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第21章 津軽・ザ・ウェイ at 津軽鉄道津軽鉄道線
津軽・ザ・ウェイ⑤
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斜陽館を後にする頃には、もう時間はお昼時だった。ちょうど金木は津軽鉄道の沿線の中でもトップクラスに大きい町だ。ここでお昼をいただくことにしよう。
というわけで、斜陽館から少し移動したところにあるお店に入ることにした。その名も「ぽっぽ家」。鉄道に絡めたネーミングのこのお店、実は元々金木駅の2階で営業していたお店なのだ。そのことを知っていたさくらに連れられてやってきたという次第である。
店内は割と盛況だった。私たちが席につくと、ほぼ満席に近い状況となる。
さてさて、何を頼もうかな。
「オススメはしじみラーメンな」
メニューを手に取ると、すかさずさくらがそう言った。
「しじみラーメン?」
「そう。この先に十三湖っていう湖があって、そこで獲れるしじみが名産なんだよ」
なるほど。そのしじみを使ったラーメンなんだ。
「お味噌汁とかじゃなくて、ラーメンなんだね」
「それが良いんじゃん。私も食べるの初めてだからさ、楽しみなんだよな」
さくらがそこまで推すなら私もそれにしようか。新鮮な響きで気になる。
「じゃあ、私もしじみラーメンにしようかな」
「私もそうするわ」
「じゃあ、しじみラーメン3つ!」
というわけで、注文はあっという間に決まったのである。
「あっ、お前ちゃんと写真撮っとけよ。あと、メモも」
急に何の話だ。
「折角雑誌に載せるならさ、食ったもんくらいちゃんと載せとけって」
ああ、それもそうか。遠征の醍醐味の1つは、やはり食だ。その地でしか味わえないもの。その土地の特産を使ったもの。様々な食文化に触れられるのも、旅の良いところである。
それに、食は人間の三大欲求の1つだ。写真とレポートで美味しさを表現できれば、行ってみたいと思う人が増えるかもしれない。私の手記がキッカケで乗りに来てもらえたら、何よりの幸福だ。
「わかった。やってみるよ」
「がんばって、みずほさん」
ありがとう、ひばり。君の応援があれば百人力だよ。
そうこうしているうちに、頼んでいたしじみラーメンがやってきた。
まず、最初に印象に残ったのは器の大きさだ。両手に収まりきらないほどのどんぶりでやってきた。その量にまずは驚きだ。これ食べきれるかな。
スープは半透明。半透明のにごりは、しじみの旨味が染み出したスープだろう。見ただけであの味わいが想像できるくらいだ。
そして何より、具材としてこれでもかとしじみが乗せられている。しじみのインパクトの強さが存分にあふれ出ていた。
それじゃあ、写真を1枚撮ってから、いただきます。まずはスープからいただこう。れんげを使って、そーっと……。
うわあ、あっさり風味。塩味ベースのあっさりとした味わいだ。そこにしじみの旨味エキスが溶け込んで、後からしじみの味わいが効いてくる。しじみの旨味を殺すことなく調合された、程良い味わいのスープが相性抜群だ。
では、続いては麺だ。軽く冷まして、ずずっと……。
縮れ麺にスープがよく絡んでくる。塩味ベースの味わいと、後からやってくるしじみの風味。うーん、とても美味しい。
お次はしじみをいただこうか。ちょっと行儀は悪いけど、貝殻から吸い取るように、じゅじゅっと。
うーん、肉厚。プリプリだ。よくあるフリーズドライのしじみのお味噌汁とは段違い。厚みと弾力のある身は口の中で跳ねるよう。こんなに新鮮なしじみは初めて食べた。
しじみと同じくらいたっぷり入ったわかめは噛み応え抜群。そういえば、津軽はわかめも獲れるんだっけ。これもまた地のものということなのだろうか。
「うん、美味い」
「美味しいわぁ!」
2人もご満悦な様子だ。普段食卓に並ぶしじみとは一線を画するような美味しさだもの。納得。
「あっ、そうそう。ちなみに、ここが十三湖なんだけど」
箸を止めたさくらが地図アプリを示してくる。どうやら津軽鉄道の終点・津軽中里駅から更に北にあるようだ。
「ここ、汽水湖なんだよ。ほら、一部日本海に開けてるだろ」
確かに。海に繋がっている部分がある。
「で、南からは川が流れ込んでる。これが岩木山を源流にしてるんだな。岩木山から来た栄養豊富な淡水と日本海の海水が混じり合って、しじみの生育には最適な環境になってるんだよ」
へー、そうなんだ。
「さくらさん、物知りね」
「まあ、ネットの知識の受け売りなんだけどな。ちなみに、十三湖のしじみは太宰治の小説『津軽』にも出てくるらしいぜ」
太宰治。まさにさっき斜陽館に行ったばかりじゃないか。
このしじみ、太宰も食べてたのかな? 文豪が食べたものと同じものを食している。そう思うと、なんだか余計に美味しく感じられそうだ。
「昔から変わらない味わいだったのかもね」
私たちにとっては新鮮な味。太宰にとってはふるさとの味。人によって、時代によって、変わるものと変わらないものがある。それって津軽鉄道も同じじゃないだろうか。
いや、きっと日本全国全ての鉄道がそうなんだ。誰かにとっての特別は、誰かにとっての日常で。その逆もしかり。
そう思うと、今この瞬間を大切にかみしめたいと感じられた。雑誌に書かないといけないとか、そういうんじゃなくて。ただただ友人たちとのこの時間を、1分1秒を、大切に過ごしたいと。
