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第15章 ひばりの撮り鉄講座 at 烏山線・滝駅

ひばりの撮り鉄講座④

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 私たちがホームに降りると同時に、2両編成の列車が入線してきた。角張ったボディは銀色に光り輝き、窓枠を囲むように塗られた深い緑色のラインは横縞模様を象っていた。

 EVーE301系電車。通称・ACCUMアキュム。2014年より烏山線からすやませんに導入された蓄電池車両である。

 そう、本日の旅の舞台は栃木県を走るJR烏山線だ。

「まあ、可愛らしい電車」

 座席を確保してからホームに出て写真を撮影していると、車両をながめていた青葉さんがそう口にした。まあ、なんとなくわかるかな。特にちょっととぼけたように見える顔が可愛い。ライトがつぶらな瞳のようにも見える。

「ねえ、写真撮ってくださる?」

 そう言って、スカートを翻しながら列車のすぐ側へと陣取った。ああ、自分と一緒に撮ってほしいということか。

「うん。良いよ」

「ダメよ、藤原さん。こっちに来て」

 え、なんで私? と思っていると、腕を引っ張られてしまった。列車の隣に立つ私と、私に腕を絡ませながらピースをする青葉さん。何じゃ、こりゃ。

「ぶはははは、なんて顔してんだよ、みずほ!」

 シャッターを切ったさくらが爆笑し始めた。なんて失礼な。

「笑うな」

「だって、明らかに顔引きつってんだもん! ははは、腹痛え!」

 そんなに酷い顔してた? いや、でもやっぱりこいつは失礼だ。いつものこととはいえ。

「ごめんなさい。迷惑だったかしら?」

 隣の青葉さんがのぞき込みながら謝ってくる。腕を組みながらのそれは色々とマズい気がする。

「ああ、いや、そういうわけじゃなくて。あんま写真撮られるの慣れてないから」

「ぶはは、確かにな! オタク、自分の写真撮らねえもんな!」

 お前は笑うのをやめろ。本当に失礼だな。

「まあ、私らも色んなとこ行ったけど、自分たちの写真全然撮ったことねえもんな」

 それは事実だ。だって、被写体は別にあるわけだし。鉄道とか、鉄道とか、鉄道とか。

「まっ、たまには良いんじゃねえの? こういうのも。ほら、代われ」

 そう言って、今度は私とさくらが位置を交代する。私が撮影役で、青葉さんとさくらが車両の側に。

「はーい、じゃあ撮るよ」

 そう言ってカメラを構えると、なんとさくらは青葉さんを抱き寄せるように肩を掴んだではないか。2人揃ってピースを決める。

「チッ」

 仕方なくシャッターを切ってやる。なんだ、このムカつく気分は。

「おいおい、みずほ。撮るときまで仏頂面はやめろよ」

 誰のせいだと思ってんだ、誰の。

「じゃあ、今度は藤原さんとさくらさんで撮ってあげるわ」

 青葉さんがそう提案したのだが

「ごめん。こいつとそういうことしない」

「私もみずほとはなんか恥ずかしいなー。パスで」

 2人揃って蹴らせてもらった。私とさくらはそういうことはしないのだ。いや、極力私は誰ともあんなことしたくないのだが。

 一通り車体を撮影して、車内へ戻る。2両編成の車内はオールロングシート。これはかつてキハ40が走ってた頃と変わらない。一応、宇都宮都市圏の通勤通学路線だからなのだろう。詳しくは知らないけど。

 座席に座って、はーっとため息。あんなこと初めてしたから、変に疲れてしまった。

「あれ? 青葉さんは?」

 姿が見えない。どこ行ったんだろう。

「そこにいるよ」

 さくらが車端部を指さす。そこに表示されたモニターを食い入るように見つめるブロンズヘアがよく目立っていた。

「全くもう」

 彼女の側へと向かう。

「何してるの?」

「これを見てるのよ」

 そのLCDモニターには充電中と表示されていた。蓄電池が電流を貯め込むCGも一緒に添えられている。

「こんなのあるんだ」

「ええ。蓄電池車ですもの」

 ACCUMは、蓄電池を動力として動く車両だ。架線の有る場所ではパンタグラフを使って電流を蓄え、その貯めた電気を使って非電化区間を走っていく。電化設備がなくても電車を走らせることができる、画期的な最新鋭車両なのだ。

「ここはまだ宇都宮線だから、架線から電気を蓄えるの。そして、宝積寺ほうしゃくじを出て烏山線に入ると、あれで動くのよ」

 貫通扉を挟んだ反対側、白いタンクのような部分が車内に迫り出していた。

「あれが蓄電池なの?」

「そうよ」

 へー、これが。そう思いながら手を触れてみる。ここに蓄電池が……。今まさに、この中に電気が蓄えられているんだ。

「やっぱり詳しいんだね、青葉さん」

「当然。鉄道好きですもの」

 なんだか見た目にそぐわないというか、大企業の令嬢としては随分アンバランスな趣味だと思うけど。でも、ちゃんと鉄道への愛情は感じられる。単に写真撮影が得意なだけではないんだと、ほんの少し理解できた。

「あら、もう発車してしまうわ」

 発車メロディが鳴り響いていた。もうそんな時間か。

「さっ、席に戻りましょう」

 そう言って、彼女はさくらのもとへと向かっていく。私は彼女の揺れる金髪の先を追いかけていった。
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