上 下
17 / 184
第3章 日常の中の非日常 at 京成本線・大佐倉駅

日常の中の非日常④

しおりを挟む
 その後も私たちは城跡巡りを続けた。構造物は何も残されていないけど、当時を偲ばせる遺構はそこかしこに残されていた。行きに当たった分かれ道も城の中なのだと地図を見てわかった。あの辺りはセッテイと呼ばれているらしい。ぬかるんだ道を進むと空堀の跡などを巡れるようだ。

 そうして歴史のロマンに触れた私たちは北のあたりから城を出た。お城を抜けると、ちょうど田園地帯を通る京成線の線路が広がっていた。中々良い撮影スポットになるんじゃないかなと思いながら、大佐倉駅へと戻っていった。

 駅からは押上おしあげ方面行きの快速電車に乗って帰路についた(途中の青砥あおとで京成上野行きの列車に乗り換える算段で)。8両編成のステンレス製の列車に乗り込んで揺られれば、京成電鉄という大手私鉄の沿線にいたのだという実感が湧き上がってくる。

 大手私鉄にあんな駅があったのだ。まるで夢見心地のようだった。

「なんか信じられないよな」

 東京に向かうにつれて、建物も増えてくれば高層建造物も数を増す。車窓の移り変わりが激しい中、さくらがボソッと呟いた。

「うん、わかる」

「あんな駅があるんだもんなぁ」

「そうだね。やっぱり京成の駅とは思えなかったよね」

「城跡もあるんだもんなぁ」

「のどかすぎて信じられないよね」

 でも、確かにあったんだ。まるで地方私鉄のような駅も、坂東武者ばんどうむしゃが夢を託して消えていった城跡も。

「あっ!」

 そのとき、さくらが突然声を上げた。

「どうしたの?」

「見てくれよ、私のスニーカー!」

 さくらの桜色のスニーカー。それが泥にまみれて茶色いまだら模様に染まっていた。

「そういえば、結局ぬかるみ通ったもんね」

「うわー、帰ったら洗わなきゃじゃん」

 ふと、自分の足元も見てみた。デニムの裾がはねた泥で汚れている。

 あーあ、私も仲間だ。こりゃ、お母さんに怒られるかもしれない。

 でも、なんでだろう。絶対雷を落とされる未来が待っているのに、泥汚れに感慨を抱いてしまう。それってたぶん、今日の旅に満足しているからだ。鉄道も歴史も堪能できた、2人きりの小さな冒険に。

『日常の中に非日常をみつけた。 MIZUHO』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

同僚くすぐりマッサージ

セナ
大衆娯楽
これは自分の実体験です

女の子なんてなりたくない?

我破破
恋愛
これは、「男」を取り戻す為の戦いだ――― 突如として「金の玉」を奪われ、女体化させられた桜田憧太は、「金の玉」を取り戻す為の戦いに巻き込まれてしまう。 魔法少女となった桜田憧太は大好きなあの娘に思いを告げる為、「男」を取り戻そうと奮闘するが……? ついにコミカライズ版も出ました。待望の新作を見届けよ‼ https://www.alphapolis.co.jp/manga/216382439/225307113

処理中です...