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第2章 友と2人で at 上信電鉄上信線
友と2人で⑥
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お腹も心も満足した私たちは満を持して富岡製糸場へ向かった。2014年に世界遺産に登録された富岡製糸場は、明治初期に官営として作られた製糸場だ。日本の殖産興業の模範となる工場であり、機械による絹糸の製造は日本の近代化や絹産業の技術革新に大きく貢献した。
この富岡製糸場の設立に貢献したのが尾高惇忠。昨年の大河ドラマの主人公・渋沢栄一の従兄弟にあたる人物だ。もちろん栄一も設立の一助を担っている。その影響もあり、観光客の数は右肩上がりだとか。まあ、私もその影響で行ってみようと思い立ったのだが。
見学してみて感じたことは、明治や大正期に作られた建物がそのまま残されていることだ。特に国宝に指定されている西置繭所は、圧倒されたものだ。レンガ作りの外壁と漆喰で塗られた内壁、屋根を支える木造の柱。無骨ながら美しく洗練された作りの建物は長く広く、薄暗い空間の中にほのかに香る木の匂いが歴史の重みを感じさせた。
上信電鉄といい、富岡製糸場といい、今日は古くから残る建造物をたくさん見た気がする。そのどちらも堪能することで、歴史のロマンを感じさせられた。そんな旅路だった。
そういうわけで(飽き気味の)さくらを連れてじっくり見学を進めた後、私たちは上州富岡駅へ戻ってきた。いよいよ家路につく。なんだかあっという間だった。
帰りの電車は500形電車。元々西武新101系として使われていた車両だ。出目金のような丸いヘッドライトが可愛らしい。現在は4編成のみ西武鉄道に残されているが、かつては池袋線や新宿線で多くの通勤客を運んでいた車両である。
「なあ、みずほさ」
抵抗制御に揺られる中、さくらが口を開いた。
「昔の感覚で一緒に出かけられる気がしたんだけどさ、なんか違かったよな?」
「昔の感覚って?」
「子供の頃、一緒に色んなとこ行ったろ? そのときの感覚となんか違うんだよなぁ」
不思議そうに唸っているけど、私にはその答えがわかっていた。
「さくらのお父さんがいないからでしょ?」
「あっ、そっか。お父さんも一緒だったもんな、昔は」
保護者的な役割でついてきてくれてたもんね。あの人が一番はしゃいでた気がするけど。
「じゃあ、2人きりで出かけるの初めてか!」
「んなわけないでしょ。昔2人でスタンプラリー行ったじゃん」
「そうだっけ?」
本当にこいつは。
「行ったよ。2人してハマってたゲームのスタンプラリー。JRでやってたじゃん。全部のスタンプコンプするんだって息巻いてたでしょ。あれ、振り回されてたの私だからね?」
「あー、あったあった。あったな、そんなこと」
「本当にもう。しっかりしてよ、さくらの記憶力」
「いやいや、みずほも私のこと忘れてたし。これでおあいこだろ」
「それは言わないでよ!」
でも……。
確かにあのスタンプラリーと比べても、こうして今2人で旅をするのはちょっと感覚が違う。それはきっと、私たちが大人になって、6年間離ればなれになって、お互い違う環境で成長してきたからなんだと思う。
だとしたら、さくらと再び出会えたことは、もしかしたら奇跡と呼んでも差し支えないのかもしれない。きっとそうだと信じたい。絶対本人には言わないけど。
ふと、夕日が目に入った。眩しさに一瞬目をつぶってから、背後の車窓を振り返った。傾いた陽光に照らされた車両の影が長く伸びて、田園地帯に張り付いていた。思わずファインダーを窓に向け、シャッターを切った。
電車が作る影法師。だけどそれは、私とさくらの2人の影法師のようにも見えた。
『1人旅も楽しいけど、親友と2人の旅は2倍楽しい。 MIZUHO』
この富岡製糸場の設立に貢献したのが尾高惇忠。昨年の大河ドラマの主人公・渋沢栄一の従兄弟にあたる人物だ。もちろん栄一も設立の一助を担っている。その影響もあり、観光客の数は右肩上がりだとか。まあ、私もその影響で行ってみようと思い立ったのだが。
見学してみて感じたことは、明治や大正期に作られた建物がそのまま残されていることだ。特に国宝に指定されている西置繭所は、圧倒されたものだ。レンガ作りの外壁と漆喰で塗られた内壁、屋根を支える木造の柱。無骨ながら美しく洗練された作りの建物は長く広く、薄暗い空間の中にほのかに香る木の匂いが歴史の重みを感じさせた。
上信電鉄といい、富岡製糸場といい、今日は古くから残る建造物をたくさん見た気がする。そのどちらも堪能することで、歴史のロマンを感じさせられた。そんな旅路だった。
そういうわけで(飽き気味の)さくらを連れてじっくり見学を進めた後、私たちは上州富岡駅へ戻ってきた。いよいよ家路につく。なんだかあっという間だった。
帰りの電車は500形電車。元々西武新101系として使われていた車両だ。出目金のような丸いヘッドライトが可愛らしい。現在は4編成のみ西武鉄道に残されているが、かつては池袋線や新宿線で多くの通勤客を運んでいた車両である。
「なあ、みずほさ」
抵抗制御に揺られる中、さくらが口を開いた。
「昔の感覚で一緒に出かけられる気がしたんだけどさ、なんか違かったよな?」
「昔の感覚って?」
「子供の頃、一緒に色んなとこ行ったろ? そのときの感覚となんか違うんだよなぁ」
不思議そうに唸っているけど、私にはその答えがわかっていた。
「さくらのお父さんがいないからでしょ?」
「あっ、そっか。お父さんも一緒だったもんな、昔は」
保護者的な役割でついてきてくれてたもんね。あの人が一番はしゃいでた気がするけど。
「じゃあ、2人きりで出かけるの初めてか!」
「んなわけないでしょ。昔2人でスタンプラリー行ったじゃん」
「そうだっけ?」
本当にこいつは。
「行ったよ。2人してハマってたゲームのスタンプラリー。JRでやってたじゃん。全部のスタンプコンプするんだって息巻いてたでしょ。あれ、振り回されてたの私だからね?」
「あー、あったあった。あったな、そんなこと」
「本当にもう。しっかりしてよ、さくらの記憶力」
「いやいや、みずほも私のこと忘れてたし。これでおあいこだろ」
「それは言わないでよ!」
でも……。
確かにあのスタンプラリーと比べても、こうして今2人で旅をするのはちょっと感覚が違う。それはきっと、私たちが大人になって、6年間離ればなれになって、お互い違う環境で成長してきたからなんだと思う。
だとしたら、さくらと再び出会えたことは、もしかしたら奇跡と呼んでも差し支えないのかもしれない。きっとそうだと信じたい。絶対本人には言わないけど。
ふと、夕日が目に入った。眩しさに一瞬目をつぶってから、背後の車窓を振り返った。傾いた陽光に照らされた車両の影が長く伸びて、田園地帯に張り付いていた。思わずファインダーを窓に向け、シャッターを切った。
電車が作る影法師。だけどそれは、私とさくらの2人の影法師のようにも見えた。
『1人旅も楽しいけど、親友と2人の旅は2倍楽しい。 MIZUHO』
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