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第18章 鉄道最高地点の駅 at 小海線・野辺山駅
鉄道最高地点の駅②
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小海線は、小淵沢駅から八ヶ岳の麓の高原地帯を通り、佐久盆地を駆け抜けて長野県の小諸駅までを結ぶ鉄道路線だ。全線非電化の地方交通線。佐久平駅では北陸新幹線とも接続するローカル線だ。
小淵沢駅を出ると、すぐに右に大きくカーブを描き、中央本線の線路から離れる。俗に『小淵沢カーブ』とも呼ばれる、撮影ポイントとしても有名な場所だ。
中央本線と離れると、列車は高原地帯を進んでいく。いつぞや乗った大井川鉄道井川線を彷彿とさせるような風景を眺めながら、甲斐小泉駅、甲斐大泉駅と停車していく。
リゾート観光地への玄関口となる清里駅を発車すると、列車は県境を越えていく。山梨県を越えて長野県へ。そして、長野県に着いて最初の駅が本日の目的地だ。
『全てのドアが開きます』というアナウンスを横目に、一番後ろのドアから降りる。眼前には縦長の立て看板が突き立てられている。そこにはこう書いてあった。『JR線最高駅野辺山』と。
ここ野辺山駅は、長野県は南牧村の野辺山高原に位置する駅である。当駅止まりの列車が設定され、対向列車の入れ違いもできる拠点駅の1つ。そして、なんといってもJRグループの中で最も標高が高い場所にある駅なのだ。
その高さ、実に標高1345メートル。東京スカイツリーの2倍以上高い地点に私はいるのだ。
その影響か、空気が涼しい。とても爽やかだ。湿度も低く、実に快適。おまけに雲一つ無い快晴。
いやー、絶好の鉄道日和だ。東京の方も毎日こんな気候だったら良いのに。
さて、野辺山駅で降りて満足かというと、そんなことはない。まだ行くべき場所が残っている。
というのも、野辺山駅はJR最高地点の駅ではあるが、JR最高地点とイコールかというと、そういうわけではない。
ここから清里駅方に少し行ったところにJR最高地点の線路があるのだ。私の目的地はそこだ。
とはいえ、歩いて行くにはやや距離がある。タクシーは値段がかさむ。では、どう行くか。答えはすぐ駅前にある。
「すみません」
駅舎の隣にある観光案内所に入った。
「レンタサイクルの予約をしていた藤原です」
そう、実はここ野辺山、観光案内所で自転車を借りることができるのだ。
これなら安価で目的地まで向かうことができる。おまけに高原地帯を自転車で駆け抜けるという贅沢な体験付きだ。
というわけで、手続きと会計を済ませてレンタサイクル完了。よーし、これで目的地までびゅーんだ。
……でも、その前に。
駅舎の前に一旦自転車を止める。ちょうど出入り口の脇に小さなポストがあった。リュックの中から郵便物を取り出す。
これが何かって? 実は鉄道雑誌『鉄道の旅』に送る旅行記なんです。そう、さくらと約束したアレ。アレをこの野辺山の地で出すのだ。
さくらはデータをメールで送ったと聞いた。私もそれで良かったのだ。良かったのだが、何か彼女と違うことがしたいと思った。小粋な何かをしてみたかった。そこで思いついたのが、旅行先から郵便で送るという手段だ。
こんなことで喜んでいるのは私だけかもしれない。編集部からしたら迷惑千万かもしれない。だけど、それでもなお、私はやってみたかったのだ。誰かとちょっと違うことを。
カコン。ポストに投函。
わぁ、送っちゃった。もう後戻りできない。取り出すことはできないし、私の旅行記は編集部に送られる。
パンパンと、柏手を打った。そして、祈った。どうか届きますように、と。
端から見たら、ポストに向かって拝む変な人にしか見えないだろう。だけど、私自身は一杯一杯だったのだ。こうして祈らざるをえないくらい、期待と不安ではち切れそうだったのだ。
「よし」
気持ちを切り替えるように一言。うん、口に出すって大事。未来への不安は断ち切って、今は今この瞬間を楽しもう。
