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序章

 序章:16 "天樹で学ぶ異世界鍛練事情(下)"

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 現在ドリフターズのうちの三体、シムーフ・カロト・イローハキを倒したリベルは未だに攻撃を仕掛けず、待ちの状態に徹するブーロックとチョウザンを見据え、自身の実力と相手の力量を分析していた。

「ブーロックはまだ手の内が知れているからいいとして、チョウザンに関しては未知数だからなぁ。二体で来られたらまず勝ち目がない」

 そんな時、チョウザンの前に立っていたブーロックが数歩だけ前進し、片方に金棒、もう片方には棘付き鉄球が付いた鉄球棍を頭上に持ち上げ、振り回し始めた。

ブーロック⦅ーーー⦆ーーー。

 次第に金棒からは水が、鉄球からは炎がそれぞれ上空へと飛び出し、二つが合わさった瞬間に爆発音と共に水蒸気が発生。ブーロックはそれを連続で生み出し続け、次第に上空には雨雲が出来上がり雨が降り始めた。

「やっぱり出してきた。ブーロックの"雷起こし"!」

 雨が降りリベルが身構えていると、ブーロックは武器を振り回すのをやめた。
 その後アフロに隠れていた小さな角が黄色に発光した途端、ブーロックの木製の身体が帯電し始め、武器も同様に雷を帯びていた。
 そしてブーロックは金棒の方を地面に強く叩きつけた。

ブーロック⦅ーーー⦆ッ!

 ブーロックが叩きつけた武器から雷が飛び出し、上空の雲へと吸い込まれるように消えていった。すると雨雲が黒い雷雲へと変化しゴロゴロと音を立てた。

(くるっ!)

 リベルは構えを解き、身を低くしてしゃがみ込み、次の瞬間には周囲に激しい光が複数見えた。

カッ!ゴオォォォンッ!!

「くぅッ!!」

 落雷だ、と思った時には木々や岩が轟音とともに焼け落ち、砕け散っていた。

「ホントに怖い!これじゃあ下手に動けやしないよ!」

 ブーロックは武器に火と水。自身に雷の属性を付与されたオートマタで、見た目と武器に似合わず、属性を重視した遠距離戦を得意としている。
 雷属性はブーロックの動作による摩擦運動で作り出されるもので、せいぜい自身と武器に纏わせるのみで飛ばすことは本来ならできない。
 しかし、火と水の属性二つで生み出された雨雲を利用することで雷を飛ばし、落雷を起こさせている。よってその威力は大地にも轟く雷撃へと昇華しているのだ。
 雷を操るその姿は、まさに雷様その人の様だった。

「この落雷をどうにかしないと近づくことすら出来ない。けど、前に槍を投げて倒した時はその後の落雷でやられたし。接近戦に持ち込んでも雷を纏った状態になったら触れることもできない」

 現在、ブーロックは次の雷起こしを発動するために再び武器を振り回して雷を発生させている。帯電状態のブーロックは触れるだけでも感電してしまうため喰らったが最後、やられ放題だ。どう転んでも隙がない。

「…だったらやることは一つ!」

 姿勢を戻し、立ち上がったリベルは術式・高速機動を発動し、思いっきり前進した。

「雷起こしを発動させて何とか回避!それから接近戦で一撃で倒す!しかない!!」

 方針が定まり、意を決したリベルの顔には若干の気後れはあるものの迷いは無かった。

ブーロック⦅ーーー⦆ッ!!

 リベルが動き出したことに反応し、ブーロックはリベルに狙いを絞り、再び雷起こしが発動した。
 落雷は一つに集約し、リベル目掛けて落ちていく…と思いきや、落雷は途中で方向を変え、上空で轟音が鳴り響いた。

「雷対策と言ったら、避雷針だ!」

 落雷の向かっている方向にはリベルの手元にあるはずの六尺棒が放り投げられていた。リベルは六尺棒を避雷針にすることで落雷の軌道を逸らして回避していた。

ブーロック⦅ーーー⦆☆○×

 雷起こしを回避され、帯電する暇を与えられず接近を許したブーロック。しかし鉄球棍による攻撃でリベルを打ちのめそうと構える。

(落ち着け、大丈夫!アイツの攻撃速度は把握している。マイナスなイメージは考えるな!ビビらず行けっ!自分!)

 内心、不安を払拭しつつも攻めにかかるリベル。だが現状はとっても厳しい状況だった。
 六尺棒を囮に雷起こしを破るまでは予想通り。問題はこの丸腰の状態で相手の攻撃を避け、なおかつ一撃で倒せるかどうかだったが。

ツルッ

「あっ…」

 今もなお降り続ける雨で濡れた芝生に、不運にもリベルは足を滑らせてしまった。
 それもブーロックの攻撃範囲の一歩手前でという、格好の餌食となり得る場面で。

ブーロック⦅ーーー⦆々×$!

