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第10章 スイッチバックスイッチバック&スイッチバック at 箱根登山鉄道鉄道線

スイッチバックスイッチバック&スイッチバック①

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 箱根はこねの山は天下の険と唄われるとおり、日本でも有数の難所として知られている。

 江戸時代には東海道の関所として箱根の関が置かれた土地。関東から上方かみがた方面へ出ていく者に対しては、特に厳しい取り締まりが行われたとか。

 時は経って明治時代。当時の鉄道省は東京、名古屋、大阪を結ぶ一大幹線を築き上げようとした。後の、東海道本線である。

 東海道本線の歴史には、箱根の急峻ぶりを示すエピソードが残っている。

 これは今も昔も変わらないことだが、東京から西へ進み、神奈川から静岡に向かおうとすれば、箱根の峠が立ち塞がる。当時の鉄道省はこの稀代の難所に立ち向かうことを避けた。線路は国府津こうづから北へ向かい、箱根の山を大きく迂回するようなルートを取り、沼津ぬまづへと至る。今もなお御殿場ごてんば線として残されている路線は、元々東海道本線だったのだ。

 時は昭和に移り、1934年。熱海あたみ~沼津間に全長7804メートルに及ぶ丹那たんなトンネルが開通し、現在の東海道本線のルートが完成する。

 が、実はこのルートも箱根を南に迂回し、熱海峠を抜ける道筋を辿っている。箱根を避けて作られた丹那トンネルが難工事を極めたのは有名な話。もし、箱根を突っ切るルートを通っていたら、どうなっていただろうか。

 後に、東海道新幹線が開通する際にも、東海道本線の線路をなぞるように経路が設定された。箱根を通ることはなく、熱海峠を新丹那トンネルで抜け、静岡へと向かっていくのである。

 日本の一大幹線がこぞって避ける箱根の峠。まさに天下の険と唄われる通りの難所ぶりである。しかし、その箱根の山々を力強く登っていく鉄道が我が日本には存在する。

 赤いボディとこじんまりとした車体が特徴的なその路線こそ、箱根登山鉄道はこねとざんてつどうである。

 6月下旬。少しずつ天候が夏へと向かっていく最中、私とさくらは箱根登山鉄道を訪れていた。

 3000形アレグラ号。2014年に運行開始された最新型の車両である。深い緑色の中でも自身の存在を主張する鮮やかな緋色。箱根の自然景観を最大限楽しめる大型の前面ガラス。足元まで伸びた車端部の側面ガラスは、まるでテーマパークのアトラクションのよう。木材をふんだんに使った内装は、網棚を廃止したことで開放感を演出していた。

 何より鉄道オタクとして嬉しいのがかぶりつき席の存在。箱根の自然景観と上下左右に曲がりくねる線路をゆったりと楽しめる最高の存在だ。

 おっと、行き止まりだ。列車は緑深い場所で動きを止める。眼前の線路は途切れていた。しかし、扉は開かない。ふと、側面ガラスの向こうに目をやった。駅名標が立っている。そして、そこにはこう書かれていた。『出山でやま信号場』と。

「スイッチバックだな」

 隣のさくらが呟いた。運転手さんが機器の確認などを終え、乗務員扉から外に出る。人1人が歩ける程度の狭いホームを歩いて後部車両へと向かっていった。入れ違うように車掌さんがこちらの車両にやってきて、乗務員室へ滑り込んだ。

「ここからは後面展望だね」

 ここから先は進行方向が変わる。私たちの乗っている車両は最後部へと変貌するのだ。

 スイッチバック。箱根登山鉄道を語る上で欠かせない要素の1つである。

 そもそもスイッチバックとは、急な勾配を登るために編み出された方法の1つである。

 例えば、急勾配の途中に駅を作ると、停車中に勾配に負けて列車が動き出してしまう危険性がある。それを避けるために、一旦平坦な場所に駅を置き、列車の進行方向を変える配線にする。これがスイッチバックの原理である。

 もちろん駅には限らない。ここ箱根登山鉄道のように、急勾配を一気に登るのではなく、進行方向を変え、行ったり来たりしながらジグザグに山を登る。これもスイッチバックである。

 スイッチバックは日本全国様々な場所で見受けられる。既に廃止になってしまったが、幼い時分に私が行った勝沼かつぬまぶどう郷駅も元はスイッチバック駅だったし、長野県の姨捨おばすて駅や熊本県の大畑おこば駅などは現役のスイッチバック駅である。

 しかし、やはり個人的にスイッチバックといえば箱根登山鉄道なのだ。なぜか。それは、この路線に乗っているだけで、3度もスイッチバックを体験できるからだ。

「おっ、動き出した」

 私たちは背後に向かって走り出す。手前から奥に向かって流れるように景色が移っていった。
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