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第14章 中禅寺湖と学園祭

中禅寺湖と学園祭④

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 夏休みが終わり、大学も後期の講義が始まった。我が校は夏休みが明けるとすぐに一大イベントがやってくる。学園祭だ。

 他の多くの大学より早めに行われる本校の学園祭は、御茶ノ水という都心の中心にキャンパスが建っている立地に加え、女子大ということも相まって毎年多くの来場者がやってくるらしい。

 私にとっては入学後初めての学園祭。だが、特にこれといって変化が起きるわけではない。忙しくなるわけでもないし、むしろ講義が消滅するので暇になるくらいだ。理由は簡単。私が特にサークルなどに所属しているわけではないからだ。

 そして、それはさくらも同じ。暇をもてあました私たちは、当然のごとく示し合わせて共に時間を過ごすことになった。が、その身は電車の車内には無い。学校のキャンパスにある。学園祭を見に行こう、ということで意見が一致したのだ。珍しいこともあるものだ。

 キャンパス内は普段の数倍の人で埋め尽くされていた。やはり外部の人が多く来場するからだろう。ごった返している。どの棟も縦に長く、各フロア面積自体が広くないこともあって、余計に人の圧を感じてしまう。

 まあ、そういうわけで。場外の屋台を巡ったり、文化系サークルによる教室内展示を眺めたり、ステージで出し物やパフォーマンスを見たりと、キャンパス内の様々な場所を巡って、模範的な学生のような学園祭を過ごしているわけだ。

 と、その中で写真サークルの展示に足を踏み入れた時のことだった。

「みずほ、見ろよ」

 さくらの示す先を見やる。いくつかの展示品が並んでいる中の一角だった。

「あっ、ロマンスカー」

 小田急線の特急・ロマンスカーの写真が展示されていたのだ。

「これ、みずほが寄稿したとかじゃないよな?」

「うん。さくらでもないよね?」

「もちろん」

 ということは……。

「いるんだね。私たち以外にも鉄道好きな子」

「だな」

 でも、そうか。うちの学校には鉄道系サークルは存在しないから、写真サークルに入って鉄道写真専門でやってく選択肢もあるんだね。

 うわー、私には無理だな。鉄道趣味はどうしても大っぴらにはできない。いまだに学内で私の鉄道趣味を知っている学生は、隣にいる幼馴染みただ1人だけだ。同じ学部や専攻の子たちにも、一切明かしていない。

 まあ、そういうのを隠さずにいられるのはすごいことだし、羨ましいとも思うけど。私にはやっぱり無理だ。こういうのは細々とやっていきたいのだ。

「でも、上手いね、これ」

「なっ」

 それはそうと、この写真だ。いわゆる『流し撮り」というやつで、列車の疾走感が背景の流れる景色と共に表現されている。特急列車ゆえに、この技法がマッチしているのだ。流線型の車体が風を切る姿が、ありありと浮かぶようだ。

「でも、このVSEってもう定期運用から外れちまったんだよな?」

「うん。来年には完全引退らしいよ」

「なんか寿命短かったよな」

「だよね。私は好きだったんだけどな。フォルムも綺麗だし、カッコよかったのに」

 そう、ここに映し出されている特急ロマンスカー・VSEはとてもカッコいいのだ。そのなめらかで洗練された曲線は、独特の美しさすら醸し出していた。その寿命は僅かに18年。こんなに早く引退してしまうなんて、もったいない。

 そういえば、この写真、流し撮りにしているおかげで、VSEのカッコよさがより強調されているように感じられる。撮影技術の高さもさることながら、車両のスタイリッシュさが刻銘に切り取られているのだ。

「カッコいいね、この写真」

「カッコいい?」

「うん。VSEをめちゃめちゃカッコよく撮ってくれてる。嬉しい」

「なんだよ、べた褒めじゃん」

「だって、私流し撮りとか全然できないし。良いなぁ、こんな風に背景だけ流してみたいなぁ」

 このときの私は知るよしもなかった。このときの何気ない発言が、私の学生生活を大きく変えることになるなんて。
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