 攻撃が届く範囲に入ったリベルにブーロックは容赦なく武器を振りかざした。

ーーー軌道変更シフトチェンジ

 リベルは回避しようとなにかを仕掛けようとするが、既に鉄球は目の前にまで迫っており、体勢から言っても避けることは不可能だった。

ガッ!!………………ドサッ!

 降り続けていた雨が止み、ブーロックが発生させていた雲が消えていき、気付いた時にはおたふく面には突き刺したような傷をつけられて倒れ伏すブーロック。その前には狩猟ナイフを持ったリベルが立っていた。

術式・確率変動シャッフル・ラインーーー

ブーロック⦅〆〆〆⦆

 なんと信じられないことに、リベルは転ぶ体勢だったにも関わらず、ありえない動きで鉄球の一撃を躱し、さらに腰に隠していたナイフを使ってブーロックを一撃で仕留めていたのだった。

「ぎ、ギリギリだった。危なっ!術式・確率変動シャッフル・ラインが無かったらヤバかった!」

 黄色に変色した術式を青い術式アクセルに戻してホッとするリベル。どうやら術式のチカラで難を逃れていたようだ。

「だけどこの術式。マナの消費が多いし、使いすぎないようにしないとなぁ」

 放り投げた六尺棒を取り、雨と汗、そしてかすり傷から出てきた血が入り混じって濡れた顔を拭いながらリベルはそんなことを呟いていた。

「とはいえ、これでやっとブーロックが片付いた!あとは…」
チョウザン⦅ーーー⦆………。
「あの得体の知れないオーラを放っているチョウザン、ただ一人」
(けどチョウザンの奴、全く隙が無い…というか、動く気配すら無い)
チョウザン⦅ーーー⦆………。
(でもあの時、一瞬だけだったけど見えた。落雷を弾き返すチョウザンを!)

 それは、最初のブーロックの雷起こしが発生した時のこと。周囲の木々や岩に落雷が落ち、粉々に砕け散る中でチョウザンは微動だにせず仁王立ちをしていた。
 しかし、無差別に落ちてくる落雷のひとつが引き寄せられる様にチョウザンへと落ちていく時、リベルは姿勢を低くしながら見ていた。片手で両手剣を軽く振るっただけで一歩も動かず落雷を弾き返すその姿を。

「………仕方ない。試してみようか。ちょっと怖いけど」

 そう言いながらリベルは胸に手を当て、マナを集中させている。

(術式の効果は与えたマナの量で持続時間と効果が変わるってナル様は言っていたし…。相手も仕掛けて来ないなら丁度いいや!)

 深呼吸をし、身体中に空気を送り込むようにマナを全身へと巡らせていく。そして、それに呼応するかの様に身体の術式が青い光を煌々と光り、全身を覆った。

「よし!それじゃあ、さっそく…」

 リベルはその場で数回だけ跳ね、何度目かに足が着いた瞬間、消えた。と思ったその時だった。

ガキィッ!!

チョウザン⦅ーーー⦆<>○☆ッ!
「ぐうぅっ!」

 重金属同士がぶつかる事で生じる鈍い音が辺りに響き渡り、チョウザンの目の前には消えたはずのリベルが攻撃を仕掛けていた。しかしその攻撃をチョウザンはその場を一歩たりとも動かずに防いでいた。

「う、ウソでしょ!?」

 思った以上の衝撃の余韻に苦しそうな表情をしながら、リベルは防がれたことに対して驚愕の声を漏らした。

チョウザン⦅ーーー⦆$×*ッ!
「ぬわぁっ!?」

 激しい鍔迫り合いの中、チョウザンが両手剣を持つ手にチカラを込め、リベルごと思いっきり振り払う。
 リベルはそのまま天樹の壁に背中から叩きつけられた。

「かはっ!」

 壁に叩きつけられ、ぐったりとずり落ちるリベル。しかしまだ気を失ってはいないようで、衝撃で痛む背中に触れながら息を整えていた。

「ゲホッゲホッ!いっ…ててて。反動と反撃が…。っていうか、全速力トップギア高速機動アクセル・ラインを防ぐなんて!」

 先程の捨て身に近いリベルの特攻はまさに風を切るかのような速度と勢いがあり、大抵の人であればその姿を視認することは愚か、捉えて攻撃を受け止め切るのは難しい。
 だがチョウザンは微動だにせず、無傷で受け止めていた……いや、どうやらそうでも無かったようだ。

