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第17章 トンネル駅と新幹線の秘境駅 at 北越急行ほくほく線・美佐島駅&上越新幹線・上毛高原駅
トンネル駅と新幹線の秘境駅⑤
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資料館を出た私たちは、更に坂を下っていった。この先に、矢瀬遺跡があると知ったからだ。
曲がりくねった道を進んでいくと、下へ降りる階段が現れる。眼下を覗いてみると駐車場だった。ひょっとしてここが遺跡への下り道だろうか。
「見て。建物があるわ」
駐車場の奥に小屋のような建物がある。更に、縄文時代の竪穴式住居を模したような構造物も見受けられた。どうやら遺跡はこの下で間違いないようだ。
縦一列に並んで降りていく。思ったより急だ。足元に気をつけつつ慎重に降りないと危ない。
やや時間をかけて駐車場まで降り立つと、目的地はすぐ目の前だった。道路を渡って、先ほど見えた建物の目の前までたどり着いた。
「道の駅、なんだ」
道の駅矢瀬親水公園、と書かれている。一緒に並んでいる、月夜野はーべすと、という名前がここの愛称なのだろうか。ひとまず入ってみることにしよう。
中はロッジを思わせるような内装だった。入り口を入ってすぐにあるのが、農産物の直売所。このあたりの特産品がずらっと並んでいた。あっ、リンゴがある。そういえば、土合のカフェでも地元産のリンゴを使ったジュースを売っていた。このあたりはリンゴが特産品なのだ。
一緒にお土産も売られている。ぐんまちゃんがプリントされたお菓子もあれば、地元産の肉牛や野菜を使用した加工品まで。ここだけでこの近辺のお土産はコンプリートできてしまいそうだ。
奥のフロアはイートインコーナーになっている。おやきや舞茸そばといった軽食が味わえるようだ。うーん、でもお昼は美佐島で食べちゃったしなぁ。
「暑いし、アイスでも食わね?」
「グッドアイデアだわ」
確かに、今日は雲一つ無い快晴で、絶好のお出かけ日和だ。だが、その反面、残暑が厳しい。夏の日を感じさせる陽光に焼かれたせいで、随分と汗もかいてしまった。
「うん、賛成」
反対する者は誰もいなかった。3人揃ってソフトクリームを注文することにした。
いただくのはテラス席にしよう。日影になっていてちょうど良い。
3人並んでウッド製チェアに腰を下ろして、いただくことにしよう。
一口食べた瞬間、清涼感が全身を駆け巡った。ああ、そうだよ、これこれ。やっぱり暑い日に食べるソフトクリームは美味しいなぁ。
口どけは濃厚。ミルクのコクと甘みが舌の上を満たしていく。この辺りだったら、牧場もあることだろう。だからこそ、ミルクも濃厚なのだ。うーん、美味しい。
「この辺りはもう、矢瀬遺跡の中みたいね」
ひばりがスマートフォンの画面を見せてくる。地図アプリが表示されていた。確かに、道の駅と遺跡の表示は同じ場所を示していた。
「ここが……」
目の前には芝生が広がっていた。そこでは子供たちが遊んでいたり、テントを張っているグループもいた。とても遺跡の跡とは思えない光景だ。
「発掘とかは別の場所でやってんじゃね?」
きっとそうなのだ。ここは公園と遺跡が同衾している。そして、人が遊ぶ場所と発掘を行う場所は、それぞれ明確に分けられているのだ。
だけど……。
「でもさ、何か見えるよ」
目を閉じて、考えてみる。かつて、この場所に広がっていた人々の集落を。竪穴式住居がずらっと並んでいて、あちこちで肉を焼いたり、骨を加工したり、土器を作ったり。そんな暮らしがこの場所に広がっていたんだ。
ふと、清涼な風が吹く。もうすっかり秋めいた風だ。目を開くと、子供たちが遊んでいる姿が焼き付いた。
「きっと同じなんだよ。今も昔も」
今目の前で遊んでいるように、遙か昔も同じように子供たちが遊び回り、駆け回っていたのだろう。過去からずっと続いているのだ。この地の営みは。私たちの息づかいは。
そう考えると、ソフトクリームのコーンも別のものに見えてくる。
「なんか土器みたい」
「そうか?」
「良い着眼点ね、みずほさん。私もそう見えてきたわ」
アイスを全て食べきったコーンを天に向かって掲げる。偶然なのか、はたまた意識して作っているのか。その真意はわからない。だけど、太古の息吹に触れた私には、これが縄文式土器に見えて仕方ないのだ。
「あれ? 何か聞こえてこね?」
ふと、さくらが耳を澄ませた。
「音?」
「そう。電車の音」
本当に? 耳をこらしてみることにした。ひばりも食べる手を止めて、聴覚に神経を集中している。
すると、どうだろうか。遠くから、ガタンゴトン、ガタンゴトンと慣れ親しんだ音が聞こえてくるではないか。
「あそこ! 見て!」
ふと、目を上げた先。木々の間から見える向こうの斜面をなぞるように、211系電車が走り抜けていた。ということは、間違いなくあれは上越線の線路だ。
「へー、意外と近く通ってるんだな」
湘南色の車両は、あっという間に通り過ぎてしまった。
「大体、2キロくらい離れてるみたいね」
またまた地図アプリを見せられた、この先、利根川を渡った先に、上越線の後閑駅があるらしい。
「どうする? そっちまで行くか?」
「バスも出てるみたいよ。どうする?」
えっ、私が決めるの? 2人の目を交互に見やる。その瞳は「そちらまで行きたい」と訴えかけていた。もう、決めてるならわざわざ聞いてこないでよ。そもそも、私だって2人と同じ思いなんだから。
「折角だし、歩いて行こうか」
