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第13章 大井川キャンプ道中 at 大井川鉄道
大井川キャンプ道中⑦
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日が傾きかけた頃合いを見計らって、私たちは夕食へと移行することにした。井川線の終電は早く、17時には最終列車が出発してしまう。それを遠くキャンプ場から見送ったら、いよいよご飯タイムだ。
とはいえ、ガスコンロやIHがあるわけでもない。自分たちでイチから火をおこさなければならないのだ。これに関しては、さくらが点火棒式ライターを持ってきてくれて助かった。「松ぼっくりを着火剤にすると良いんだぜ」なんて豆知識まで教えてくれて。
こうしてミニコンロには無事火が付いた。冬ならこの焚き火が命の綱となるのだが、流石に夏場は近くにいると暑い。
「で? 食材は?」
「これだよ。これこれ」
そう言って彼女が取り出したのは、なんとインスタントラーメンだった。
「え!?」
流石に拍子抜けした。わざと手間をかけたがってた彼女が、最後に取り出したのがインスタント食品なのだから。
「普通キャンプって言ったら、バーベキューかカレーじゃない?」
「いや、私もそう思ったんだけどさ。お父さんが、初めてなら食品はインスタントにしとけって。ほら、夏場だし、食中毒とかあるじゃん?」
ああ、そういう。いや、でも、なんかやっぱり……。これは違うというか……。
「まあまあ。外で食うカップ麺は美味いぞ~」
そう言って取り出したケトルを持って、水を汲みに行った。ややあって戻ってきた彼女は、私とは対照的な笑顔を浮かべていた。
「こんだけ手間かけて最後がカップ麺ってのも乙なもんだぜ」
ケトルを火にかける彼女の横顔は、やはりどこか楽しげだった。日が山並みに隠れ、影が落ち始める。焚き火の明かりが彼女の顔面を照らし、輪郭の凹凸をくっきりと映し出していた。
「うし、できた」
どうやら沸騰したようだ。
「お前何味にする?」
ズラリと並べられたカップ麺の数々。醤油、シーフード、塩、味噌と色々あるけれど……。私は迷いなく黄色いパッケージを選んだ。
「カレーか。いいね」
熱湯を注いで待つこと3分。完成だ。
では、早速いただくとしようか。キャンプ場でカップ麺。わざわざキャンプに来てるのにカップ麺。なんとも不思議な感覚だが……。
「あ……!」
一口すすった瞬間だった。美味しいと感じた。いや、カップ麺なんだから美味しいのは当たり前なんだが。普通の美味しさじゃない。旨味が何倍にも増して感じられるようだった。
「美味しい!」
「だろ? 美味しいっしょ?」
さくらは醤油味をすすりながらニコニコと私を見つめていた。
「ただのカップ麺なのに、すごく美味しい……!」
特別高いものを買ったわけでもない。普通にコンビニやスーパーで見る、ありふれたカップ麺だ。にもかかわらず、今まで食べたどのインスタントラーメンよりも美味しく感じられる。
「外で食べるって、こんなに美味しいんだ……!」
何かに気付いたように、脳内で光が弾けた。キャンプ場という特殊な立地。大自然の中にいるという体験。それこそが、ただのカップ麺を美食たらしめている要素なのだ。
食材や料理人の腕だけじゃない。人間はどこで食べるか、誰と食べるかでも味覚が変わる生き物なのだ。親友と日の暮れかけた接岨湖の側で2人。このロケーションこそが、最高の調味料だったのだ。
「な? いけるっしょ?」
「……うん!」
そこから私の箸は止まらなかった。珍しくスープまで飲み干してしまった。塩分を欲していたのもあるけど、主要因はそこじゃない。
「はあ……。ごちそうさまでした」
「お粗末さま。つっても、私何もしてないけどな。あっ、ゴミはちゃんと片付けとけよ」
