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第13章 大井川キャンプ道中 at 大井川鉄道
大井川キャンプ道中⑧
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夜は更けていく。真っ暗な帳が下ろされたキャンプ場に、光源となるものはテント内の灯りのみ。木々のざわめきと動物たちの鳴き声だけが周囲を支配していた。
「みずほ、そろそろ寝るぞ」
「うーん、そうだね」
食事もお風呂も済ませて、もうやることなんてない。大自然に囲まれた中、夜にできることなんて人間にはほとんど残されていないんだ。スマホをいじれるほど電波もあまり良くはない。選択肢は駄弁るか寝るかの二択だろう。
2つ並んだ寝袋の中に入る。さくらがランプを消した。もぞもぞとくぐもった音は、親友の寝袋に入る音だろう。
それにしても、今日は色々あった。千頭のSL資料館に行き、奥大井湖上駅に行き、こうしてキャンプもしている。去年までの私だったら考えられない。それも全て、隣にいる親友と再び出会えたおかげなのだ。本当に楽しかった。今日だけじゃない。この半年間、ずっと楽しかった。
なんだか眠れない。体は疲れているはずなのに、眠気が来ない。きっと心がまだ昂ぶっているから。
「ねえ、さくら」
「うん?」
やっぱりこいつもまだ起きていた。
「ありがとね」
非日常の空間に身を置いているせいだろうか。やけに素直になってしまう。
「うん? 何が?」
「すごく楽しかったなって」
「おいおい、まだ明日も残ってるぜ」
「うん。そうなんだけどさ」
もぞもぞと寝返りを打った。
「今日だけじゃなくてさ。今までずっと。昔から。子供の頃から。また会えてからも。ずっと楽しかった」
「……うん」
ごそごそとさくらが動く音。ビーッとチャックが開く。うん? これってテントの入り口のチャックでは?
「そんな今日で世界が終わるみたいなこと言うなよ」
テントの外を覗いていた。
「見てみ」
促されるように私も外を覗く。
「上」
指さす先、天を見上げた。
「うわぁ……」
そこには満点の星空が広がっていた。真っ暗な夜空に大小様々な宝石を散りばめたみたいに、一面が光り輝いていた。こんなのプラネタリウムでしか見たことない。
「私も楽しかったよ」
空を見上げながら、さくらが呟く。
「子供の頃も、今も。ずっと楽しかった」
そう言って私を抱き寄せるように肩に手を回した。
「だからさ、これからも楽しいこと、沢山しようぜ」
「……うん!」
この満点の星空は、さくらと一緒だから見られた。さくらと出会えなければ見られなかった。心の底から私は思う。この親友と巡り会えたことが、人生で一番のプレゼントだ、と。神様からの最高の贈り物だ、と。
「とりあえず、離れて」
「え、なんでだよ」
「暑苦しい」
「えー、良いだろー。折角なんだしさー」
「夏場なの忘れないでよ。暑い」
「じゃあ、寒ければ良いのかー?」
「良くない。ひっつかないで」
「えー。みずほが冷たいー」
私たちの夜は過ぎ去っていく。そして、また新しい朝が始まるんだ。
さあ、次は何をしようかな。
『私の最大の幸運は、最高の時を共に過ごす友人に巡り会えたことでした。 MIZUHO』
「みずほ、そろそろ寝るぞ」
「うーん、そうだね」
食事もお風呂も済ませて、もうやることなんてない。大自然に囲まれた中、夜にできることなんて人間にはほとんど残されていないんだ。スマホをいじれるほど電波もあまり良くはない。選択肢は駄弁るか寝るかの二択だろう。
2つ並んだ寝袋の中に入る。さくらがランプを消した。もぞもぞとくぐもった音は、親友の寝袋に入る音だろう。
それにしても、今日は色々あった。千頭のSL資料館に行き、奥大井湖上駅に行き、こうしてキャンプもしている。去年までの私だったら考えられない。それも全て、隣にいる親友と再び出会えたおかげなのだ。本当に楽しかった。今日だけじゃない。この半年間、ずっと楽しかった。
なんだか眠れない。体は疲れているはずなのに、眠気が来ない。きっと心がまだ昂ぶっているから。
「ねえ、さくら」
「うん?」
やっぱりこいつもまだ起きていた。
「ありがとね」
非日常の空間に身を置いているせいだろうか。やけに素直になってしまう。
「うん? 何が?」
「すごく楽しかったなって」
「おいおい、まだ明日も残ってるぜ」
「うん。そうなんだけどさ」
もぞもぞと寝返りを打った。
「今日だけじゃなくてさ。今までずっと。昔から。子供の頃から。また会えてからも。ずっと楽しかった」
「……うん」
ごそごそとさくらが動く音。ビーッとチャックが開く。うん? これってテントの入り口のチャックでは?
「そんな今日で世界が終わるみたいなこと言うなよ」
テントの外を覗いていた。
「見てみ」
促されるように私も外を覗く。
「上」
指さす先、天を見上げた。
「うわぁ……」
そこには満点の星空が広がっていた。真っ暗な夜空に大小様々な宝石を散りばめたみたいに、一面が光り輝いていた。こんなのプラネタリウムでしか見たことない。
「私も楽しかったよ」
空を見上げながら、さくらが呟く。
「子供の頃も、今も。ずっと楽しかった」
そう言って私を抱き寄せるように肩に手を回した。
「だからさ、これからも楽しいこと、沢山しようぜ」
「……うん!」
この満点の星空は、さくらと一緒だから見られた。さくらと出会えなければ見られなかった。心の底から私は思う。この親友と巡り会えたことが、人生で一番のプレゼントだ、と。神様からの最高の贈り物だ、と。
「とりあえず、離れて」
「え、なんでだよ」
「暑苦しい」
「えー、良いだろー。折角なんだしさー」
「夏場なの忘れないでよ。暑い」
「じゃあ、寒ければ良いのかー?」
「良くない。ひっつかないで」
「えー。みずほが冷たいー」
私たちの夜は過ぎ去っていく。そして、また新しい朝が始まるんだ。
さあ、次は何をしようかな。
『私の最大の幸運は、最高の時を共に過ごす友人に巡り会えたことでした。 MIZUHO』
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