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第3章 日常の中の非日常 at 京成本線・大佐倉駅
日常の中の非日常②
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大佐倉駅は千葉県佐倉市にある京成電鉄本線の駅である。その特徴は何といっても京成電鉄内で最も利用者数が少ないことだ。
京成といえば関東の大手私鉄の1つ。上野から成田空港まで有料特急が走っている他、23区東部から千葉県内にかけて路線が展開されており、通勤路線としても成田空港へのアクセス路線としても利用されている。
そんな大手私鉄会社でありながら、いわゆる秘境駅のような雰囲気が味わえる場所こそがこの大佐倉駅なのである。
立地上森の中にあるような錯覚を覚えるこの駅の周りには、民家や商店が数軒連なっている。列車も20分に1本は止まるし、快速特急以外の種別は全て停車する。秘境度でいえば決して高くはないのだが、やはり大手私鉄の駅とは思えないような閑静な佇まいと、京成佐倉駅という一大ターミナル駅の1駅隣にあるにもかかわらずトップクラスに利用者が少ない点が評価が高い。
はっきり言って都会育ちの私にとっては充分秘境駅だ。
「いやー、良い感じだな」
ファインダーを覗きながらさくらが言った。アンバランスな自動改札機を抜けて、私たちは既に構外へと出ている。
「なんかあれじゃね? 東北の地方私鉄の駅みたいな感じじゃね?」
ああ、わかる。
木々に囲まれている点、田園地帯を抜けて到達した点、小さなベンチと申し訳程度の屋根しかホーム場の構造物がない点などに地方私鉄っぽさを感じられる。ホーム上のトイレもプレハブみたいな形をしていた。相対式ホームをつなぐ構内踏切と、駅のすぐ東に設けられた踏切もそれっぽさを引き出していた。本当は京成の駅なんだけどね。
「でも、たぶん地方私鉄だったら、ここ切符の発券とかできるタイプの大きな駅だよ」
プラスすれ違いができるからダイヤ上の重要な拠点になりうる。京成は複線だからそんな必要ないんだけど。
「おっ、列車来る」
駅前の踏切が軽快な音を鳴らし始めた。遮断機がのんびりと降りる。
「よし、折角だし撮るか」
さくらは踏切の脇に立ってカメラを構えた。駅に向かって。
「え、そっち?」
私は思わずそう尋ねた。
「なんで?」
「いや、こっち側の方が良くない?」
線路の先を指さした。駅とは反対側。遮蔽物が何もない方向。
「いや、駅で撮ってる感出したい」
「あっ、そう」
好みは人それぞれだし良いかなと思った。私は駅を背にして撮りたいから、さくらとは逆方向にレンズを向けることにした。
ちょうど上り列車と下り列車が同時に来るところだった。まず、私は上野方面の列車から撮影した。踏切にさしかかる手前辺りからシャッターを切って連写。次いで駅を発車した成田方面の列車のお尻を狙う。こう見るとやっぱり大手私鉄なんだなぁ、と思いながらシャッターを切り続けた。
「うーん」
踏切が鳴り止む。遮断機が上がると再び静寂が降り、関東平野にいる実感を奪い去っていった。
「どうだった?」
さくらが駆け寄ってきて覗き込んでくる。
「うん、なんていうかね」
先ほど撮った写真を確認する。私は撮り鉄ではないから写真の善し悪しには詳しくない。自分で納得できればそれで良いと思っている。のだが。
「どうしても、さくらに目が行っちゃうんだよね」
踏切脇でカメラを構えるさくらが、写真の端っこに写り込んでいた。人によって抱く印象は変わるだろうが、私にはどうしても微笑ましい光景に見えて仕方がない。
「これじゃまるで写真撮ってる鉄オタを撮ったみたいな感じ」
「あっ、それ私もだわ!」
そう言って彼女の撮影したものを見せてきた。踏切脇にカメラを構える私の姿がばっちり入り込んでいた。
「何これ。おんなじじゃん」
「だろ? 私のも写真撮る鉄オタの写真」