パッカ~ン、ガチャンッ

「あっヘルムが割れた」

 リベルは気付いていなかったが、特攻の時に振りかぶった六尺棒は両手剣に防がれた後、ほんの僅かだが先端がヘルムに当たっていた。
 しかも打ち所が良かったのか、綺麗に真っ二つに割れてしまい、チョウザンの顔が露わになった。中から現れたのは般若も真っ青な、鬼瓦のような恐ろしい面が貼り付いていた。

「怖っ!?さすがは万能地獄鬼フルヘルムチョウザン。名前負けしない面構えだわ」
チョウザン⦅〆ーー⦆………

 初めて顔が露わになったチョウザン。しかし襲い掛かる様子もなく、両手剣を構え直し再びリベルが来るのを待つように備えていた。

(あれ?襲い掛かってこない?僕はてっきり攻撃を仕掛けたら攻勢に出るもんだとばかり思ってたけど、ひょっとしてカウンター攻撃しかしないのか?それとも一定の範囲に入って初めて攻撃をするのか?)

 ただ分かっているのはチョウザンがリベルや他のオートマタ達よりも格段に強いということ。自分から攻撃を仕掛けず、徹底した守りの姿勢を崩さないということだけ。

「もしそうだとしたらちょっと難しいなぁ。全く隙がないってことは、僕も容易に攻撃が出来ない。下手をすれば返り討ちされるだけだし」

 オートマタの構造をおおまかに説明すると、魔鉱石が動力源たるコア、魔結晶が思考回路たる頭脳アンテナとしての役割があり、これら二つを入れ物とする素体にそれぞれ組み込むことでオートマタが出来上がるとのことだ。
 なかでも魔結晶は製作者自身が作り出したマナの結晶体。故に強度は魔鉱石より脆く、強い衝撃を与えると壊れやすい。
 つまり、オートマタと戦う際は頭部に取り付けられた魔結晶の破壊するのが常套手段らしい。だが、先程の攻防でチョウザンのガードは非常に堅いことが分かり、おまけに一層の警戒をされてしまい、同じ手段は通じないようにされてしまった。
 未だに痛む背中を摩りながらリベルは悩んでいると、隣で何かがゆっくりと立ち上がり、歩み寄って来る気配がした。

「ん?」

 その動きに気付いたリベルは隣に顔を向けてみた。

シムーフ⦅〆〆ー⦆………カタカタカタッ

 そこには、最初に倒したはずの片腕が無くなったシムーフが、ゼンマイ仕掛けの人形のような動きでリベルに剣を振りかざそうとしていた。

シムーフ⦅〆〆ー⦆♪*$ ブンッ!
「うおっ!?」

 既に仕留めたと思い込んでいたリベルは驚きながらシムーフの攻撃を躱した。

「って、シムーフ!まだうごけたの!?」

 よくよく考えたらシムーフを攻撃した時、確か盾に当たっていたような気がする。
 ドリフターズの当たり判定は基本的には武器や装備以外の箇所に攻撃を当てなければ胸の表示は変わらない仕組みで出来ているので、動いているということはそういうことなのだろう。

シムーフ⦅〆〆ー⦆♪*$ ブォンッ!
「ぐっ!?」

 攻撃を躱されたシムーフはリベルを追撃するように再び攻め始めた。
 リベルは躱そうとするも間に合わず、咄嗟に六尺棒で防いでしまった。

パキィンッ!

 シムーフの剣が六尺棒に当たった直後、ガラスが割れるような音が響いた。よく見るとリベルの六尺棒の術式にヒビのようなモノが出来ていた。

「しまった!?また術式が!」

 シムーフの剣には"武具破壊ソードブレイカー"という、触れるだけでも武器や防具に致命的な損傷を与えるスキルが備わっていた。
 武器に刻まれた術式やマナを纏った武器等も破壊されるため、最初のリベルとの一対一の攻防の時の術式の損傷もシムーフの武器のスキルによるものだった。
 術式が破壊されかけて焦るリベルにお構いなしに攻撃を続けるシムーフの動きは酔っ払いのようにふざけているように見えるが、予測が掴めずかなり危険だった。

「マズいっ!距離をとらなきゃ!」

 術式を刻み直す為に一旦、距離をとろうと後退するリベル。
 一方のシムーフは追撃をせず、何度も大きく足踏みを始めていた。

シムーフ⦅〆〆ー⦆ッッッッッッ!

