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第19章 150年目の鉄道の日 at 鉄道博物館

150年目の鉄道の日⑥

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 南館を後にした私たちは、館内を北上して車両ステーションへと戻った。2階で鉄道開業150周年の記念展示を行っていたので、それを見学。そして、満を持して本日最後のポイントへとやってきた。

「ちょうど予約の時間だな」

 そう呟いたさくらが先頭に立つ。スマホの画面を係員さんに見せて入り口を通過。そこから階段を上ると、眼下には小さな線路とホームが見えた。

 ここはミニ運転列車の乗車口。E5系新幹線の運転シミュレーターの予約は取れなかったものの、ミニ運転列車の予約は確保することができたのだ。もう随分と日が傾いてしまったけど。

 このミニ運転列車は、シミュレーションとは異なり、実際に自身の手で列車を運転することができる。シミュレーションより年齢制限が厳しくないこともあり、小さな子供連れにも人気な体験施設だ。ここもまた、予約を取るのは抽選式。よく取れたものだ。さくらのくせに。

「あのな、私だってたまには当たることだってあるよ」

 おっと、バレてる。

「大体、今日は平日だろ? 当たりやすいに決まってんだろ。E5は枠が少なすぎるんだよ」

 まあ、確かに。実際、周りを見回しても私たち以外に2組くらいしかいない。

 そうしているうちに、私たちの順番が回ってきた。乗り込む車両はE235系、山手線の車両を模したものだった。

「誰が運転する?」

「ひばりで良いんじゃね?」

「え、私?」

 面食らったようなひばり。

「でも、私さっきシミュレーションで──」

「わかってるわかってる。だから、リベンジだよ」

 うん、私もひばりの運転に賛成だ。彼女だけは鉄博初訪問なのだ。色々体験させてあげたい。

「大丈夫。シミュレーションより運転しやすいから」

 渋るひばりの背中を押して、車内に押し込んだ。半ば強引気味に運転席に座らせる。そして、私とさくらは2人並んで後部座席に陣取った。

 係員さんからの説明を受けて、扉が閉められる。発車ベルが鳴って、さあ出発だ。

「安全装置もちゃんとついてるし、制限速度と信号を守れば大丈夫だよ」

「わ、わかったわ」

 この車両はワンハンドル式だ。レバーを手前に引いて走り始める。

 私たち3人を乗せた列車は時計回りに進み始めた。山手線風に言うなら外回りだ。そもそも、この車両は山手線か。

「本日もJR東日本をご利用くださりありがとうございます」

 唐突にさくらが車掌のまねごとを始めた。ダミ声気味でやけに上手い。

「何? そんなことすんの?」

「良いじゃん、やろうぜ」

 悪ノリしてるなぁ。まあ、良いか。車内には私たちしかいないんだし、好き勝手どうぞ。

「この列車は山手線外回りの万世橋まんせいばし行きです。次は汐留、汐留に止まります」

 暗に次の駅に止まれと言っているな。

 ミニ運転列車には、3つの途中駅が設けられている。乗り降りはできないけど、停車も通過も自由だ。時計回りに進んでいるので、汐留、飯田町いいだまち両国橋りょうごくばしの順になる。ちなみに、万世橋というのが乗降地点の駅名だ。

 カーブを超えて直線にさしかかると、すぐにポイントだ。あっという間に汐留駅へとさしかかる。

「あっ、ホームそっちだわ。停止位置確認、よろしく」

 私もやるの!? てか、車掌2人体制かよ。

「全く仕方ないなぁ」

 減速して停車する。顔は出せないけど、一応停止位置確認の真似事だけはしておこう。

「停止位置よし」

 ちょっと後ろ寄りだけど、お尻がギリギリホームに入ってるから良しとしよう。

「本当ね。意外と運転しやすいわ」

「でしょ? 実物運転した方が感覚掴みやすいんだよ」

 といっても、遙か昔の記憶だけど。

 と、そのとき、車内に発車メロディが響き渡った。これはJRーSHー1だ。中央線東京駅などで使われている発車メロディ。軽快なメロディラインが耳触り良い。私の好きな発車メロディの1つだ。

 って、そうじゃなくて。

「さくらでしょ!」

「雰囲気出て良いじゃん」

 その手にはスマホが。画面は動画投稿サイトのものだった。まったくこいつは。

「はい、発車して良いぜ」

 たっぷり2コーラス鳴らしやがった。念のため後ろを見たけど、後続の車両はいなかった。良かった良かった。

 こうして、同じような要領で飯田町、両国橋と停車していった。残り2駅の発車メロディーは『清流』と『雲を友として』がチョイスされた。なんというマニアックぶりだろうか。

 そして、いよいよ万世橋駅へと戻ってくる。停車時間などもあったから、1周およそ10分弱だったろうか。なんだかんだ楽しかった。自分が運転しなくても結構楽しいもんだ。さくらはふざけすぎだけど。

 万世橋手前では自動運転に切り替わる。他の車両との追突を避けるためだ。自動でギリギリの位置に停車する。これにてミニ運転列車運転体験終了である。

「うっふふ、楽しかったわ!」

 運転を終えたひばりは、まるで子供のようにはしゃいでいた。ぴょんぴょん飛び跳ねて嬉しそう。

「運転できて良かったわ! ありがとう、さくらさん、みずほさん」

「いやいや。こっちこそ楽しんでもらえて良かったよ」

 シミュレーションのリベンジは果たせたようだ。私も満足だよ。

「特にさくらさん! 雰囲気作ってくれてありがとう!」

「ははっ。乗ったからには車掌業務はやるよ。当然だろ?」

 いやいや、やりすぎだっつの。まあ、ひばりが喜んでるなら良いんだけど。

「またやりましょうね! 絶対!」

 また、か。ということは、またこの3人で鉄博に来るってことだ。

 うん、絶対楽しいと思う。次はいつになるかわからないけど、絶対またこの3人で来たい。私たちの友情が続く限り、そんな日はすぐ来ると思う。

「そうだね。絶対やろうね。また」

 私たちは影法師と夕日に照らされた線路の脇を通り抜けていった。
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