「お前、何ニヤニヤしてんだよ」
「えっ!? し、してないよ! ニヤニヤなんて!」
当たり前のような時間を、大切にかみしめて。今しかない瞬間を過ごすんだ。かけがえのない友人と共に。
というわけで、斜陽館から少し移動したところにあるお店に入ることにした。その名も「ぽっぽ家」。鉄道に絡めたネーミングのこのお店、実は元々金木駅の2階で営業していたお店なのだ。そのことを知っていたさくらに連れられてやってきたという次第である。
店内は割と盛況だった。私たちが席につくと、ほぼ満席に近い状況となる。
さてさて、何を頼もうかな。
「オススメはしじみラーメンな」
メニューを手に取ると、すかさずさくらがそう言った。
「しじみラーメン?」
「そう。この先に十三湖っていう湖があって、そこで獲れるしじみが名産なんだよ」
なるほど。そのしじみを使ったラーメンなんだ。
「お味噌汁とかじゃなくて、ラーメンなんだね」
「それが良いんじゃん。私も食べるの初めてだからさ、楽しみなんだよな」
さくらがそこまで推すなら私もそれにしようか。新鮮な響きで気になる。
「じゃあ、私もしじみラーメンにしようかな」
「私もそうするわ」
「じゃあ、しじみラーメン3つ!」
というわけで、注文はあっという間に決まったのである。
「あっ、お前ちゃんと写真撮っとけよ。あと、メモも」
急に何の話だ。
「折角雑誌に載せるならさ、食ったもんくらいちゃんと載せとけって」
ああ、それもそうか。遠征の醍醐味の1つは、やはり食だ。その地でしか味わえないもの。その土地の特産を使ったもの。様々な食文化に触れられるのも、旅の良いところである。
それに、食は人間の三大欲求の1つだ。写真とレポートで美味しさを表現できれば、行ってみたいと思う人が増えるかもしれない。私の手記がキッカケで乗りに来てもらえたら、何よりの幸福だ。
「わかった。やってみるよ」
「がんばって、みずほさん」
ありがとう、ひばり。君の応援があれば百人力だよ。
そうこうしているうちに、頼んでいたしじみラーメンがやってきた。
まず、最初に印象に残ったのは器の大きさだ。両手に収まりきらないほどのどんぶりでやってきた。その量にまずは驚きだ。これ食べきれるかな。
スープは半透明。半透明のにごりは、しじみの旨味が染み出したスープだろう。見ただけであの味わいが想像できるくらいだ。
そして何より、具材としてこれでもかとしじみが乗せられている。しじみのインパクトの強さが存分にあふれ出ていた。
それじゃあ、写真を1枚撮ってから、いただきます。まずはスープからいただこう。れんげを使って、そーっと……。
うわあ、あっさり風味。塩味ベースのあっさりとした味わいだ。そこにしじみの旨味エキスが溶け込んで、後からしじみの味わいが効いてくる。しじみの旨味を殺すことなく調合された、程良い味わいのスープが相性抜群だ。
では、続いては麺だ。軽く冷まして、ずずっと……。
縮れ麺にスープがよく絡んでくる。塩味ベースの味わいと、後からやってくるしじみの風味。うーん、とても美味しい。
お次はしじみをいただこうか。ちょっと行儀は悪いけど、貝殻から吸い取るように、じゅじゅっと。
うーん、肉厚。プリプリだ。よくあるフリーズドライのしじみのお味噌汁とは段違い。厚みと弾力のある身は口の中で跳ねるよう。こんなに新鮮なしじみは初めて食べた。
しじみと同じくらいたっぷり入ったわかめは噛み応え抜群。そういえば、津軽はわかめも獲れるんだっけ。これもまた地のものということなのだろうか。
「うん、美味い」
「美味しいわぁ!」
2人もご満悦な様子だ。普段食卓に並ぶしじみとは一線を画するような美味しさだもの。納得。
「あっ、そうそう。ちなみに、ここが十三湖なんだけど」
箸を止めたさくらが地図アプリを示してくる。どうやら津軽鉄道の終点・津軽中里駅から更に北にあるようだ。
「ここ、汽水湖なんだよ。ほら、一部日本海に開けてるだろ」
確かに。海に繋がっている部分がある。
「で、南からは川が流れ込んでる。これが岩木山を源流にしてるんだな。岩木山から来た栄養豊富な淡水と日本海の海水が混じり合って、しじみの生育には最適な環境になってるんだよ」
へー、そうなんだ。
「さくらさん、物知りね」
「まあ、ネットの知識の受け売りなんだけどな。ちなみに、十三湖のしじみは太宰治の小説『津軽』にも出てくるらしいぜ」
太宰治。まさにさっき斜陽館に行ったばかりじゃないか。
このしじみ、太宰も食べてたのかな? 文豪が食べたものと同じものを食している。そう思うと、なんだか余計に美味しく感じられそうだ。
「昔から変わらない味わいだったのかもね」
私たちにとっては新鮮な味。太宰にとってはふるさとの味。人によって、時代によって、変わるものと変わらないものがある。それって津軽鉄道も同じじゃないだろうか。
いや、きっと日本全国全ての鉄道がそうなんだ。誰かにとっての特別は、誰かにとっての日常で。その逆もしかり。
そう思うと、今この瞬間を大切にかみしめたいと感じられた。雑誌に書かないといけないとか、そういうんじゃなくて。ただただ友人たちとのこの時間を、1分1秒を、大切に過ごしたいと。
「お前、何ニヤニヤしてんだよ」
「えっ!? し、してないよ! ニヤニヤなんて!」
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