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第23章 来て見て発見天浜線 at 天竜浜名湖鉄道天竜浜名湖線
来て見て発見天浜線④
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午前11時。その約5分前を目安に私たちは移動した。先ほど名前を書いた、うなぎ料理のお店だ。
浜松といえば浜名湖のうなぎ。浜名湖を目の前に臨める場所までやってきて、うなぎを食べないなんてもったいないのだ。というわけで、この地域では有名だという名店へと足を運んだ次第である。
お店の前まで行くと、既に待機しているグループが何組もいた。さくらが記名した後にも何組かやってきていたらしい。彼女の判断は正解だったわけだ。
「御法川様ー」
「はーい」
無事に呼ばれた私たちは店内へと案内される。お店の中はそんなに大きい作りにはなっていないようだ。カウンター席が4つと、座敷席が2組ほど。なるほど、確かにこれは早めに来ておいて正解だった。
ふと、店の前を覗くと、既に待機列ができあがっている。さくらの判断が遅ければ、寒い中並ばされてるところだった。あいつに感謝しなきゃ。それに、このお店が人気店であることも嫌というほど伝わってくる。
というわけで、3人で座敷席に腰を下ろす。さてさて、注文をっと……。
「えっ?」
お品書きのあまりのシンプルさに思わず声を漏らしてしまった。というのも、このお店、なんとうな重しかないのだ。それだけ自信があるということの裏付けだろうか。
「げっ!?」
そして、そのお値段である。小が1900円、中が3100円、大が4100円……!? た、高い! 高級店じゃないか、ここ! いやいや、一介の大学生がポンと出せる金額じゃないだろ、これ!
「さ、さくら……」
発起人のさくらも顔を青ざめている。
「高いな、これ……」
「ちょいちょい! ここ来ようって言ったの、さくらでしょ!」
「そうだけどさ! いや、有名店だって聞いたから行ってみたいなって思ったんだけど……。想像以上のお値段だったな……」
事前にリサーチしとけ! そのくらい!
「大丈夫よ、お2人とも」
一方でひばりは余裕の笑みを浮かべている。そうだよね、お嬢様ならこのぐらいどうってことないよね。
「あのね、お友達と一緒にお泊まりするって言ったらね、パパがたっくさんお小遣いくれたの!」
「お、お小遣い?」
ひばりのお父さんは、青葉グループという世界的に有名なお菓子メーカーの会長さんだ。その人が娘に出すお小遣いって、一体いくらくらいなんだろう……。いや、想像するのはやめておこう。たぶん、パッと浮かんだ額より一桁くらい額面が違うかもしれない。
「だから、大3人分くらい頼んでも全然問題ないわよ」
つまり、ここはひばりが持つってこと?
「いやいや、悪いよ、そんなの。ひばりにたかってるみたいで申し訳ないし」
「全然平気よ。ほら、お2人にはいつもお世話になってるから。私からのささやかな恩返しっていうことで、どうかしら?」
お、恩返し?
「どうする、さくら?」
「うーん。ひばりがそこまで言うなら良いんじゃね?」
えっ、良いの!? なんかお金で友達買ってるみたいで私は嫌なんだけど。
「ひばりだって、私たちの懐事情考えて助け船出してくれたんだろ? 人の好意を無下にするのもどうかと思うぜ?」
うーん、それもそうなのだが。でも、友人関係にお金持ち出すのはあまり好きじゃないんだよなぁ。私の個人的な感覚かもしれないけど。
あっ、そうだ。1つ、思いついた。
「バイト代入ったらちゃんと返すから。ここはお願いします」
「もう、そんなこと気にする必要ないのに。でも、みずほさんらしくて私は好きよ」
これで1つの結論を見た。うな重大3人分。ひばりに全額持ってもらって、後でバイト代入ったら返します。これでオッケー。
「さくらもちゃんと返しなよ」
「いや、私もかよ!?」
奢られる気満々だったのか、お前! 仕方ないやつだな、全く。
「みずほさん、みずほさん」
小さく肩を叩かれる。何だろう?
