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第4章 超SL祭り at 真岡鉄道真岡線

超SL祭り④

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 耳をつんざき、お腹に響くような警笛が鳴り響くと、滑り出すように走り出した。心地よい揺れと共に徐々にスピードが上がると、黒煙が窓からも確認できるくらいに伸び始めた。

 車内の席はボックスシートが埋まるくらいの混雑具合。網棚の上は荷物で埋め尽くされている。鉄道ファンや子供連れの話し声、カメラのシャッター音がくぐもったように響いていた。

 うんうん、鉄道旅行って感じ。

 下館駅を発車すると、すぐに検札が回ってきた。車掌さんから乗車証明書を貰ったら(硬券だった。テンション上がる)、少し早めの昼食タイムといこう。本日のお昼は駅弁、ふるさとSL弁当だ。

 SLもおかで販売されているこのお弁当は、事前の予約で下館駅でも購入することができる。必ず確保しておきたかった私は、事前予約という手をとったのだ。ふふふ、この辺りは抜かりないのである。

 容器は木製のわっぱ。蓋にSLの焼き印がされている。手作り感があって良い。

 では、いざオープン。

「ちょっと待った」

 とそのとき、対面のさくらからストップがかかった。

「何?」

「窓閉めてもらえるか?」

「え、閉めちゃうの?」

 この車両には空調設備がついていない。だから天井で扇風機が回っているわけだが、それだけでは出力不足だ。窓を開けておかないと暑くて仕方ないと思うんだけど。

「バカ、すす入ってきてるの気付かねえの?」

 煤? と思って全身を見下ろしてみた。服の上にハッキリと黒い小さな粒が貼りついている。払ってみるとパラパラと落ちた。

「本当だ! 煤だ!」

 思えば、SLの煙が入ってきてるのだ。煤まみれになるのも当たり前の話であって。

「こんなことにも気付かないなんて……!?」

「いいから閉めてくれ」

 互い違いに配置された二枚窓の下半分を下ろした。こういうところもレトロで良いなぁ。新しい車両って一枚窓のこと多いもんね。

 では、改めて。ご開帳。

 ……おお。ご飯の上にこれでもかと地のものが敷き詰められている。

 海老にさつまいも、蓮根、人参。その下にはそぼろ状の玉子、鶏肉、鮭が国旗のように3列に並んでいた。付け合わせはブロッコリーにミニトマト、栗の甘露煮だろうか。中々豪勢なラインナップだ。

 ちなみに、お弁当に使われているのは地元筑西市の特産品ばかり。お米まで筑西市産という徹底した地産地消ぶりだ。

 うーん、どこからいこうかな。ちょっと迷っちゃう。

「んっ、うまー」

 対面ではさくらが海老の身にかぶりついていた。うん、こいつはこういうやつだ。知っている。自分の好きなものから真っ先に食べて、嫌いなものは私に押しつけてくるんだ。子供の頃から経験済み。どうせ、ミニトマトとブロッコリーが飛んでくるんだ、後で。

 さて、気を取り直そう。折角なので、そぼろの部分から食べてみようかな。端っこの鮭の方からいただきます。

 うん、美味しい。しっかり加熱された鮭の身が舌の上でほどけていく。その後にくる独特の塩味。それがお米と抜群のハーモニーを奏でている。相性抜群だ。お米ももっちり感があって食べ応えがある。

 お次は鶏肉だ。こちらもほろほろのそぼろが舌の上で踊っている。鮭と違って身が崩れないから、まるで口の中でバレエが催されているようだ。甘辛いタレがこれまたご飯とベストマッチ。

 そして玉子だ。こちらはふわふわのクッションのような食感。優しい甘さが口の中をさっぱりとリセットさせてくれる。むむむ、この三連撃、中々やるな。計算され尽くされた三連コンボだ。

 今度は蓮根をいただこうか。茨城県が生産量日本一、まさに地元の王様野菜。おお、かじった瞬間にシャクっと良い音。歯ごたえ、噛み応え、抜群。お酢の酸味が口内を刺激する。酸っぱいけど、根菜類独特の甘みも効いている。

 すかさずさつまいもをパクリ。こちらは茨城県が生産量全国2位だ。うーん、ほんのりとした甘みが広がっていく。蓮根の甘味が硬めのクッションだとしたら、こちらはふわふわのソファだ。全身が包まれていくよう。

 1つのお弁当で様々な食材と味わいが楽しめるんだ。これはすごい。ただ地のものを詰め込んだだけじゃない。食材も味付けも計算され尽くされている。もう私はこのお弁当の術中に完全にハマってしまった。私の負けだ。完敗。

「みずほ、これあげる」

 と、私がじっくり味わっている隙に、前方からブロッコリーとミニトマトが飛んできた。予想通りすぎて逆に怖い。まあ、食べてあげるけど。仕方ないなぁ、昔からの付き合いだから許してあげる。

「その代わり栗ちょうだい」

「絶対やだ」

 そこまでは許しません。

 そういえば、この入れ物、わっぱの中にプラスチックのトレーが入ってる構造をしている。ということは、外側のわっぱは持ち帰れそうだ。よし、旅のお土産だ。我がコレクションに加えてあげよう。

「みずほ、食べないならもらっちまうぞ?」

「ダメです。もう、小学生の給食じゃないんだから」

 また警笛が鳴った。私たちを乗せてSLは走っていく。左右にのんびりと揺れながら、鉄路の続くその先へ。
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