分ほど経ったところでガイドの我孫子さんが立ち止まった。

「こちら当駅の高架貯水槽となります」

 コンクリート造りのかめが6本の脚に支えられて宙に浮いてるような構造物だ。

「こちらの貯水槽は、かつて天浜線、当時の国鉄二俣線に蒸気機関車が走っていた際、補給用の水を貯めていたものになります。蒸気機関車は、石炭を燃やした熱で水を沸騰させ、その蒸気によって動いておりました。そのため、水の補給は必要不可欠なものです。その水の補給を当駅で行っていたということですね」

 ゆっくりと近づいていく。足元から見ると、見上げた首が痛くなりそうな程大きかった。

「こちらの水槽には約70トンの水が貯められたそうです。この高架貯水槽は国の登録有形文化財にも指定されています。高架貯水槽は線内にもう1つ、金指かなさし駅にも残されています。そちらも、国の登録有形文化財に指定されております。お時間ございましたら、是非金指駅の物もご覧ください」

 そういえば、金指にも同じ構造物があったっけ。昨日行ったときにチラッと見た覚えがある。

「それでは、これより運転区内にご案内いたします」

 貯水槽の側に入り口があるようだ。そこから列を成して入場。いよいよ、車庫の中へと入っていくのだ。

 運転区内へと足を踏み入れると、まずは木造の二棟の間を通っていく。

「こちら左手に見えますのが、天浜線の運転区でございます。事務室と休憩所が入っております。そして、右手の建物には、蒸気機関車時代の名残がございます。それがこちらの浴場です」

 窓が開いていてのぞき込めるようになっている。中は確かに広めの浴場となっていた。タイル張りの室内は、中央に長方形の浴槽が掘り込まれた形で設置されている。そして、室内は無数のヘッドマークで埋め尽くされていた。

「こちらの浴場で、機関士の方々は、体についたすすなどを落としておりました。現在は使われておりませんが、ご覧のように歴代のヘッドマークを展示しております」

 国鉄時代のものや、今は無きトロッコ列車のものまで、非常に貴重な資料と言えよう。

「ちょいちょいちょい。みずほ、どいて。私も撮りたい」

「ああ、ごめんごめん」

 さくらに場所を譲る。ふと背後を見ると、順番待ちのような形で見学者が並んでいた。あまりここに滞留するのは良くなさそうだ。写真も撮ったことだし、ガイドの我孫子さんの側まで移動しよう。

「こんにちは。鉄道お好きなんですか?」

「え? ああ、はい。まあ」

 驚いたことに我孫子さんの方から声をかけてきた。丁寧な語り口が特徴的だったが、思ったより気さくな方なのだろうか。

「女性のお客様だけのグループって珍しいんですよ。私も少し気合いが入ります」

「そ、そうなんですか」

 我孫子さんの愛想の良い笑顔が心地良い。不思議と緊張もほぐれてきそうだ。珍しく自分から会話を続けてしまう。

「てっきり運転区の方とか整備担当の方とかが案内してくれるものだと思ってました」

「そうですね、大きい会社さんでしたらそういうことも可能なんですけども。うちは小さな地方私鉄ですので。現場の方を案内に回してしまうと、どうしても手が回らなくなってしまうこともありまして。営業部の私が代わりに務めさせていただいております」

 ああ、そういう事情もあるのか。銚子電鉄ちょうしでんてつの車庫見学のときも案内の人いなかったけど、やっぱりどこの地方私鉄も大変なんだなぁ。

「そうなんですね。私、絶対何かグッズ買いますね! 少しでも売上に貢献します!」

「ありがとうございます! 駅舎にお土産売り場がございますので、是非!」

 そう言って、私の背後に目を向けた。どうやら全員見学を終えたようだ。

「それでは、転車台までご案内いたします」

 見学ツアーの再開である。
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