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第13章 大井川キャンプ道中 at 大井川鉄道
大井川キャンプ道中⑥
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ミステリートンネルの中は、正直深く語りたくない。スマホのライトが役に立たないくらい暗く、道中お化けの人形まであって散々だった。思い出したくもない。というわけで、華麗にスルーします。
トンネルを抜けた私たちは、晴れて本日最後の目的地・アプトいちしろキャンプ場に到着した。接岨湖の湖畔に設けられたキャンプ場は、まさに自然に囲まれた風光明媚な地と呼ぶに相応しかった。旧線跡のすぐ側という立地も、鉄道オタク的には高評価だ。
というわけで、早速受付を済ませて自分たちのサイトへ。
「おー! 線路が目の前にある!」
サイトからは接岨湖の穏やかな湖面が広がり、その向こうの斜面には井川線の線路が右肩上がりに貼り付いていた。あれが日本最大の勾配・90パーミルの傾斜かー。実際に見てみると、確かにすごく線路が傾いているのがわかる。あそこをさっき通ってきたんだ。アプト式機関車に引かれながら。
「おーい、みずほ。テント張るの手伝ってくれ」
「え? あ、うん」
そっか。まずはテント組み立てないとだね。
「安心しろって。後で1往復、そこ通るから」
「時間わかる?」
「駅の時刻表撮ってるからバッチリ」
抜け目ない。いつの間に。
というわけで、テントの設営に移ったわけだが。これが中々難しい。ポールを通したり、ペグを打ち込んだり、想像以上に重労働なのだ。おまけに設営する向きにも、こだわりがあるらしい。ずっとさくらから、そこじゃない、ここにしろ、と言われ続けた。もうこれだけで勘弁してほしい気分だ。
「うっし、完成!」
やっとのことでテントが完成した。所要時間およそ30分。これだけで汗だくだ。
「んじゃ、私は薪買ってくるわ」
薪って買うものなんだ。初知り。
「みずほは椅子とかテーブルとか組み立てといて」
ああ、これか。折りたたみ式の小さなチェアにミニテーブル。いかにもキャンプ用品って感じ。こっちはランプか。結構色々持ってきてるんだなぁ。荷物がパンパンに膨らんでたのも納得がいく。
ていうか、やけに準備良すぎないだろうか。キャンプの知識もそれなりにあったし、テントの組み立ての手際も良かった。あいつ、キャンプの経験なんかあったっけ。ふと浮かんだ疑問を、彼女が戻ってきてからぶつけてみた。すると
「お父さんが詳しいんだよ。だから、色々教えてもらった。テントの設営も家で何回も練習してさ」
そういうことか。なるほど、どうりで。
「さくらのお父さん、本当物知りだよね」
「まあ、趣味人だしな。山登りもやってたみたいだし」
うちのお父さんと正反対だ。でも、あの人のおかげで今の私がある。だから、感謝しても仕切れないくらいなのだ。
「あっ、そろそろ来る時間じゃね?」
「来るって?」
「あそこだよ」
指さした先は井川線の線路。思えば、ここって絶好の撮影スポットじゃないだろうか。真正面から線路撮れるし、眼下には接岨湖も広がっている。
「いやー、キャンプ用具にカメラは荷物かさばって大変だったぜ」
そう言って、愛機を取り出す。やけに楽しそうな口調で。
「よーし。じゃあ折角宿泊してるんだし、良いの撮ろっか」
この場所は、宿泊者の私たちだけが独占できる、絶好のロケーション。そんな希少な機会を鉄道オタク2人が逃すはずもなかった。
トンネルを抜けた私たちは、晴れて本日最後の目的地・アプトいちしろキャンプ場に到着した。接岨湖の湖畔に設けられたキャンプ場は、まさに自然に囲まれた風光明媚な地と呼ぶに相応しかった。旧線跡のすぐ側という立地も、鉄道オタク的には高評価だ。
というわけで、早速受付を済ませて自分たちのサイトへ。
「おー! 線路が目の前にある!」
サイトからは接岨湖の穏やかな湖面が広がり、その向こうの斜面には井川線の線路が右肩上がりに貼り付いていた。あれが日本最大の勾配・90パーミルの傾斜かー。実際に見てみると、確かにすごく線路が傾いているのがわかる。あそこをさっき通ってきたんだ。アプト式機関車に引かれながら。
「おーい、みずほ。テント張るの手伝ってくれ」
「え? あ、うん」
そっか。まずはテント組み立てないとだね。
「安心しろって。後で1往復、そこ通るから」
「時間わかる?」
「駅の時刻表撮ってるからバッチリ」
抜け目ない。いつの間に。
というわけで、テントの設営に移ったわけだが。これが中々難しい。ポールを通したり、ペグを打ち込んだり、想像以上に重労働なのだ。おまけに設営する向きにも、こだわりがあるらしい。ずっとさくらから、そこじゃない、ここにしろ、と言われ続けた。もうこれだけで勘弁してほしい気分だ。
「うっし、完成!」
やっとのことでテントが完成した。所要時間およそ30分。これだけで汗だくだ。
「んじゃ、私は薪買ってくるわ」
薪って買うものなんだ。初知り。
「みずほは椅子とかテーブルとか組み立てといて」
ああ、これか。折りたたみ式の小さなチェアにミニテーブル。いかにもキャンプ用品って感じ。こっちはランプか。結構色々持ってきてるんだなぁ。荷物がパンパンに膨らんでたのも納得がいく。
ていうか、やけに準備良すぎないだろうか。キャンプの知識もそれなりにあったし、テントの組み立ての手際も良かった。あいつ、キャンプの経験なんかあったっけ。ふと浮かんだ疑問を、彼女が戻ってきてからぶつけてみた。すると
「お父さんが詳しいんだよ。だから、色々教えてもらった。テントの設営も家で何回も練習してさ」
そういうことか。なるほど、どうりで。
「さくらのお父さん、本当物知りだよね」
「まあ、趣味人だしな。山登りもやってたみたいだし」
うちのお父さんと正反対だ。でも、あの人のおかげで今の私がある。だから、感謝しても仕切れないくらいなのだ。
「あっ、そろそろ来る時間じゃね?」
「来るって?」
「あそこだよ」
指さした先は井川線の線路。思えば、ここって絶好の撮影スポットじゃないだろうか。真正面から線路撮れるし、眼下には接岨湖も広がっている。
「いやー、キャンプ用具にカメラは荷物かさばって大変だったぜ」
そう言って、愛機を取り出す。やけに楽しそうな口調で。
「よーし。じゃあ折角宿泊してるんだし、良いの撮ろっか」
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