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第2章 友と2人で at 上信電鉄上信線

友と2人で④

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 上信電鉄の旅は片道約1時間。途中までは関東平野を南西方向に進んでいく。田園地帯の中を走り抜けるのどかな車窓は、緑と茶色のツートンカラーが流れてゆく。ともすれば退屈なように映りかねないが、我々都会の人間からすれば心洗われるような風景なのだ。まるで日本の原風景を見ているような気分になる。毎日都心に通学しているから尚更だ。

 上州七日市じょうしゅうなのかいち駅を過ぎると、標高が上がり始めた。長年鉄道に乗っていると感覚でわかるのだ。段々と田畑が少なくなり始め、車窓に山並みが目立ち始める。徐々に山岳路線の様相を呈していき、いよいよ峠越えかと思われるようなところで終点の下仁田に到着した。

 ここは終着駅。当然全ての人が降り立つ場所。私たちも例外ではない。改札を抜けて駅舎の外へ。上信電鉄、全線完乗である。

「おっ、これいいな」

 さくらが駅舎にファインダーを向けていた。連続でシャッター音が響く。

「好きだね、こういうの」

「まあな。年季入ってるしな」

 言われてみれば確かにそうだ。木造の駅舎はどこかしなびれているような印象を受ける。人に例えるなら腰の曲がったおじいさんといった具合だろうか。駅舎の中も昭和の雰囲気を色濃く残していた。まるで過去からそのままタイムスリップしてきたような錯覚さえ抱く。

 折角だし撮っておこうかな。私も1枚だけ写真に収めた。

 それから、駅舎に張り付いているさくらを置いて、少し駅の周辺を回ってみることにした。折り返しの列車が発車するまで30分以上はある。少しぶらついてみるのもありだろう。

 ふと、駅前の県道を挟んで向かい側に目がとまった。お土産屋の看板が出ている。下仁田といえばネギやコンニャクが有名だ。買っていけばお母さんに喜ばれるだろうか。時間もあるし、ちょっと覗いてみよう。

「いらっしゃい」

 店内に入ってみると個人商店のような店構えだった。年配のおばちゃんが1人だけ。店舗自体もさほど大きくはない。

 おお、あるある。ネギにコンニャク。流石は下仁田だ。でも、どうしようかな。ネギは持ち運ぶの大変だし、臭いが気になる。コンニャクはどうだろう。豚汁やおでんには使うけど、これから温かくなる時期だから、そんな献立は作らないかも。せめてお味噌汁の具にでも使えれば良いんだけど、うちは入れないしなぁ、コンニャク。

 そう考えると、鉄道旅行で買えるお土産の選択肢って少ないかも。

「あれ?」

 違う一角に目がいった。乳製品やお菓子の類いが並んでる。

神津こうづ牧場特産品?」

 POPにはそう書いてあった。地元の牧場なのかな? 初耳だ。

「あら、お嬢ちゃんもそれ気になるの?」

 気付けば店員のおばちゃんが近くに立っていた。気さくな方なのかな。

「『も』って、他の人もなんですか?」

「そうそう。下仁田といえばネギとコンニャクじゃない? だから、神津牧場のことはあまり知らない人が多くてね」

 やっぱりそうなんだ。

「下仁田の牧場なんですか?」

「そう。軽井沢との境の方にあるんだけどね。日本初の洋式牧場として明治の内に作られたんだって」

 へー、結構歴史が古いんだ。新しい発見。

「神津の牛乳はね、濃厚で美味しいよ」

 確かにジャージー牛乳が売られている。うーん、でも牛乳は持って帰るまでにぬるくなっちゃうかも。

 他の乳製品はどうだろう。バターにチーズに。飲むヨーグルトまで売られている。

「あっ、これ良いかも」

 ふと、目に入ったものを取り上げた。神津ジャージー牛乳使用のドーナツだって。これなら冷めたりぬるくなることを気にしなくても良いし、日持ちもしそうだ。何より、私は甘い物が大好きなのである。

「これください」

「はいよ、ありがとね」

 というわけで、早速購入。ちょっとお高めだったけど無問題。家に帰ってから食べるのが楽しみだ。

「お嬢ちゃん、鉄道好きなの?」

「え?」

 会計が済んだタイミングで唐突にそんなことを言われた。

「ほら、そのカメラ」

「ああ……」

 確かに首から一眼をかけたままだった。駅舎撮った流れでそのまま来ちゃったものね。

「はい、好きです」

「そう。うちは駅の目の前だからね、よく鉄道好きな子が寄ってくれるのよ」

 下仁田は終着駅だから、鉄道ファンの多くはここでそのまま折り返しの列車に乗って戻っていく。私もその口だ。そんな人間にとって駅前のお土産屋や飲食店は非常に助かる。

「ありがとね。気をつけて楽しんでいって」

「はい。こちらこそありがとうございました」

 商品をリュックに詰めて駅へと戻った。こういうのも旅の醍醐味なのだ。楽しい。

「おお、みずほ。どこ行ってたんだよ?」

 駅に戻るとさくらが1人、まちぼうけを食らっていた。当たり前か。私が置いていったんだもの。

「そこのお土産屋さん寄ってた」

「私に一言言ってから行けよ」

「ごめんごめん」

 いささか不安げな表情がたまらなかった。噴き出すのを我慢できたのは自分で自分を褒めてあげたい。

「結構地元の人いるね」

 駅舎内のベンチは半数近くが埋まっていた。

「みんな上信乗るのかな?」

「いや、大半は私らが乗ってたやつに乗ってた人だよ。ここ、バスターミナルにもなってるからさ」

 ああ、なるほど。接続の路線バスを待ってるのか。

「なんか、こういうの良いね」

 ローカル線の良いところは、地元の人たちの営みを垣間見られるところにある。私たちにとっての非日常は、地元の人にとっての日常。誰かの日常の中に非日常の他人がお邪魔している。その感覚がたまらなく好きなのだ。

「そうだな。まっ、私らは折り返しので帰っちゃうんだけどな」

「そうだね」

 旅の往路はこれで終わり。ここからは復路の始まりだ。
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