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第16章 みずほの乗り鉄講座 at 銚子電鉄

みずほの乗り鉄講座③

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 銚子電鉄の旅は片道約20分ほど。意外と短く終わってしまうのだ。

 まず、銚子駅から乗り込むと、最初に待っているのが車内改札。銚子駅に銚子電鉄の職員が配属されていないため、車掌さんから車内で切符を買うシステムなのだ。私たち3人は1日乗車券を購入。フリー切符系は乗り鉄にとって欠かせない必需品なのだ。

 銚子駅を出発した列車は、沿線の観光ガイドを交えた自動放送を流しながら、短い駅間を1つずつ進んでいく。沿線に広がる畑はキャベツとトウモロコシの二毛作をしており、キャベツのシーズンは緑色の絨毯の中を走る列車がよく映えるのだ。写真を撮っても美しいであろう風景だが、今回は乗り鉄旅なのでパス。

 8個の途中駅を通過して、終点の外川とかわに到着。終着駅に着けば、折り返しの列車でそのままUターンする。これも乗り鉄あるあるだろう。鉄道オタクは一般の観光にあまり興味が無い。これもまたあるある。

 さて、私たちに話を戻そう。我々はもちろん、乗って満足とはいかない。ちゃんと観光ルートも考えている。終着駅から観光に向かっても良いのだが、今回の旅のスケジュールではそうもいかないのだ。

 だから、外川でそのまま折り返し。そうせずとも先に目的地で降りれば良いのだが、乗り潰すためにはこうする他ないのだ。ひばりが不思議そうな顔をしていたが、ちゃんと説明したら納得してくれた。流石同朋である。

 こうして、外川で折り返した私たちは、1駅だけ進んで下車する。犬吠駅。その名の通り、犬吠埼への最寄り駅だ。

 改札を抜け、駅舎を出ると、強い海風が吹き付けた。潮の香りもする。駅からは見えないが、海が近いことを如実に感じさせてくれた。

 さあ、進もう。案内看板に沿って犬吠埼方面へと向かった。やっぱり銚子電鉄に来たなら、犬吠埼くらいは行っておかないとね。

 上り道を進んで5分ほどだろうか。右手に視界が開けてきた。白波たきつける海原が姿を現したのである。

「わー! 海だ!」

 思わず叫んでしまう。これはお約束。仕方ない。埼玉県民は海を見ると興奮してしまうのだ。

「うひゃー。すごいな、こりゃ」

 犬吠の海には横浜市民のさくらも感嘆の声を上げた。

 何しろ、ここは断崖絶壁の真下に海が広がっているのだ。この地層は地質学的にも重要なものらしい。地理学の講義で教授が話していた。

「まあ……!」

 荒々しい海原には、ひばりも目を奪われていた。

「そういえば、ひばりってどこに住んでるの?」

「私? 私は東京の白金台しろかねだいよ」

 白金か。流石お嬢様、住んでる場所も一級地だ。

 でも、東京か。そうか、東京か。ってことは、海有り県民、いや都民ということだな。

「じゃあ、海はあまり珍しくない感じ?」

「そうね。ハワイや地中海のビーチにも行ってたものだわ」

 訪れる海がハワイや地中海か。やっぱり庶民とは違うな、と改めて感じた。

「でも、行ったことあるのは砂浜のあるところばかりだわ。こういう海を見るのは初めて」

「……そっか!」

 ひばりの初めての景色を共有できた。それだけで不思議と嬉しい気分になった。

 波しぶき打ちつける海原を眺めながら、私たちは歩を進めていく。更に5分ほど進んだだろうか。駐車場が広がっていた。お土産屋も軒を連ねている。どうやら、犬吠埼まで到達したようだ。

 ここからやることは当然決まっている。この先、犬吠埼灯台まで向かうのだ。

 犬吠埼灯台は全国に16個ある昇れる灯台の1つ。明治7年から点灯が開始された歴史有る灯台で、高さは地上31メートル。その光は19.5海里かいり、約36km先まで届く。岬の先端にそびえる真っ白な姿は、海の青と対比的でありながら、しぶきの白に溶け込むようであった。

 観覧料を払っていざ頂上へ。これがまた急な螺旋階段の連続で足腰に結構くるものがあった。運動不足かもしれない。楽しく観光や鉄活をするためにも、軽いランニングでも始めた方が良いだろうか。

 約100段の階段を上りきり、いよいよてっぺんへ。踊り場へ身を出すと、海風が全身をあおるように吹き付けてきた。

 眼前にはどこまでも広がる太平洋がうなりを上げている。足元を覗き込むと、岬の先端が波しぶきを真っ二つに割っていた。

 あっ、これダメだ。足がすくむ。奥大井湖上おくおおいこじょうのときを思い出すなぁ。ここも手滑らせてスマホ落としたら一発アウトだ。確実にドボン。

「あれ? みずほ、どしたん?」

 覗き込むように景色を眺めていたさくらが、ふと声をかけてきた。

「もしかして怖えの?」

「違っ……! いや、そうです……」

 ダメだ。否定できなかった。

「しょうがないでしょ。こんな高くて風強いところ出たら、誰だって怖いよ」

「そうか? 私は眺め良くて気持ちいいけどな」

 信じられない。鈍感なのか? それとも、ただのバカなのか。たぶん後者だろうな。うん、絶対そうだ。そうだと思っておこう。

「大丈夫よ、みずほさん」

 そのとき、ひばりに手を握られた。

「私がついているわ」

「ひばり……!」

 手の温もりが伝わってくる。温か……いや結構冷たいな。

「え、大丈夫? 海風で体冷えちゃった?」

 思わずごしごしと手をこすった。摩擦熱ってやつだ。

「私は大丈夫よ。でも、ありがとう」

 ああ、ひばりは優しいな。とてもおおらかだ。それに引き換え、さくらといったら……。

「さくらも少しはひばりを見習ってよ」

「はあ? 私、そんなことお前にしねえよ」

 相変わらず優しさのカケラもないんだから。まあ、さくらにこんなことされたら、気持ち悪くって仕方ないけど。

「ふふっ、お2人は本当に仲良しね」

「「どこが!?」」

 ハモった。

「そういうところ。ふふふ」

 何がおかしいのか、ひばりは1人で小さく笑っていた。その姿を私とさくらは、ただただ眺め続けていた。
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