小さく頬を叩いてスタンドを上げる。自転車に跨がって、いざ目的地へとペダルをこぎ始めた。
小淵沢駅を出ると、すぐに右に大きくカーブを描き、中央本線の線路から離れる。俗に『小淵沢カーブ』とも呼ばれる、撮影ポイントとしても有名な場所だ。
中央本線と離れると、列車は高原地帯を進んでいく。いつぞや乗った大井川鉄道井川線を彷彿とさせるような風景を眺めながら、甲斐小泉駅、甲斐大泉駅と停車していく。
リゾート観光地への玄関口となる清里駅を発車すると、列車は県境を越えていく。山梨県を越えて長野県へ。そして、長野県に着いて最初の駅が本日の目的地だ。
『全てのドアが開きます』というアナウンスを横目に、一番後ろのドアから降りる。眼前には縦長の立て看板が突き立てられている。そこにはこう書いてあった。『JR線最高駅野辺山』と。
ここ野辺山駅は、長野県は南牧村の野辺山高原に位置する駅である。当駅止まりの列車が設定され、対向列車の入れ違いもできる拠点駅の1つ。そして、なんといってもJRグループの中で最も標高が高い場所にある駅なのだ。
その高さ、実に標高1345メートル。東京スカイツリーの2倍以上高い地点に私はいるのだ。
その影響か、空気が涼しい。とても爽やかだ。湿度も低く、実に快適。おまけに雲一つ無い快晴。
いやー、絶好の鉄道日和だ。東京の方も毎日こんな気候だったら良いのに。
さて、野辺山駅で降りて満足かというと、そんなことはない。まだ行くべき場所が残っている。
というのも、野辺山駅はJR最高地点の駅ではあるが、JR最高地点とイコールかというと、そういうわけではない。
ここから清里駅方に少し行ったところにJR最高地点の線路があるのだ。私の目的地はそこだ。
とはいえ、歩いて行くにはやや距離がある。タクシーは値段がかさむ。では、どう行くか。答えはすぐ駅前にある。
「すみません」
駅舎の隣にある観光案内所に入った。
「レンタサイクルの予約をしていた藤原です」
そう、実はここ野辺山、観光案内所で自転車を借りることができるのだ。
これなら安価で目的地まで向かうことができる。おまけに高原地帯を自転車で駆け抜けるという贅沢な体験付きだ。
というわけで、手続きと会計を済ませてレンタサイクル完了。よーし、これで目的地までびゅーんだ。
……でも、その前に。
駅舎の前に一旦自転車を止める。ちょうど出入り口の脇に小さなポストがあった。リュックの中から郵便物を取り出す。
これが何かって? 実は鉄道雑誌『鉄道の旅』に送る旅行記なんです。そう、さくらと約束したアレ。アレをこの野辺山の地で出すのだ。
さくらはデータをメールで送ったと聞いた。私もそれで良かったのだ。良かったのだが、何か彼女と違うことがしたいと思った。小粋な何かをしてみたかった。そこで思いついたのが、旅行先から郵便で送るという手段だ。
こんなことで喜んでいるのは私だけかもしれない。編集部からしたら迷惑千万かもしれない。だけど、それでもなお、私はやってみたかったのだ。誰かとちょっと違うことを。
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わぁ、送っちゃった。もう後戻りできない。取り出すことはできないし、私の旅行記は編集部に送られる。
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端から見たら、ポストに向かって拝む変な人にしか見えないだろう。だけど、私自身は一杯一杯だったのだ。こうして祈らざるをえないくらい、期待と不安ではち切れそうだったのだ。
「よし」
気持ちを切り替えるように一言。うん、口に出すって大事。未来への不安は断ち切って、今は今この瞬間を楽しもう。
小さく頬を叩いてスタンドを上げる。自転車に跨がって、いざ目的地へとペダルをこぎ始めた。
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