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第19章 150年目の鉄道の日 at 鉄道博物館
150年目の鉄道の日④
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車両ステーション1階の外郭に張り出したような形で設けられたスペースが、0系新幹線の展示箇所である。開館当時には存在しなかったこの場所は、2009年に新たにオープンした。
内部は1964年の東海道新幹線開業当時の東京駅を再現している。開業を祝うくす玉の再現なんて驚くほど精巧だ。
車内は転換クロスシート。今や回転式クロスシートが主流となった新幹線であるが、開業当時は転換クロスシートだったのだ。ご丁寧に2列席側は転換ができるようになっている。ありがたい。
最高速度は時速210キロ。当時の人は、これほど速い乗り物を体感したことがなかったはずだ。それこそ夢の超特急だったのである。初めて新幹線に乗った時の衝撃たるや、いかほどのものだっただろうか。時速300キロ超えが当たり前となった現在では、とても想像がつかなかった。
さて、一通り車両ステーション1階を回った私たちは2階へと上がった。ここには鉄道の歴史を記した年表と、時代を彩った車両のミニ模型が展示されている。
これを眺めるだけでも非常に面白い。鉄道が歩んだ150年の歴史を文字で追い直すことができた。車両の模型たちも趣深い。近鉄特急として展示されている車両は以前大井川鉄道で乗ったものだし、子供の頃に慣れ親しんだ通勤電車は懐かしかった。
展示を見終えた私たちが次に向かったのは食堂。お昼時にはやや早いのだが、混む前に昼食を済ませてしまおうという運びになった。
館内には食堂がいくつかあれど、車両ステーション2階にあるお店こそが目玉の店舗なのだ。トレインレストラン『日本食堂』。国鉄時代に食堂車の営業を担当していた会社の名前を冠した洋食レストランだ。
開放感のある店内は、中央に食堂車を模した座席がある。やっぱり食堂車気分を味わいたい、ということで、そちらの座席に座らせてもらうことにした。ちなみに、トレインビューができる窓側の席もあるらしい。鉄博らしくてとても良い。
さて、何を注文しようか。メニューを広げてみると、昔懐かしい洋食がズラッと並んでいた。ハンバーグにオムライス、カレー。でも、やっぱり選ぶなら、今しか食べられないものをチョイスしたいと思うのが人情というものだ。
だから、即断即決。鉄道開業150年特製ワンプレートに決まりだ。
やってきたお皿は非常に豪勢だった。特製デミグラスソースをこれでもかとかけたハンバーグに、カニクリームコロッケ。トマトケチャップをふんだんにかけたオムライス。昔懐かしい洋食のメインメニューがこれでもかと乗っていた。
まずは、オムライスからいただこう。銀のスプーンにフォークとナイフ。まさに洋食をいただいている感じで良いなぁ。では、スプーンで一口。
オムライスの山を崩して、すくって。パクリ。
うん、美味しい。卵がふわふわでとろとろ。チキンライスは素朴な味わいだが、鶏肉の旨味をギュッと閉じ込めている。ケチャップは酸味が強め。トマト本来の風味を残しているのだろう。淡泊なチキンライスに酸味の利いたケチャップが好相性だ。互いに美味しさを際立たせ合っている。
今度はカニクリームコロッケだ。一口大に切り分けて、いただきます。
うーん、これも美味しい。外の衣はサクサク、中のクリームがとろとろ。熱々のクリームはコクがあって、口の中全体を旨味で包んでいくようだ。こちらもシンプルな味わい。だからこそ、美味しい。流れ出たデミグラスソースがかかってる箇所がまた美味しい。味にインパクトを与えてくれる。
それじゃあ、ハンバーグをいただこうか。ナイフとフォークで切り分けてっと……。あんまり慣れてないから、慎重にやってかないと。音を立てないようにそーっと、そーっと……。
よし、オッケー。それじゃあ、いただきまーす。
うわぁ、柔らかい。とにかくお肉が柔らかい。噛みしめた瞬間に、じゅわっと肉汁があふれ出てくる。旨味が舌の上で踊っているようだ。
蒸気機関車のように黒々としたデミグラスソースは、じっくりことこと煮込んだ証なのだろう。コクがあって美味しい。肉本来の旨味にデミグラスの美味しさが乗算される。足し算じゃなくて、かけ算だよ、この美味しさは。
流石鉄道開業150年記念プレート。主力級のメニューをこれでもかと入れ込んだインパクトと、どれも劣らぬ美味しさがパーフェクトだ。
咀嚼しながら目を閉じる。在りし日の食堂車に思いを馳せた。この味を食べながら、列車に揺られ、目的地へと進んでいたのだろう。窓の向こうには高速で流れる景色があって、トンネルを通ったり、鉄橋を渡ったりして。
ありありとその光景が浮かび上がってくる。こんな追体験ができるのも鉄博だからこそなのだろう。先ほどまで鉄道の歴史を振り返っていたから尚更だ。
目を開く。当然だが、この場所は動かない。食堂車ではないのだから。それでも、雰囲気だけでも良いものが味わえた。お腹も心も充分満足だ。
ふと、隣のひばりを見やった。彼女の手元に視線が向く。
「うん? どうしたの、みずほさん」
「えっ? いや、ナイフとフォーク使うの綺麗だなあって」
「そうかしら?」
絶対そうだよ。流石お嬢様なだけある。手さばきが良い。
長く白い指が、銀色に輝くナイフとフォークに吸い付いているようだ。まるで自分の手足のような使いこなし。使い慣れてる感が半端ないのだ。
「みずほ……」
今度は正面のさくらからだった。
「何?」
「なんか目つきがいやらしいぞ」
「は?」
そんなわけないでしょ。失礼だな。