差し出されたゴミ袋の中に、空っぽになった容器を入れた。当たり前の行動1つとっても、大自然の中だと特別になるんだなぁ。
「あっ、一番星」
ふと見上げた空は、紫色に染まっていた。その中に1つ、輝く星が浮かんでいた。
とはいえ、ガスコンロやIHがあるわけでもない。自分たちでイチから火をおこさなければならないのだ。これに関しては、さくらが点火棒式ライターを持ってきてくれて助かった。「松ぼっくりを着火剤にすると良いんだぜ」なんて豆知識まで教えてくれて。
こうしてミニコンロには無事火が付いた。冬ならこの焚き火が命の綱となるのだが、流石に夏場は近くにいると暑い。
「で? 食材は?」
「これだよ。これこれ」
そう言って彼女が取り出したのは、なんとインスタントラーメンだった。
「え!?」
流石に拍子抜けした。わざと手間をかけたがってた彼女が、最後に取り出したのがインスタント食品なのだから。
「普通キャンプって言ったら、バーベキューかカレーじゃない?」
「いや、私もそう思ったんだけどさ。お父さんが、初めてなら食品はインスタントにしとけって。ほら、夏場だし、食中毒とかあるじゃん?」
ああ、そういう。いや、でも、なんかやっぱり……。これは違うというか……。
「まあまあ。外で食うカップ麺は美味いぞ~」
そう言って取り出したケトルを持って、水を汲みに行った。ややあって戻ってきた彼女は、私とは対照的な笑顔を浮かべていた。
「こんだけ手間かけて最後がカップ麺ってのも乙なもんだぜ」
ケトルを火にかける彼女の横顔は、やはりどこか楽しげだった。日が山並みに隠れ、影が落ち始める。焚き火の明かりが彼女の顔面を照らし、輪郭の凹凸をくっきりと映し出していた。
「うし、できた」
どうやら沸騰したようだ。
「お前何味にする?」
ズラリと並べられたカップ麺の数々。醤油、シーフード、塩、味噌と色々あるけれど……。私は迷いなく黄色いパッケージを選んだ。
「カレーか。いいね」
熱湯を注いで待つこと3分。完成だ。
では、早速いただくとしようか。キャンプ場でカップ麺。わざわざキャンプに来てるのにカップ麺。なんとも不思議な感覚だが……。
「あ……!」
一口すすった瞬間だった。美味しいと感じた。いや、カップ麺なんだから美味しいのは当たり前なんだが。普通の美味しさじゃない。旨味が何倍にも増して感じられるようだった。
「美味しい!」
「だろ? 美味しいっしょ?」
さくらは醤油味をすすりながらニコニコと私を見つめていた。
「ただのカップ麺なのに、すごく美味しい……!」
特別高いものを買ったわけでもない。普通にコンビニやスーパーで見る、ありふれたカップ麺だ。にもかかわらず、今まで食べたどのインスタントラーメンよりも美味しく感じられる。
「外で食べるって、こんなに美味しいんだ……!」
何かに気付いたように、脳内で光が弾けた。キャンプ場という特殊な立地。大自然の中にいるという体験。それこそが、ただのカップ麺を美食たらしめている要素なのだ。
食材や料理人の腕だけじゃない。人間はどこで食べるか、誰と食べるかでも味覚が変わる生き物なのだ。親友と日の暮れかけた接岨湖の側で2人。このロケーションこそが、最高の調味料だったのだ。
「な? いけるっしょ?」
「……うん!」
そこから私の箸は止まらなかった。珍しくスープまで飲み干してしまった。塩分を欲していたのもあるけど、主要因はそこじゃない。
「はあ……。ごちそうさまでした」
「お粗末さま。つっても、私何もしてないけどな。あっ、ゴミはちゃんと片付けとけよ」
差し出されたゴミ袋の中に、空っぽになった容器を入れた。当たり前の行動1つとっても、大自然の中だと特別になるんだなぁ。
「あっ、一番星」
ふと見上げた空は、紫色に染まっていた。その中に1つ、輝く星が浮かんでいた。
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