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第6章 昔話をしようじゃないか at 中央本線・勝沼ぶどう郷駅

昔話をしようじゃないか④

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 それからどのくらい撮影を続けただろうか。かなりの撮影成果は得られたと思う。特急はE351系にE257系。普通列車はまもなくなくなると噂のスカ色115系に、さっき取り逃した信州色115系。おまけに貨物列車も撮れた。収穫は充分だ。

 写真撮影を楽しんで、私たちは再びトンネルを抜けて駅前へと戻ってきた。

 撮影に没頭しすぎて忘れかけていたが、駅前公園では鉄道フェスタが開かれている。公園内に出店や屋台が並んでいて、舞い散る桜の花びらが降り注いでいた。

「わ、すごい」

 私とおじさんは鉄道グッズ売り場で足を止めていた。最新的なグッズではなくレトログッズ。今では中々見られないものも沢山並んでいた。

 ちなみに、さくらは買ってもらった駅弁をベンチで食べている。桜の下でさくらが……いやなんでもない。やめておこう。

「これあれだ。切符にカチって入れる」

「そうそう。おじさんも見たことないよ」

 切符に入鋏印にゅうきょういんを入れるためのハサミ。硬券が主流だった頃には各地の改札で見られたものだ。自動改札が普及した今では早々お目にかかれない。

「こっちは?」

「あ、懐かしいね」

 横長のメモ帳のような切符を取り上げた。

「青春18のびのびきっぷだ。それこそおじさんが小さい頃に発売されてたやつだよ。今の青春18きっぷの前身みたいなやつだね」

 まるで子供みたいに目を輝かせていた。私にとっては単なるレトロなものでも、おじさんにとっては懐かしの品なのだ。これもまた鉄道の奥深さ、なのかも。

「折角だし、お土産に買おうかな。みずほちゃんも好きなもの選んで良いよ」

「良いの?」

「うん。買ってあげる。1個だけだけどね」

 1個だけかあ。うーん、どうしようかな。面白そうなレトログッズは沢山あるけど、1個だけに絞るのは案外難しい。

 どれか1つ。どれか1つ。どれか1つ……。うーん……。

「あっ」

 そのとき、ふと目にとまったものがあった。

「JNR?」

「国鉄のステッカーだね」

 国鉄。日本国有鉄道。民営化前のJR。ジャパニーズナショナルレールウェイでJNRってことね。なるほど。

「これにする」

「これにするの? わかった」

 そう言って、おじさんは手短に会計を済ませてくれた。

「ところで、みずほちゃん。これどこに貼るの?」

「自転車!」

「自転車?」

「うん」

 私の自転車に国鉄のステッカーが貼ってあったら面白そうだなって思ったから買ったの。絶対面白いよね。さくらに自慢しちゃうんだ。私の自転車、国鉄車だよって。

「おー、おかえり」

 さくらのもとに戻ると空になった駅弁の箱を小脇に抱えていた。食べるの早すぎじゃない?

「なあなあ、みずほ。一緒に写真撮ろうぜ!」

「写真?」

 いいけど……。さっきまでずっと写真撮ってたよね?

「電車じゃなくて私らの。いいっしょ?」

 ああ、そういうことね。

「うん、いいよ」

「お父さん撮って!」

 首から下げていた一眼をおじさんに手渡した。

「わかった。どこで撮る?」

「へへへ、それはもう決めてんの」

 そう言って手を引っ張られた。なすがままについていくと、向かった先は電気機関車の前だった。公園内に展示されているEF64だ。

 四角く角張ってゴツゴツとしたフォルムと、なんともいえない年季を感じさせる顔は、年老いたおじいさんを思い起こさせた。ブルーとホワイトのツートンカラーは桜のピンク色と綺麗な対比を見せ、車体が桜のカーテンの中に浮き上がっているようにさえ見えた。

「ここで良いの?」

「ここが良いの!」

 そう言って、さくらのキラキラとした楽しそうな表情が私に向いた。

「一緒にポーズ、決めようぜ!」

 その日2人で撮った写真を、さくらは今でも大切に飾ってあるのだとか。と、これは彼女と再会した後に聞いた話なのだが。

『旅の思い出は、忘れていても、ふとしたときに蘇るものである。 MIZUHO』
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