はあ、もう良いや。バカは放っておこう。うるさいから、極力ひばりのことも気にしないことにする。
そうだ、目の前の食事に集中しよう。集中だ、集中。集中、集中……。
内部は1964年の東海道新幹線開業当時の東京駅を再現している。開業を祝うくす玉の再現なんて驚くほど精巧だ。
車内は転換クロスシート。今や回転式クロスシートが主流となった新幹線であるが、開業当時は転換クロスシートだったのだ。ご丁寧に2列席側は転換ができるようになっている。ありがたい。
最高速度は時速210キロ。当時の人は、これほど速い乗り物を体感したことがなかったはずだ。それこそ夢の超特急だったのである。初めて新幹線に乗った時の衝撃たるや、いかほどのものだっただろうか。時速300キロ超えが当たり前となった現在では、とても想像がつかなかった。
さて、一通り車両ステーション1階を回った私たちは2階へと上がった。ここには鉄道の歴史を記した年表と、時代を彩った車両のミニ模型が展示されている。
これを眺めるだけでも非常に面白い。鉄道が歩んだ150年の歴史を文字で追い直すことができた。車両の模型たちも趣深い。近鉄特急として展示されている車両は以前大井川鉄道で乗ったものだし、子供の頃に慣れ親しんだ通勤電車は懐かしかった。
展示を見終えた私たちが次に向かったのは食堂。お昼時にはやや早いのだが、混む前に昼食を済ませてしまおうという運びになった。
館内には食堂がいくつかあれど、車両ステーション2階にあるお店こそが目玉の店舗なのだ。トレインレストラン『日本食堂』。国鉄時代に食堂車の営業を担当していた会社の名前を冠した洋食レストランだ。
開放感のある店内は、中央に食堂車を模した座席がある。やっぱり食堂車気分を味わいたい、ということで、そちらの座席に座らせてもらうことにした。ちなみに、トレインビューができる窓側の席もあるらしい。鉄博らしくてとても良い。
さて、何を注文しようか。メニューを広げてみると、昔懐かしい洋食がズラッと並んでいた。ハンバーグにオムライス、カレー。でも、やっぱり選ぶなら、今しか食べられないものをチョイスしたいと思うのが人情というものだ。
だから、即断即決。鉄道開業150年特製ワンプレートに決まりだ。
やってきたお皿は非常に豪勢だった。特製デミグラスソースをこれでもかとかけたハンバーグに、カニクリームコロッケ。トマトケチャップをふんだんにかけたオムライス。昔懐かしい洋食のメインメニューがこれでもかと乗っていた。
まずは、オムライスからいただこう。銀のスプーンにフォークとナイフ。まさに洋食をいただいている感じで良いなぁ。では、スプーンで一口。
オムライスの山を崩して、すくって。パクリ。
うん、美味しい。卵がふわふわでとろとろ。チキンライスは素朴な味わいだが、鶏肉の旨味をギュッと閉じ込めている。ケチャップは酸味が強め。トマト本来の風味を残しているのだろう。淡泊なチキンライスに酸味の利いたケチャップが好相性だ。互いに美味しさを際立たせ合っている。
今度はカニクリームコロッケだ。一口大に切り分けて、いただきます。
うーん、これも美味しい。外の衣はサクサク、中のクリームがとろとろ。熱々のクリームはコクがあって、口の中全体を旨味で包んでいくようだ。こちらもシンプルな味わい。だからこそ、美味しい。流れ出たデミグラスソースがかかってる箇所がまた美味しい。味にインパクトを与えてくれる。
それじゃあ、ハンバーグをいただこうか。ナイフとフォークで切り分けてっと……。あんまり慣れてないから、慎重にやってかないと。音を立てないようにそーっと、そーっと……。
よし、オッケー。それじゃあ、いただきまーす。
うわぁ、柔らかい。とにかくお肉が柔らかい。噛みしめた瞬間に、じゅわっと肉汁があふれ出てくる。旨味が舌の上で踊っているようだ。
蒸気機関車のように黒々としたデミグラスソースは、じっくりことこと煮込んだ証なのだろう。コクがあって美味しい。肉本来の旨味にデミグラスの美味しさが乗算される。足し算じゃなくて、かけ算だよ、この美味しさは。
流石鉄道開業150年記念プレート。主力級のメニューをこれでもかと入れ込んだインパクトと、どれも劣らぬ美味しさがパーフェクトだ。
咀嚼しながら目を閉じる。在りし日の食堂車に思いを馳せた。この味を食べながら、列車に揺られ、目的地へと進んでいたのだろう。窓の向こうには高速で流れる景色があって、トンネルを通ったり、鉄橋を渡ったりして。
ありありとその光景が浮かび上がってくる。こんな追体験ができるのも鉄博だからこそなのだろう。先ほどまで鉄道の歴史を振り返っていたから尚更だ。
目を開く。当然だが、この場所は動かない。食堂車ではないのだから。それでも、雰囲気だけでも良いものが味わえた。お腹も心も充分満足だ。
ふと、隣のひばりを見やった。彼女の手元に視線が向く。
「うん? どうしたの、みずほさん」
「えっ? いや、ナイフとフォーク使うの綺麗だなあって」
「そうかしら?」
絶対そうだよ。流石お嬢様なだけある。手さばきが良い。
長く白い指が、銀色に輝くナイフとフォークに吸い付いているようだ。まるで自分の手足のような使いこなし。使い慣れてる感が半端ないのだ。
「みずほ……」
今度は正面のさくらからだった。
「何?」
「なんか目つきがいやらしいぞ」
「は?」
そんなわけないでしょ。失礼だな。
はあ、もう良いや。バカは放っておこう。うるさいから、極力ひばりのことも気にしないことにする。
そうだ、目の前の食事に集中しよう。集中だ、集中。集中、集中……。
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