「ちょっと見てみない?」
カウンターの向こうを指さしている。そこは調理場になっていた。板前さんたちが忙しなく動いている。なるほど、うなぎを捌いているところを見たいのか。
「行ってみよっか」
カウンターのお客さんの邪魔にならないように調理場を覗き込んだ。そこで展開されていたのは、まさに職人芸だった。
ぬるぬるとしたうなぎを、まるで滑ることなくまな板の上へ載せていく。まな板には穴が穿たれており、そこにうなぎの頭を乗せ、釘のようなものを打ち込むのだ。これでうなぎを固定するらしい。そして、迷いない手さばきで首を切り落とし、素早い手付きで骨と身を分離していった。
ものの数分でうなぎ1匹を簡単に捌いていく。その手腕たるや、最早芸術品の域だった。
昔、縁日でうなぎの掴み取りをやったことがある。ぬるぬるしていて、まるで捕まえることができなかった。そんなうなぎをいとも簡単に……。感動のあまり、呼吸を忘れるほどだった。
そうして捌かれ焼かれたうなぎは、うな重となって私たちの前へとやってきた。贅沢に1匹半を使ったうな重大である。
ひばりのおかげで食べられるのだ。感謝の気持ちを忘れずに、いただきます。
まずは、うなぎの身にかぶりつこう。持ち上げた瞬間に香ばしい匂いが鼻腔をくすぐった。焼きたてって感じ。
そういえば、焼きたてのうなぎって食べるの初めてかもしれない。スーパーとかで売ってるものって、既に焼かれてあるものがほとんどだからね。
ではでは一口、パクリっと。
うーん、肉厚。身が引き締まっている。ジューシーでふかふかだ。そして、焼きたての香ばしい匂いが口いっぱいに広がっていく。これが焼きたてのうなぎの味か。こんなに香ばしいんだ。
すかさずご飯を含む。秘伝のタレがうなぎとごはんにまんべんなくかかっていて美味しい。しょっぱすぎることなく、うなぎとご飯が持つ素材本来の旨味を引き出すような良い塩梅だ。これは抜群の相性。バランスが計算しつくされている。
たまらずもう一口。今度はパリッとした食感がアクセントとして加わった。香ばしさも増す。
これは皮だ。焼きたてだからこそ、うなぎの皮がパリパリなんだ。うなぎを食べてこんな食感と味わいに出会ったのは間違いなく初めてだ。これが焼きたてのうなぎ本来の味なんだ。
こんなに美味しいうなぎ、人生で食べたことない。今まで食べたうなぎの中で一番美味しい味だ。こんなもの食べてしまったら、もうスーパーとかで売っているやつなんかとても食べられないかもしれない。贅沢な悩みだけど。
ふと、さくらとひばりを見やる。2人とも、焼きたてのうなぎの味わいに驚きを隠せないようだ。その中に垣間見える至福の表情。
そうそう、これだよ。美味しいものを食べて、幸せを感じるこの瞬間。これを共有できる人がいるって、すごく幸せなことなんだ。
たぶん、今日食べたうなぎの味は、私たちの中にずっと刻まれることだろう。でも、味覚だけじゃない。この幸福感もまた、共通の思い出として私たちの中に残り続けるんだ。
それをこの2人と共有できることが、今の私にとって、何よりも嬉しい瞬間なのだ。
浜松といえば浜名湖のうなぎ。浜名湖を目の前に臨める場所までやってきて、うなぎを食べないなんてもったいないのだ。というわけで、この地域では有名だという名店へと足を運んだ次第である。
お店の前まで行くと、既に待機しているグループが何組もいた。さくらが記名した後にも何組かやってきていたらしい。彼女の判断は正解だったわけだ。
「御法川様ー」
「はーい」
無事に呼ばれた私たちは店内へと案内される。お店の中はそんなに大きい作りにはなっていないようだ。カウンター席が4つと、座敷席が2組ほど。なるほど、確かにこれは早めに来ておいて正解だった。
ふと、店の前を覗くと、既に待機列ができあがっている。さくらの判断が遅ければ、寒い中並ばされてるところだった。あいつに感謝しなきゃ。それに、このお店が人気店であることも嫌というほど伝わってくる。
というわけで、3人で座敷席に腰を下ろす。さてさて、注文をっと……。
「えっ?」
お品書きのあまりのシンプルさに思わず声を漏らしてしまった。というのも、このお店、なんとうな重しかないのだ。それだけ自信があるということの裏付けだろうか。
「げっ!?」
そして、そのお値段である。小が1900円、中が3100円、大が4100円……!? た、高い! 高級店じゃないか、ここ! いやいや、一介の大学生がポンと出せる金額じゃないだろ、これ!
「さ、さくら……」
発起人のさくらも顔を青ざめている。
「高いな、これ……」
「ちょいちょい! ここ来ようって言ったの、さくらでしょ!」
「そうだけどさ! いや、有名店だって聞いたから行ってみたいなって思ったんだけど……。想像以上のお値段だったな……」
事前にリサーチしとけ! そのくらい!
「大丈夫よ、お2人とも」
一方でひばりは余裕の笑みを浮かべている。そうだよね、お嬢様ならこのぐらいどうってことないよね。
「あのね、お友達と一緒にお泊まりするって言ったらね、パパがたっくさんお小遣いくれたの!」
「お、お小遣い?」
ひばりのお父さんは、青葉グループという世界的に有名なお菓子メーカーの会長さんだ。その人が娘に出すお小遣いって、一体いくらくらいなんだろう……。いや、想像するのはやめておこう。たぶん、パッと浮かんだ額より一桁くらい額面が違うかもしれない。
「だから、大3人分くらい頼んでも全然問題ないわよ」
つまり、ここはひばりが持つってこと?
