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第18章 鉄道最高地点の駅 at 小海線・野辺山駅

鉄道最高地点の駅⑤

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 野辺山を出発してからも、しばらくは高原と山岳地帯が続く。この車窓が変わるのは、路線の由来ともなった小海駅を過ぎてからだ。

 ここから先は佐久盆地に入る。列車は里山と田園地帯の中を駆け抜けていく。

 まばらに点在する家々と、黄金色に染まる田んぼ。そして、遠くに広がる山並み。日本人が想像する典型的な田舎という風景を眺めながら、小刻みに小駅での発着を繰り返していく。

 そして、野辺山から約1時間半。列車は終点の小諸駅に到着した。これにて小海線全線完乗である。

 ここ、小諸駅は小諸市の中心駅。古くは小諸城の城下町として栄え、その後も信越本線しんえつほんせんの拠点駅の1つとして栄華を誇った東信地域のかつての中心地である。

 そんな街に転機が訪れたのは1997年のこと。北陸新幹線、当時の長野新幹線の開業である。

 特急の廃止、信越本線の第3セクター化、碓氷峠うすいとうげの鉄路の廃止。様々な変化が駅と街を襲った。そして何より最も大きかった出来事は、小諸が新幹線の停車駅から外されてしまったことである。

 これにより、東京からの玄関口は佐久平へと移った。小諸は地域の中心地の座を失ったのである。

 そんな過去を持つ駅に降り立って、真っ先にどこか物寂しげな印象を受けた。

 時代が止まっているような感覚。昭和でもなく、それより遥かに昔というわけでもない。平成初期で時計の針が止まったような印象を受けた。

 それは駅だけでなく、街もそうだった。ここだけ時間が切り取られたような不思議な感覚。

 だけど、どこか懐かしさすら覚える。ノスタルジックな雰囲気は、どこか感傷に刺さるようだった。

 さて、小諸といえば、なんといっても小諸蕎麦である。信州蕎麦は有名どころも多かれど、小諸の蕎麦は特にその名が知れている。というわけで、早速駅の近くの蕎麦屋さんに寄ることにした。

 注文したのは、名物のくるみ蕎麦。すり鉢でくるみをすりつぶし、その中につゆを入れて食べるのだ。ここ東信地方がくるみの生産で有名なことから考案された食べ方なんだとか。

 そもそも蕎麦自体が美味しい。野辺山で食べたものも美味しかったが、本格的な蕎麦屋さんで食べるものは比べものにならない。風味が違うのだ。鼻に抜ける蕎麦の香りが強く、それでいてふんわりとしている。

 ここにくるみの香ばしさが加わって、風味に深みが生まれる。これはとても美味しい。

 遠出したなら地のものを食べるのが一番だ。こうして新しい食べ方や味わいに出会える。やはり食を手抜きしてはいけないのだ。人生のクオリティが下がってしまう。

 ふと、スマホが鳴った。取り出してみると、ひばりからのメッセージだった。どうやら会津若松あいづわかまつの方に着いたらしい。

 今度は写真だ。おっ、これは会津名物・ソースカツ丼ではないか。

『味が濃いけど美味しいわ』

『こういう食べ物もあるのね』

 だってさ。

 なるほど。ひばりはお嬢様だから、B級グルメを口にしたことがないのだろう。きっとかなり新鮮な体験だったんだろうなぁ。文面からも伝わってくる。

 そうだ、私も写真を送ろう。もちろんお蕎麦のね。

『小諸のくるみ蕎麦も美味しいよ』

『くるみをすりつぶして、そこにつゆを入れるんだって』

 すぐに返事が返ってくる。

『素敵! ユニークで面白いわね』

『うわ、信州蕎麦じゃん。良いなぁ』

 続けて、さくらのメッセージも飛んできた。ふっふっふっ、良いだろう。ちょっと勝ち誇ったような気分。

『蕎麦買ってきてくれよ~』

 ええー、突然の要求すぎる。本当に遠慮無いなぁ、こいつ。

『1500円』

『そんな高くなくて良い』

『違うよ。おひねり込み』

『バカじゃねえのwww』

『頼むなら手数料払いなさい』

『ふざけんなwww』

「ふふっ」

 やりとりを続けているうちに、思わず笑みがこぼれてしまった。

 楽しい。何故だかすごく楽しいなぁ。

 遠く離れていても、誰かとつながっていられる。一緒にいなくても、誰かと思い出を共有できる。

 ネットの発達ってすごい。こんな風に、体験を拡張することができるんだ。本当に楽しい。

 私は鉄道旅が好きだ。1人で行くのも、誰かと行くのも、どちらも好き。

 だから、今日の小諸線の旅だって、とても楽しかった。1人だからこそできる自由度の高さというものがそこにあるのだから。

 だけど……。

『ねえ、ちょっと提案があるんだけど』

 連発されるさくらのメッセージを遮る。だって、思いついちゃったんだもの。次の旅の計画。

『今度、3人で小海線乗らない? HIGH RAIL乗ろうよ。イベント列車の』

 さくらとひばりと、また3人でここに来たいって、思っちゃったんだもの。

『旅の魅力は人それぞれ。 MIZUHO』
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