2人して笑いが止まらなかった。こんな些細なことで笑えるなんて本当に幸せだ。でも、鉄道と出会わなければ、さくらと出会わなければ、感じることのできなかった楽しさなのだ。
私たち2人の笑い声は静かな空間に溶けるように消えていった。
京成といえば関東の大手私鉄の1つ。上野から成田空港まで有料特急が走っている他、23区東部から千葉県内にかけて路線が展開されており、通勤路線としても成田空港へのアクセス路線としても利用されている。
そんな大手私鉄会社でありながら、いわゆる秘境駅のような雰囲気が味わえる場所こそがこの大佐倉駅なのである。
立地上森の中にあるような錯覚を覚えるこの駅の周りには、民家や商店が数軒連なっている。列車も20分に1本は止まるし、快速特急以外の種別は全て停車する。秘境度でいえば決して高くはないのだが、やはり大手私鉄の駅とは思えないような閑静な佇まいと、京成佐倉駅という一大ターミナル駅の1駅隣にあるにもかかわらずトップクラスに利用者が少ない点が評価が高い。
はっきり言って都会育ちの私にとっては充分秘境駅だ。
「いやー、良い感じだな」
ファインダーを覗きながらさくらが言った。アンバランスな自動改札機を抜けて、私たちは既に構外へと出ている。
「なんかあれじゃね? 東北の地方私鉄の駅みたいな感じじゃね?」
ああ、わかる。
木々に囲まれている点、田園地帯を抜けて到達した点、小さなベンチと申し訳程度の屋根しかホーム場の構造物がない点などに地方私鉄っぽさを感じられる。ホーム上のトイレもプレハブみたいな形をしていた。相対式ホームをつなぐ構内踏切と、駅のすぐ東に設けられた踏切もそれっぽさを引き出していた。本当は京成の駅なんだけどね。
「でも、たぶん地方私鉄だったら、ここ切符の発券とかできるタイプの大きな駅だよ」
プラスすれ違いができるからダイヤ上の重要な拠点になりうる。京成は複線だからそんな必要ないんだけど。
「おっ、列車来る」
駅前の踏切が軽快な音を鳴らし始めた。遮断機がのんびりと降りる。
「よし、折角だし撮るか」
さくらは踏切の脇に立ってカメラを構えた。駅に向かって。
「え、そっち?」
私は思わずそう尋ねた。
「なんで?」
「いや、こっち側の方が良くない?」
線路の先を指さした。駅とは反対側。遮蔽物が何もない方向。
「いや、駅で撮ってる感出したい」
「あっ、そう」
好みは人それぞれだし良いかなと思った。私は駅を背にして撮りたいから、さくらとは逆方向にレンズを向けることにした。
ちょうど上り列車と下り列車が同時に来るところだった。まず、私は上野方面の列車から撮影した。踏切にさしかかる手前辺りからシャッターを切って連写。次いで駅を発車した成田方面の列車のお尻を狙う。こう見るとやっぱり大手私鉄なんだなぁ、と思いながらシャッターを切り続けた。
「うーん」
踏切が鳴り止む。遮断機が上がると再び静寂が降り、関東平野にいる実感を奪い去っていった。
「どうだった?」
さくらが駆け寄ってきて覗き込んでくる。
「うん、なんていうかね」
先ほど撮った写真を確認する。私は撮り鉄ではないから写真の善し悪しには詳しくない。自分で納得できればそれで良いと思っている。のだが。
「どうしても、さくらに目が行っちゃうんだよね」
踏切脇でカメラを構えるさくらが、写真の端っこに写り込んでいた。人によって抱く印象は変わるだろうが、私にはどうしても微笑ましい光景に見えて仕方がない。
「これじゃまるで写真撮ってる鉄オタを撮ったみたいな感じ」
「あっ、それ私もだわ!」
そう言って彼女の撮影したものを見せてきた。踏切脇にカメラを構える私の姿がばっちり入り込んでいた。
「何これ。おんなじじゃん」
「だろ? 私のも写真撮る鉄オタの写真」
2人して笑いが止まらなかった。こんな些細なことで笑えるなんて本当に幸せだ。でも、鉄道と出会わなければ、さくらと出会わなければ、感じることのできなかった楽しさなのだ。
私たち2人の笑い声は静かな空間に溶けるように消えていった。
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