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第22章 奥山線を追え at 遠州鉄道奧山線廃線跡
奥山線を追え④
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天浜線の線路沿いに西へ向かって歩いていく。進行方向左手に単線非電化の線路が見える風景は、まさにローカル線の沿線を歩いているという風情だ。
先頭を切って進むのはさくら。振り返ることもせず、一心不乱に足を進めている。その後ろを私とひばりが追いかける形。さくらの歩くスピードがやたら早くて、早歩き気味にならざるをえない。おかげで普段から運動不足の私は既に息が上がり始めていた。
「あ、あいつ……」
今のさくらはこっちのペースなんかお構いなしだ。最初は心配してたけど、段々腹が立ってきた。
「ホント何なの、あいつ……!」
「抑えて、みずほさん」
隣を歩くひばりの手が私の背中を押す。リュック越しに。
「ここでみずほさんまで怒ってしまったら本当に台無しよ。ここは我慢。さくらさんを楽しませることを優先して」
「そ、そうだね」
ひばりはしっかりしてるなと思う。さくらに振り回されてるのは彼女だって同じなのに。
消防署の脇を抜け、信号とバス停を越えると、再び踏み切りが見えてきた。そこから伸びる線路の先に小さな駅の姿が映る。
「あら、思ったより早く着いたわね」
あそこに見えるのは岡地駅だ。交換設備のない棒線駅。小さな無人駅は改札も切符売り場もなく、ただホームとベンチと申し訳程度の屋根があるだけ。最低限の設備しかないシンプルな駅だ。
要するに、私たちは1駅分歩いてきたのである。
「えっと、この辺にも奥山線の遺構があるんだよね」
キョロキョロと周囲を見渡す。道路と民家と農作地しかない。とてももう一本の路線が通っていたとは思えない光景だ。でも、確かに通っていたのだ。この場所を。奥山線が。どこかに必ずその痕跡があるはず。
と、そのときだった。さくらが目の前を横切ったのは。
「え?」
線路沿いに金指方へと向かっていく。先ほど通ってきた整備道路から外れ、線路沿いの生活道路へと入っていった。車1台が通れるくらいの細い道。轍の跡がくっきりと残っている。
「あいつ、どこ行く気?」
「ついていってみましょう」
そうだね、1人にするのもアレだし。再びさくらを追跡していくことにした。
彼女はなんの躊躇いもなく生活道路を突き進み、突き当たりのところで止まった。線路に向かって何かを覗き込んでいるようだ。
「さくら。何してるの?」
早足で追いついて、彼女の視線の先を見やる。すると
「あっ!」
線路脇に朽ちた枕木の一部が残されていた。更に、丁寧に積まれたレンガが一部露出している。これは奥山線の土台だろうか。
「てことは……」
岡地駅方へと目線をやる。この生活道路がかつての奥山線の跡ということなのだろう。ここから北へと離れて、奥山の方へと向かっていたのだ。右の方へと曲がって、天浜線から離れていくようなルートだったのだろうか。その姿は計り知れないが、往事を偲ぶことはできる。
「ということは、この民家の土台が岡地駅のホームだったのかしら?」
「確かに。ちょっとホームっぽいかも」
右手の民家の土台は、言われればなるほど、ホームのようにも見える。奥山線の方の岡地駅はこの場所に建っていたのだろうか。
線路、列車、駅。想像の中で、かつての姿を再構築してみる。小さな線路が伸びていて、蒸気機関車が煙を吐いて突き進み、人々が行き交う営みが交わされる。かつての姿を想像しながら進むのも、廃線跡探訪の醍醐味なのかもしれない。
「なーんだ、さくら。なんだかんだ言いつつ、ちゃんと調べてくれてたんじゃん」
だが、件の幼馴染みの姿は既に消えていた。
「あ、あれ? さくら?」
「さくらさんなら先に駅の方に向かっていったわよ」
なんだ、またか。全くよくわからん。今回のさくらの行動は意図が全く掴めない。
「何がしたいんだか、あいつ。私たちも戻ろっか」
「そうね」
さくらの後を私とひばりが追う。ずっとそんな感じが続きそうな予感がした。
先頭を切って進むのはさくら。振り返ることもせず、一心不乱に足を進めている。その後ろを私とひばりが追いかける形。さくらの歩くスピードがやたら早くて、早歩き気味にならざるをえない。おかげで普段から運動不足の私は既に息が上がり始めていた。
「あ、あいつ……」
今のさくらはこっちのペースなんかお構いなしだ。最初は心配してたけど、段々腹が立ってきた。
「ホント何なの、あいつ……!」
「抑えて、みずほさん」
隣を歩くひばりの手が私の背中を押す。リュック越しに。
「ここでみずほさんまで怒ってしまったら本当に台無しよ。ここは我慢。さくらさんを楽しませることを優先して」
「そ、そうだね」
ひばりはしっかりしてるなと思う。さくらに振り回されてるのは彼女だって同じなのに。
消防署の脇を抜け、信号とバス停を越えると、再び踏み切りが見えてきた。そこから伸びる線路の先に小さな駅の姿が映る。
「あら、思ったより早く着いたわね」
あそこに見えるのは岡地駅だ。交換設備のない棒線駅。小さな無人駅は改札も切符売り場もなく、ただホームとベンチと申し訳程度の屋根があるだけ。最低限の設備しかないシンプルな駅だ。
要するに、私たちは1駅分歩いてきたのである。
「えっと、この辺にも奥山線の遺構があるんだよね」
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と、そのときだった。さくらが目の前を横切ったのは。
「え?」
線路沿いに金指方へと向かっていく。先ほど通ってきた整備道路から外れ、線路沿いの生活道路へと入っていった。車1台が通れるくらいの細い道。轍の跡がくっきりと残っている。
「あいつ、どこ行く気?」
「ついていってみましょう」
そうだね、1人にするのもアレだし。再びさくらを追跡していくことにした。
彼女はなんの躊躇いもなく生活道路を突き進み、突き当たりのところで止まった。線路に向かって何かを覗き込んでいるようだ。
「さくら。何してるの?」
早足で追いついて、彼女の視線の先を見やる。すると
「あっ!」
線路脇に朽ちた枕木の一部が残されていた。更に、丁寧に積まれたレンガが一部露出している。これは奥山線の土台だろうか。
「てことは……」
岡地駅方へと目線をやる。この生活道路がかつての奥山線の跡ということなのだろう。ここから北へと離れて、奥山の方へと向かっていたのだ。右の方へと曲がって、天浜線から離れていくようなルートだったのだろうか。その姿は計り知れないが、往事を偲ぶことはできる。
「ということは、この民家の土台が岡地駅のホームだったのかしら?」
「確かに。ちょっとホームっぽいかも」
右手の民家の土台は、言われればなるほど、ホームのようにも見える。奥山線の方の岡地駅はこの場所に建っていたのだろうか。
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「なーんだ、さくら。なんだかんだ言いつつ、ちゃんと調べてくれてたんじゃん」
だが、件の幼馴染みの姿は既に消えていた。
「あ、あれ? さくら?」
「さくらさんなら先に駅の方に向かっていったわよ」
なんだ、またか。全くよくわからん。今回のさくらの行動は意図が全く掴めない。
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