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第20章 HIGH RAIL星空探訪 at 小海線

HIGH RAIL星空探訪④

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 おおよそ30分ほどの停車時間を経て、『HIGH RAIL』は再び動き始めた。その間の私たちはというと、一生このまま動かなくなるのではないかという虚栄の恐怖感に苛まれていた。若干1名、まるっきりそんな不安とは無縁の人間もいたけども。

 とにかく、動き始めて良かった。たとえ列車に乗っていても、真っ暗闇の中で立ち往生すると恐ろしいものだ。気を取り直していこう。ここからは遅れた分楽しまなくちゃ。

 列車が動き始めてからすぐのタイミングでアナウンスがあった。プラネタリウムの上映時間がやってきたようだ。

 ちょうど乗車のタイミングで整理券を受け取っている。私たちは最も早い時間のものをもらっていた。つまり、我々の番だ。

「よーし、行くか」

 3人揃って列車の一番先頭へ。プラネタリウムは10人ほどの人数が入ると満杯になった。これだけ小型のプラネタリウムは初めてだ。立って鑑賞するのも初体験。

「それでは、始めましょう」

 星空案内人のおじいさんが号令をかける。照明が落ち、狭いスペースが暗闇に染まると、ドーム状の天井が淡く輝き始めた。星空が散りばめられている。

「すごい……」

 走る列車の中でプラネタリウム。なんと不可思議な体験だろうか。実に面白い。

 頭上に広がっているのは秋の星空だ。天頂のあたりには秋の四辺形が浮かぶ。ペガスス座を構成する4つの星空だ。

 そのペガスス座のすぐ真上、くっつくように並ぶ星座がアンドロメダ座。星雲の名前にも同じアンドロメダの名前が付けられている。

 ペガスス座の北東、馬をひくような姿を見せているのがペルセウス座だ。

 ギリシャ神話には、こんな逸話がある。

 古代エチオピア王家のカシオペア王妃は、自らの美しさを常に鼻にかけていた。これに怒った海の神・ポセイドンは、化けくじらを遣わせて海を襲う。この鯨を収めるため、アンドロメダ姫が生け贄として捧げられた。

 海岸の岩場に縛り付けられたアンドロメダ姫が鯨に食われようとしたそのとき、ペガススに跨がった英雄・ペルセウスが現れる。ペルセウスは化け鯨を撃退し、アンドロメダ姫を救い出した。そして、ペルセウスとアンドロメダ姫は結ばれ、めでたしめでたし。

 そんな神話の登場人物たちが、秋の星座として現れる。それがこの時期だ。秋の四辺形の南東には、うお座を挟んでくじら座が横たわっている。これが例の化け鯨。

 星座って深く知っていくと意外と面白いものだと感じた。どの星座にも物語がある。夜空を見上げているだけで、神話に触れることができるのだ。

 ふと、流れ星が横切った。それも1つじゃない。いくつもいくつも。

 これがオリオン座流星群。秋の夜長に夜空を駆ける流れ星たちの集団だ。実際にこの時期の星空を見上げれば、こんな素敵な光景が待ち構えているのかもしれない。

 およそ10分弱。プラネタリウムの上映は終わった。列車の揺れを感じながら、席へと戻っていく。

「すごかったわね!」

 席に戻って早々、ひばりが興奮気味にまくし立てた。

「列車の中でプラネタリウムだもんな。面白いよな」

「私、ドキドキしちゃった! この後、同じような星空が見られるのよね!」

 だと良いけどねぇ。窓の向こうを見つめる。うーん、暗くてよくわからない。小淵沢の時点では雲が空を覆っていた。果たして、こちらの方はどうだろうか。

野辺山のべやままであとどのくらいで着きそうかしら?」

「そうだね……」

 えーっと、JR東日本の列車位置情報っと。大体30分くらい遅れてるから……。

「まだ30分くらいありそうだよ」

「あら、そうなの」

「じゃあ、今のうちに飯食っちまうか」

 それもありかも。野辺山を過ぎてからいただこうかと思ったけど、もういいか。

 というわけで、小淵沢で買ってきた駅弁登場。私のものは鳥めし弁当だ。

 蓋を開けると、そぼろご飯の上に鳥のもも肉がたっぷりと乗っていた。これで半分。もう半分錦糸卵と地のお野菜で埋められている。

 それじゃあ、いただきましょうか。

 まずは、もも肉からいただこう。お弁当箱の横幅いっぱいまであるくらい大きい。これをまずは単体でいただく。

 うん、流石駅弁だ。冷めていても美味しい。鶏肉の弾力はそのままに、旨味がギュッと濃縮されている。甲州味噌の味わいだろうか。まろやかな風味が加わっている。

 じゃあ、こっちのそぼろはどうだろう。ご飯もろとも口の中へ。

 おお、こっちは少し濃いめの味わいだ。もも肉がさっぱりとしているのとは対照的。これはご飯が進みますなぁ。

 窓には私たちが反射して映っている。もう夜だものね。外は一切見えない。今どこを走ってるのかもよくわからない。

 ふと、自分の表情が笑っていることに気付いた。満足そうな笑みを浮かべている。

 そっか、楽しいんだ、今。トラブルはあったけど、やっぱり楽しんでるんだ、今この瞬間を。

 だって、きっとそうだ。さくらとひばりと一緒にいるのだから。だから、どんなことがあったって楽しいに決まってるんだ。

「どした?」

「ううん、なんでも」

 宵闇を切り裂きながら『HIGH RAIL』は進んでいく。JR最高地点の駅に向かって、力強く。
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