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第21章 津軽・ザ・ウェイ at 津軽鉄道津軽鉄道線
津軽・ザ・ウェイ⑥
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金木駅から旅を再開しよう。津軽中里行きの列車が先に入線してくる。入線数分前に改札が開放された。ホームで待つことにしよう。
津軽五所川原方の線路。その向こうに視線を送った。鉄道オタクあるあるだと思うが、列車が来ないか来ないかとつい線路の先に目を向けてしまうのだ。先走らなくても、ちゃんと定刻通りに到着するというのに。
線路の先に目を向けていると、ふとあるものが目に入った。そういえば……と思い至ったことがある。
「ひばり、ひばり」
ひばりを呼んで線路脇を指さす。
「見て。腕木式信号機ある」
「まあ、本当だわ」
津軽鉄道は現役で腕木式信号機が稼働している唯一の鉄道会社なのだ。先ほど見つけて思い出した。
「あれが実物なのね」
「ね。私も現役のは初めて見たよ」
このあいだ鉄道博物館で見たものは、現役で稼働しているものではないわけだし。銚子電鉄の車庫に飾ってあったのは部品の一部。実物を目の当たりにするのはおそらく初めてだ。ここでしか見られない貴重な風景と言えよう。
「ねえ、もっと近寄ってみましょう」
ひばりに連れられて、ホームの端まで移動してみた。単行の列車では決して止まらないであろう場所。津軽五所川原方の一番端っこ。
ちょうど線路の向こうから列車がやってきた。津軽中里方面へ向かう列車。私たちが乗る予定のものだ。フロントライトがギラッと光る。
「そうだわ」
おもむろにカメラを取り出すひばり。やってくる列車に対してファインダーを向けた。
「信号機と一緒に撮るの?」
「ええ。ここにしかない景色ですもの」
ああ、それ良いなぁ。現役の腕木式信号機の横を通る列車。確かに津軽鉄道でしか見られない風景だ。かつて、全国の路線で当たり前だった景色。それが今やここでしか切り取れないとなったら、カメラを向けたくなるというものだ。
「じゃあ、私も」
ひばりのものほど高価ではないけど、私も自分の愛機で。信号機と列車が同じアングルに入るように画角を調整した。タイミング的には今だ。
パシャパシャパシャと連続でシャッターが切られる。ファインダーの中に静止画としてデータが取り込まれていく。
顔を上げると、動き続ける列車は撮影したポイントより手前にやってきていた。カメラの中のデータとは対照的だった。
見る見る近づくオレンジ色の車体は、信号の脇を通過した。その瞬間だった。地面と平行だった腕木が斜めに下がったのは。
「「動いた!」」
知識としては知っていた。腕木が地面と平行だと停止、斜め下だと進行を示すのだ。が、実際に動いた瞬間を見たのは、当然初めてのことだ。
本当に現役で稼働しているんだ。その感動が思わず言葉になって表れた。そして、ほぼ同時にひばりとハモったのである。
思わず向き合う私たち。ひばりの瞳は少年みたいにキラキラと輝いていた。たぶん私も同じ。
「動いたね!」
「動いたわね!」
まるで意識することもなく破顔していくのがわかる。そして、それは対面のひばりも同じ。見る見るうちに口角が上がり、目元が細められていった。
「本当に動いてた!」
「すごいもの見ちゃったわ!」
思わずトーンが上がってしまう。だが、その刹那、低いエンジン音が私たちの横をすり抜けていった。列車が到着したのだ。
「あっ、やば」
列車は駅舎の前で止まる。つまり、私たちの目の前には停車しないのだ。
「行かなくちゃ!」
「そうね。さくらさん、待たせてしまってるわ」
減速していく列車を追いかけるように、私たちは早足で進んでいった。どうやら撮影した成果を確認するのは、もう少し後のことになりそうだ。
津軽五所川原方の線路。その向こうに視線を送った。鉄道オタクあるあるだと思うが、列車が来ないか来ないかとつい線路の先に目を向けてしまうのだ。先走らなくても、ちゃんと定刻通りに到着するというのに。
線路の先に目を向けていると、ふとあるものが目に入った。そういえば……と思い至ったことがある。
「ひばり、ひばり」
ひばりを呼んで線路脇を指さす。
「見て。腕木式信号機ある」
「まあ、本当だわ」
津軽鉄道は現役で腕木式信号機が稼働している唯一の鉄道会社なのだ。先ほど見つけて思い出した。
「あれが実物なのね」
「ね。私も現役のは初めて見たよ」
このあいだ鉄道博物館で見たものは、現役で稼働しているものではないわけだし。銚子電鉄の車庫に飾ってあったのは部品の一部。実物を目の当たりにするのはおそらく初めてだ。ここでしか見られない貴重な風景と言えよう。
「ねえ、もっと近寄ってみましょう」
ひばりに連れられて、ホームの端まで移動してみた。単行の列車では決して止まらないであろう場所。津軽五所川原方の一番端っこ。
ちょうど線路の向こうから列車がやってきた。津軽中里方面へ向かう列車。私たちが乗る予定のものだ。フロントライトがギラッと光る。
「そうだわ」
おもむろにカメラを取り出すひばり。やってくる列車に対してファインダーを向けた。
「信号機と一緒に撮るの?」
「ええ。ここにしかない景色ですもの」
ああ、それ良いなぁ。現役の腕木式信号機の横を通る列車。確かに津軽鉄道でしか見られない風景だ。かつて、全国の路線で当たり前だった景色。それが今やここでしか切り取れないとなったら、カメラを向けたくなるというものだ。
「じゃあ、私も」
ひばりのものほど高価ではないけど、私も自分の愛機で。信号機と列車が同じアングルに入るように画角を調整した。タイミング的には今だ。
パシャパシャパシャと連続でシャッターが切られる。ファインダーの中に静止画としてデータが取り込まれていく。
顔を上げると、動き続ける列車は撮影したポイントより手前にやってきていた。カメラの中のデータとは対照的だった。
見る見る近づくオレンジ色の車体は、信号の脇を通過した。その瞬間だった。地面と平行だった腕木が斜めに下がったのは。
「「動いた!」」
知識としては知っていた。腕木が地面と平行だと停止、斜め下だと進行を示すのだ。が、実際に動いた瞬間を見たのは、当然初めてのことだ。
本当に現役で稼働しているんだ。その感動が思わず言葉になって表れた。そして、ほぼ同時にひばりとハモったのである。
思わず向き合う私たち。ひばりの瞳は少年みたいにキラキラと輝いていた。たぶん私も同じ。
「動いたね!」
「動いたわね!」
まるで意識することもなく破顔していくのがわかる。そして、それは対面のひばりも同じ。見る見るうちに口角が上がり、目元が細められていった。
「本当に動いてた!」
「すごいもの見ちゃったわ!」
思わずトーンが上がってしまう。だが、その刹那、低いエンジン音が私たちの横をすり抜けていった。列車が到着したのだ。
「あっ、やば」
列車は駅舎の前で止まる。つまり、私たちの目の前には停車しないのだ。
「行かなくちゃ!」
「そうね。さくらさん、待たせてしまってるわ」
減速していく列車を追いかけるように、私たちは早足で進んでいった。どうやら撮影した成果を確認するのは、もう少し後のことになりそうだ。
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