「いやいや、悪いよ、そんなの。ひばりにたかってるみたいで申し訳ないし」
「全然平気よ。ほら、お2人にはいつもお世話になってるから。私からのささやかな恩返しっていうことで、どうかしら?」
お、恩返し?
「どうする、さくら?」
「うーん。ひばりがそこまで言うなら良いんじゃね?」
えっ、良いの!? なんかお金で友達買ってるみたいで私は嫌なんだけど。
「ひばりだって、私たちの懐事情考えて助け船出してくれたんだろ? 人の好意を無下にするのもどうかと思うぜ?」
うーん、それもそうなのだが。でも、友人関係にお金持ち出すのはあまり好きじゃないんだよなぁ。私の個人的な感覚かもしれないけど。
あっ、そうだ。1つ、思いついた。
「バイト代入ったらちゃんと返すから。ここはお願いします」
「もう、そんなこと気にする必要ないのに。でも、みずほさんらしくて私は好きよ」
これで1つの結論を見た。うな重大3人分。ひばりに全額持ってもらって、後でバイト代入ったら返します。これでオッケー。
「さくらもちゃんと返しなよ」
「いや、私もかよ!?」
奢られる気満々だったのか、お前! 仕方ないやつだな、全く。
「みずほさん、みずほさん」
小さく肩を叩かれる。何だろう?
「ちょっと見てみない?」
カウンターの向こうを指さしている。そこは調理場になっていた。板前さんたちが忙しなく動いている。なるほど、うなぎを捌いているところを見たいのか。
「行ってみよっか」
カウンターのお客さんの邪魔にならないように調理場を覗き込んだ。そこで展開されていたのは、まさに職人芸だった。
ぬるぬるとしたうなぎを、まるで滑ることなくまな板の上へ載せていく。まな板には穴が穿たれており、そこにうなぎの頭を乗せ、釘のようなものを打ち込むのだ。これでうなぎを固定するらしい。そして、迷いない手さばきで首を切り落とし、素早い手付きで骨と身を分離していった。
ものの数分でうなぎ1匹を簡単に捌いていく。その手腕たるや、最早芸術品の域だった。
昔、縁日でうなぎの掴み取りをやったことがある。ぬるぬるしていて、まるで捕まえることができなかった。そんなうなぎをいとも簡単に……。感動のあまり、呼吸を忘れるほどだった。
そうして捌かれ焼かれたうなぎは、うな重となって私たちの前へとやってきた。贅沢に1匹半を使ったうな重大である。
ひばりのおかげで食べられるのだ。感謝の気持ちを忘れずに、いただきます。
まずは、うなぎの身にかぶりつこう。持ち上げた瞬間に香ばしい匂いが鼻腔をくすぐった。焼きたてって感じ。
そういえば、焼きたてのうなぎって食べるの初めてかもしれない。スーパーとかで売ってるものって、既に焼かれてあるものがほとんどだからね。
ではでは一口、パクリっと。
うーん、肉厚。身が引き締まっている。ジューシーでふかふかだ。そして、焼きたての香ばしい匂いが口いっぱいに広がっていく。これが焼きたてのうなぎの味か。こんなに香ばしいんだ。
すかさずご飯を含む。秘伝のタレがうなぎとごはんにまんべんなくかかっていて美味しい。しょっぱすぎることなく、うなぎとご飯が持つ素材本来の旨味を引き出すような良い塩梅だ。これは抜群の相性。バランスが計算しつくされている。
たまらずもう一口。今度はパリッとした食感がアクセントとして加わった。香ばしさも増す。
これは皮だ。焼きたてだからこそ、うなぎの皮がパリパリなんだ。うなぎを食べてこんな食感と味わいに出会ったのは間違いなく初めてだ。これが焼きたてのうなぎ本来の味なんだ。
こんなに美味しいうなぎ、人生で食べたことない。今まで食べたうなぎの中で一番美味しい味だ。こんなもの食べてしまったら、もうスーパーとかで売っているやつなんかとても食べられないかもしれない。贅沢な悩みだけど。
ふと、さくらとひばりを見やる。2人とも、焼きたてのうなぎの味わいに驚きを隠せないようだ。その中に垣間見える至福の表情。
そうそう、これだよ。美味しいものを食べて、幸せを感じるこの瞬間。これを共有できる人がいるって、すごく幸せなことなんだ。
たぶん、今日食べたうなぎの味は、私たちの中にずっと刻まれることだろう。でも、味覚だけじゃない。この幸福感もまた、共通の思い出として私たちの中に残り続けるんだ。
それをこの2人と共有できることが、今の私にとって、何よりも嬉しい瞬間なのだ。
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