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第7章 アルバイトを始めよう

アルバイトを始めよう②

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「さてとっと」

 さくらに連れられてやってきたのは大学の生協だった。丸形テーブルに座らされて待つこと数分、彼女はある冊子を手にして戻ってきた。

「求人誌?」

 それはアルバイトの求人冊子だった。

「生協ってこういうのも置いてあるんだね」

「そうそう。お前、使ったことないだろ?」

 うっ……。図星です。

「まっ、これ今月入ったやつだし、最新の情報は載ってるはずだぜ」

「でも、ネットの方がもっと情報新しくない?」

「まあ、そうなんだけどな」

 冊子をペラペラとめくりながら

「でも、みずほみたいに何やりたいのかすら決まってないやつには、こっちの方が向いてんだよ」

 見開いて私に向けてきた。

「バイトっつったら、定番はやっぱ接客業だよな。コンビニとかファミレス。カラオケ、ネカフェ。色々あるぜ」

 うーん……。

「接客業、か……」

 パラパラとページをめくっていく。確かに求人数は多い。ジャンルもよりどりみどりだ。アルバイトの定番っていう感じもする。なんだけど……。

「なんだよ。乗り気じゃなさそうだな」

「うん……。私、緊張しいだし口下手だし、不安だなぁ……」

 そう、私は人付き合いが得意ではない。むしろ苦手な方なのだ。大体、友達なんか小中高、そして今も数えるほどしかいない。その中で本当に気の合う親友はさくら1人だけだ。冗談でもなくこれはマジ。そんな人間が接客業? 不安しかない。

「そいや、お前友達少なかったもんな」

「それハッキリ言う?」

 事実なんですけどね。反論のしようもございません。

「接客業に不安があるなら、客と関わらない仕事とかもあるぜ」

 続いて見せられたページ。何々? 工場、引っ越し作業、警備員、夜間見回り、工事現場……。

「って、これ力仕事じゃん!」

 ますます私から遠すぎる!

「無理無理無理! こういうのは絶対無理! 私インドア派だよ!?」

「乗り鉄はアウトドア派だろ」

「そういうことじゃなくて!」

 まじめに言ってるのかふざけてるのか図りかねない。こういうとこ、ホント適当で困るなあ、もう。

「とにかくこれは却下!」

「じゃあ、やっぱり接客業じゃね?」

「それもなし!」

「お前、わがまますぎだろぉ」

 それ、さくらにだけは言われたくないんだけど?

「ていうかさ、さくらは何してるのさ」

「私?」

「そう。さくらのアルバイト」

 そういえば、彼女がどんなバイトをしてるのか、聞いたことがなかった。

「私は家庭教師だよ」

「家庭教師?」

 ふと、想像してみた。さくらが家庭教師? ええ……イメージつかない……。

「お前、失礼なこと考えてるだろ」

 うげ、バレてる。なんで? 顔に出やすいのかな、私。

 って、そうじゃなくて。

「本当に家庭教師やってるの?」

「マジだよ。本当に失礼なやつだな、お前」

 若干呆れながらため息をついて

「私は登録制のやつ。割と柔軟性あるから使い勝手良いんだよ」

 へー、そういうのもあるんだ。

「まあ、今はもう登録締め切られちゃってると思うけど。あっ、でもみずほは頭良いもんな。そしたら、塾の先生とかもありなんじゃね?」

 そう言って見せてくれたのは学習塾の募集ページだった。小学生から高校生まで年代も幅広い。

「特にほら、お前歴史とか好きだろ? 社会科だったら教えられるんじゃね?」

 そっか。特に日本史は詳しいし、テストでも常に上位の成績だったからできるかも。

「よーし! じゃあ、早速模擬授業やってみようぜ!」

「え、ここで!?」

 本当に唐突だ。彼女らしいといえばらしいのだが。

「そうそう。1対1で私に教える感じでさ、やってみなよ。家庭教師の私が採点してやるからさ」

「……よ、よーし」

 折角だから乗ってみることにしよう。大丈夫、自分の得意分野の話だから。問題ない。どんと来いだ。
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