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第2章 友と2人で at 上信電鉄上信線

友と2人で③

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 上信電鉄上信線じょうしんでんてつじょうしんせん。高崎駅から下仁田しもにた駅までを結ぶ群馬県のローカル鉄道。名前の上は上州から、信は信州から取ったもので、元々長野県まで路線をつなぐ予定だったらしい。結局それは実現しなかったけど、社名と路線名にその痕跡が残されている。

 私がこの路線を選んだ理由は2つある。1つは、まだ乗ったことがない路線だから。もう1つは、沿線に富岡製糸場が立地すること。折角なので観光もしようかと考えて思いついたのが富岡製糸場だった。何しろ世界遺産。しかも、昨年の大河ドラマともゆかりの深い場所である(そう考えると深谷で途中下車したのは運命かも?)。

 というわけで、目的地を群馬県は上信電鉄に定めたという次第だ。

 さて、改札を抜けてホームに出た私たちを2両編成の列車が待ち受けていた。それを見て私は再びテンションを上げてしまう。

「あっ。107系!」

 人がいないことを確認して小走りで先頭へと向かう。そして、愛機のカメラを取り出し早速シャッターを切り始めた。

 107系と言ったが正確には700形電車だ。元々はJR107系。だから、ついつい昔の形式で呼んでしまう。

 この列車は元々群馬や栃木のJR線で通勤用電車として導入された車両だ。JR化後まもない時期に製造された車両なのだが、その稼働期間は短い。2017年のダイヤ改正によって定期運用から離脱することになった。

 しかし、その車両が上信電鉄に譲渡され、新たに700形として生まれ変わった。要するに、第2の人生、いや列車生を歩んでいるのだ。

 私も107系引退の際は乗りに行ったものだ。だから、ついつい感慨深くなってしまう。久しぶりに会うその姿に高まるものを抑えきれないのだ。

 四角く角張ったボディにちょっととぼけたように見える顔。白地に緑とピンクのラインが入った姿はJR時代と変わらぬカラーリングだ。旧友に久しぶりに会ったときのような懐かしさを抱く。

 ん? 旧友といえば……。

「おーい」

 さくらがドアから顔を覗かせていた。

「発車しちまうぞ」

「ごめん! すぐ乗る!」

 いかんいかん。熱中しすぎた。私は慌てて飛び乗った。

 車内はいくぶんか改装の痕が見られた。運転席上にはLCDの運賃表示器。運転席前には運賃箱。地方私鉄にはよく見られる光景だ。しかし、それらはJR時代には設置されていなかった。そうか、本当に新しい人生を歩み出したんだね。なんかジーンとくる。

「みずほ、こっちだぞ」

「ああ、うん」

 さくらがポンポンと隣の座席を叩いていた。私は荷物を網棚に上げて、そこに腰を下ろす。

「随分はしゃいでたな?」

「そりゃそうだよ! だって、107系だよ!」

 ふと、周囲の視線がこちらに刺さってることに気付いた。いかん、声が大きすぎた。ごめんなさい。

「そんな思い入れあんの?」

「ううん、ない」

「随分きっぱり言うな」

 だって事実だし。

「でもさ、引退するときに乗りに行ったりしたからさ。久しぶりに乗れる! ってなったらこうなっちゃうよ」

「まっ、その気持ちはわかるけどな」

 グラッと揺れが襲う。どうやら走り始めたようだ。

「私も房総の209とか見たらテンション上がる」

「わかる! 元々京浜東北線のだもんね」

 あっ、なんか久しぶりだな。この鉄分の濃い会話。中高時代は趣味の合う友達いなかったからなぁ。

「あとはお父さんと長電ながでん行ったときかな」

長野電鉄ながのでんてつ?」

「そう。あそこの特急、元ロマンスカーと元NEXだからさ」

「ああ、懐かしいよね。子供の頃走ってた電車ってイメージ」

「そうなんだよなぁ。こんなところでまだ頑張ってんだなってなるよなぁ」

 そう言って窓の向こうに目をやった。

「おっ、あれ新幹線の高架じゃね?」

「え? あ、本当だ」

 上信電鉄の線路を跨ぐように伸びている新幹線の線路が近づいてきた。ということは……。スマホの地図アプリを開いた。

「ちょうど佐野のわたしのところだね」

 高崎から2駅目。まだ旅は始まったばかりだ。
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