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第15章 ひばりの撮り鉄講座 at 烏山線・滝駅
ひばりの撮り鉄講座③
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週末。私とさくらはJR宇都宮駅にいた。栃木県の県庁所在地・宇都宮市の中心駅で、県内最大のターミナル駅だ。
「ねえ」
「何だよ」
約1名、まだ到着していない人物を待ちながらの会話である。
「なんで青葉さん誘ったの?」
「え? 別に良いだろ? 私だってさ、撮り鉄の子と鉄道写真撮ってみたかったんだよ」
ファインダーを覗くようなポーズを見せる。
「それに、お前だってひばりの写真褒めてたじゃん」
「それはそうだけどさ」
確かに彼女の写真は上手かった。あんな風な写真を撮ってみたいとも思った。だけど、それとこれとは違うというか。なんだか、私とさくらの聖域を侵されているような感覚がするのだ。どうせこいつには理解できっこないだろうけど。
「おっ、そろそろ来るんじゃね?」
腕時計を確認しながらそう言った。頭上で振動が響く。新幹線が到着したのだろう。
ややあって、改札の向こうから待ち人の姿が現れた。新幹線乗り換え改札を抜け、緑色に光るサインの下をくぐって、その人物が現れた。
「ごめんなさい。お待たせしちゃったわね」
青葉ひばり。ある意味では本日の旅のゲストであり、主役でもあるような人物だ。
それにしても彼女の格好である。ツバ広のカプリーヌハットを被り、高級そうな白のトップスは胸元にリボンの刺繍があしらわれている。その上から涼しげな薄い水色のアウターを羽織り、下は温かみを感じさせるクリーム色のプリーツスカート。裾から覗く足元は、厚底のボーンサンダル。
パッと見れば、良家のご令嬢のような佇まいである。ただ、恐らくカメラが収納されているであろうショルダーバッグと、背中で存在を主張している三脚ケースだけが、あまりにもアンバランスというか、彼女の華やかな姿を完璧なまでにぶち壊していた。
「ちょいちょいちょい」
「何だよ」
さくらに耳打ちするように
「青葉さんって、良いとこのお嬢様なのかな?」
「あー……」
さくらは金髪少女を頭の先から爪先まで眺めた。それから少し考え込むようにして
「ひばりってさ、もしかしてお父さん会社の社長さんだったりする?」
「ちょっと!」
なにハッキリ聞いてんだ、こいつは。
「ええ、そうよ」
「ほら、そうだってよ。……ええええええええ!?」
えええええ!?
「嘘!? 本当だったの!?」
「半分冗談だったのに……」
いや、ひょっとして家がお金持ちなのかな? とは思ったりしたんだ。宇都宮まで、わざわざ新幹線で来るくらいなんだから。
「青葉グループってご存じかしら?」
「ああ、世界的に有名なお菓子メーカーじゃん」
「パパはそこの会長さんなの」
おお、マジか。よりによって、大企業のトップの娘だった。
え、大丈夫か、私たち。こんなとんでもない子、連れ出したりして。
「えっと……やっぱり私……」
青葉さんの表情が曇る。
「ああ、いやいや。ちょっとビックリしちゃっただけだよ」
すかさず、さくらがフォローした。
「親がどんな人でもさ、私らは等しく鉄道オタクだよ。な、みずほ?」
そこで私に振る!?
「ま、まあ、そうだね。好きなものの前ではみんな平等っていうか。それに、私たちはただの大学生だよ。それは事実だし」
「……そう」
青葉さんはホッとしたような様子を見せた。
「そう言ってもらえると嬉しいわ」
カツカツと厚底を軽快に鳴らしながら、在来線ホームへ繋がる下り階段へ向かう。
「さっ、行きましょう」
振り向いた笑顔がどこかぎこちなさそうに見えたのが、わだかまりのように引っかかった。
「ねえ」
「何だよ」
約1名、まだ到着していない人物を待ちながらの会話である。
「なんで青葉さん誘ったの?」
「え? 別に良いだろ? 私だってさ、撮り鉄の子と鉄道写真撮ってみたかったんだよ」
ファインダーを覗くようなポーズを見せる。
「それに、お前だってひばりの写真褒めてたじゃん」
「それはそうだけどさ」
確かに彼女の写真は上手かった。あんな風な写真を撮ってみたいとも思った。だけど、それとこれとは違うというか。なんだか、私とさくらの聖域を侵されているような感覚がするのだ。どうせこいつには理解できっこないだろうけど。
「おっ、そろそろ来るんじゃね?」
腕時計を確認しながらそう言った。頭上で振動が響く。新幹線が到着したのだろう。
ややあって、改札の向こうから待ち人の姿が現れた。新幹線乗り換え改札を抜け、緑色に光るサインの下をくぐって、その人物が現れた。
「ごめんなさい。お待たせしちゃったわね」
青葉ひばり。ある意味では本日の旅のゲストであり、主役でもあるような人物だ。
それにしても彼女の格好である。ツバ広のカプリーヌハットを被り、高級そうな白のトップスは胸元にリボンの刺繍があしらわれている。その上から涼しげな薄い水色のアウターを羽織り、下は温かみを感じさせるクリーム色のプリーツスカート。裾から覗く足元は、厚底のボーンサンダル。
パッと見れば、良家のご令嬢のような佇まいである。ただ、恐らくカメラが収納されているであろうショルダーバッグと、背中で存在を主張している三脚ケースだけが、あまりにもアンバランスというか、彼女の華やかな姿を完璧なまでにぶち壊していた。
「ちょいちょいちょい」
「何だよ」
さくらに耳打ちするように
「青葉さんって、良いとこのお嬢様なのかな?」
「あー……」
さくらは金髪少女を頭の先から爪先まで眺めた。それから少し考え込むようにして
「ひばりってさ、もしかしてお父さん会社の社長さんだったりする?」
「ちょっと!」
なにハッキリ聞いてんだ、こいつは。
「ええ、そうよ」
「ほら、そうだってよ。……ええええええええ!?」
えええええ!?
「嘘!? 本当だったの!?」
「半分冗談だったのに……」
いや、ひょっとして家がお金持ちなのかな? とは思ったりしたんだ。宇都宮まで、わざわざ新幹線で来るくらいなんだから。
「青葉グループってご存じかしら?」
「ああ、世界的に有名なお菓子メーカーじゃん」
「パパはそこの会長さんなの」
おお、マジか。よりによって、大企業のトップの娘だった。
え、大丈夫か、私たち。こんなとんでもない子、連れ出したりして。
「えっと……やっぱり私……」
青葉さんの表情が曇る。
「ああ、いやいや。ちょっとビックリしちゃっただけだよ」
すかさず、さくらがフォローした。
「親がどんな人でもさ、私らは等しく鉄道オタクだよ。な、みずほ?」
そこで私に振る!?
「ま、まあ、そうだね。好きなものの前ではみんな平等っていうか。それに、私たちはただの大学生だよ。それは事実だし」
「……そう」
青葉さんはホッとしたような様子を見せた。
「そう言ってもらえると嬉しいわ」
カツカツと厚底を軽快に鳴らしながら、在来線ホームへ繋がる下り階段へ向かう。
「さっ、行きましょう」
振り向いた笑顔がどこかぎこちなさそうに見えたのが、わだかまりのように引っかかった。
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