「おう」
「良いわよ」
2人が私に向かって頷く。異を唱える者は誰もいなかった。不思議と疲れを感じることもなかった。
『空気はすっかり秋の風。もうすぐ暑かった日々ともお別れだ。 MIZUHO』
曲がりくねった道を進んでいくと、下へ降りる階段が現れる。眼下を覗いてみると駐車場だった。ひょっとしてここが遺跡への下り道だろうか。
「見て。建物があるわ」
駐車場の奥に小屋のような建物がある。更に、縄文時代の竪穴式住居を模したような構造物も見受けられた。どうやら遺跡はこの下で間違いないようだ。
縦一列に並んで降りていく。思ったより急だ。足元に気をつけつつ慎重に降りないと危ない。
やや時間をかけて駐車場まで降り立つと、目的地はすぐ目の前だった。道路を渡って、先ほど見えた建物の目の前までたどり着いた。
「道の駅、なんだ」
道の駅矢瀬親水公園、と書かれている。一緒に並んでいる、月夜野はーべすと、という名前がここの愛称なのだろうか。ひとまず入ってみることにしよう。
中はロッジを思わせるような内装だった。入り口を入ってすぐにあるのが、農産物の直売所。このあたりの特産品がずらっと並んでいた。あっ、リンゴがある。そういえば、土合のカフェでも地元産のリンゴを使ったジュースを売っていた。このあたりはリンゴが特産品なのだ。
一緒にお土産も売られている。ぐんまちゃんがプリントされたお菓子もあれば、地元産の肉牛や野菜を使用した加工品まで。ここだけでこの近辺のお土産はコンプリートできてしまいそうだ。
奥のフロアはイートインコーナーになっている。おやきや舞茸そばといった軽食が味わえるようだ。うーん、でもお昼は美佐島で食べちゃったしなぁ。
「暑いし、アイスでも食わね?」
「グッドアイデアだわ」
確かに、今日は雲一つ無い快晴で、絶好のお出かけ日和だ。だが、その反面、残暑が厳しい。夏の日を感じさせる陽光に焼かれたせいで、随分と汗もかいてしまった。
「うん、賛成」
反対する者は誰もいなかった。3人揃ってソフトクリームを注文することにした。
いただくのはテラス席にしよう。日影になっていてちょうど良い。
3人並んでウッド製チェアに腰を下ろして、いただくことにしよう。
一口食べた瞬間、清涼感が全身を駆け巡った。ああ、そうだよ、これこれ。やっぱり暑い日に食べるソフトクリームは美味しいなぁ。
口どけは濃厚。ミルクのコクと甘みが舌の上を満たしていく。この辺りだったら、牧場もあることだろう。だからこそ、ミルクも濃厚なのだ。うーん、美味しい。
「この辺りはもう、矢瀬遺跡の中みたいね」
ひばりがスマートフォンの画面を見せてくる。地図アプリが表示されていた。確かに、道の駅と遺跡の表示は同じ場所を示していた。
「ここが……」
目の前には芝生が広がっていた。そこでは子供たちが遊んでいたり、テントを張っているグループもいた。とても遺跡の跡とは思えない光景だ。
「発掘とかは別の場所でやってんじゃね?」
きっとそうなのだ。ここは公園と遺跡が同衾している。そして、人が遊ぶ場所と発掘を行う場所は、それぞれ明確に分けられているのだ。
だけど……。
「でもさ、何か見えるよ」
目を閉じて、考えてみる。かつて、この場所に広がっていた人々の集落を。竪穴式住居がずらっと並んでいて、あちこちで肉を焼いたり、骨を加工したり、土器を作ったり。そんな暮らしがこの場所に広がっていたんだ。
ふと、清涼な風が吹く。もうすっかり秋めいた風だ。目を開くと、子供たちが遊んでいる姿が焼き付いた。
「きっと同じなんだよ。今も昔も」
今目の前で遊んでいるように、遙か昔も同じように子供たちが遊び回り、駆け回っていたのだろう。過去からずっと続いているのだ。この地の営みは。私たちの息づかいは。
そう考えると、ソフトクリームのコーンも別のものに見えてくる。
「なんか土器みたい」
「そうか?」
「良い着眼点ね、みずほさん。私もそう見えてきたわ」
アイスを全て食べきったコーンを天に向かって掲げる。偶然なのか、はたまた意識して作っているのか。その真意はわからない。だけど、太古の息吹に触れた私には、これが縄文式土器に見えて仕方ないのだ。
「あれ? 何か聞こえてこね?」
ふと、さくらが耳を澄ませた。
「音?」
「そう。電車の音」
本当に? 耳をこらしてみることにした。ひばりも食べる手を止めて、聴覚に神経を集中している。
すると、どうだろうか。遠くから、ガタンゴトン、ガタンゴトンと慣れ親しんだ音が聞こえてくるではないか。
「あそこ! 見て!」
ふと、目を上げた先。木々の間から見える向こうの斜面をなぞるように、211系電車が走り抜けていた。ということは、間違いなくあれは上越線の線路だ。
「へー、意外と近く通ってるんだな」
湘南色の車両は、あっという間に通り過ぎてしまった。
「大体、2キロくらい離れてるみたいね」
またまた地図アプリを見せられた、この先、利根川を渡った先に、上越線の後閑駅があるらしい。
「どうする? そっちまで行くか?」
「バスも出てるみたいよ。どうする?」
えっ、私が決めるの? 2人の目を交互に見やる。その瞳は「そちらまで行きたい」と訴えかけていた。もう、決めてるならわざわざ聞いてこないでよ。そもそも、私だって2人と同じ思いなんだから。
「折角だし、歩いて行こうか」
「おう」
「良いわよ」
2人が私に向かって頷く。異を唱える者は誰もいなかった。不思議と疲れを感じることもなかった。
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