 それはまるで、思い通りにならなくて地団駄を踏んでいる子どものようにも見えなくもない姿だった。

「ヤバい!来る!」

 術式を修復しながら後退していたリベルは、シムーフの動きを見てより一層に焦っていた。するとシムーフの足場がマナの光に満ち溢れており、今にも地面が破裂しそうになっていた。

シムーフ⦅〆〆ー⦆♪♪♪

 準備は整い、シムーフはトランポリンに飛び乗るような具合で両足を光る地面に強く踏み込んだ。

ズドンッ!!

 次の瞬間、爆音と共にシムーフは突きの姿勢で直立しながらリベルへと真っ直ぐに飛んできた。

「ぎゃあぁぁぁ!」

 リベルは間一髪ながらこれを無事に回避した。それどころか同時に絶叫しながら文句を垂れていた。

「ホント怖すぎるだろっ!!シムーフの"地・堕ッ墳打じ・だっふんだ"は!」

 人間大砲のような攻撃を仕掛けた後、何事もなかったかのように攻撃を続けるシムーフ。
 倒れるまで執拗に襲い掛かる、それこそシムーフの恐ろしい特徴であり、ドリフターズの中でも一二を争う曲者とも呼ばれているのだ。

「ったく!ホントにしつこいっ!それなら今すぐ……あっ」

 止みそうにない連続攻撃を捌きながらシムーフを仕留めようとするも、リベルはふと思った。

(ここで倒すよりもチョウザンに一撃与えられるように上手く利用できれば)

 幸いシムーフの動きはリベルに真っ直ぐ突っ込み攻撃をするという単調的なモノで、カロトのような変則的トリッキーな攻撃は仕掛けてこない。

「よしっ!修復コッチも丁度終わったし。一か八かだけどやるしかない!」

 シムーフの攻撃を避けながらも、術式の修復を終えたリベルは早速行動に移そうと、再びシムーフから大きく距離をとった。

シムーフ⦅〆〆ー⦆ッッッッッッ!

 リベルが離れたのを理解し、シムーフは再び地団駄を踏み、技の準備を始めた。その間にリベルは、チョウザンからなるべく離れた壁近くまで下がり、術式にマナを溜めながらシムーフの攻撃を待ち構えていた。

(さぁ来い、シムーフ。飛んできた時がチョウザンへの反撃の合図だ!)
シムーフ⦅〆〆ー⦆♪♪♪

 図らずもシムーフはリベルの思惑に乗るように再び"地・堕ッ墳打"を使い飛び掛かってきた。

「よっ!」

 シムーフが飛ぶ瞬間を見計らい、リベルは高速機動アクセル・ラインのスピードで回避した。
 攻撃を躱されたシムーフは先程と同様に壁に激突。その隙にリベルは一気にチョウザンの元へと急接近し、チョウザンの目の前の一歩手前まで近づいた。

「ここまで来ればしばらくの間は時間が稼げる。その間に」

ーーー軌道変更シフトチェンジ術式・確率変動シャッフル・ラインーーー

 リベルは術式を切り替えた後、チョウザンのほうへとゆっくり歩み寄る。
 このままではチョウザンの両手剣の餌食になってしまうにもかかわらず、リベルは六尺棒を構えずにチョウザンの前に立った。

「こっ来い!全部避けてやる!」
チョウザン⦅〆ーー⦆ッッッ!

 リベルの発言後、チョウザンは両手剣を、その重量からは考えられない速度で振りかぶり、まっすぐリベルへと振り下ろした。
 
ズバンッ!!

 両手剣は地面を容易く両断した。だが、リベルは真っ二つにはならず、文字通り当たるかどうかの紙一重で攻撃を躱していた。

「ふぅーーーっ。絶対に躱せると分かってても腰が抜けそうだったよ」

 術式・確率変動シャッフル・ラインは球体状に薄く展開したマナの結界を自身を中心に作り出し、結界に触れた敵の攻撃に反応し自動で回避してくれるスキルで、どんな体勢でもより最適な回避行動を取ることができる。
 ただし、自身のマナをかなり消費する事で可能としており、一撃を躱す度にマナを大量に削る為、使用し続け続けることは自滅するのに等しい。なのでリベル自身もなるべくこの術式を使わないようにしていた。
 ギリギリで躱し、冷や汗を拭ったリベルは未だにチョウザンの間合いから離れようとはしない。よってチョウザンは攻撃を仕掛け続けた。

チョウザン⦅〆ーー⦆ッッッ!!!!!!

 突いて、押して、払って、斬る。それらを繰り返すようにチョウザンが一撃を繰り出す度に、周囲の地面が割れ、空気が裂け、草花が宙を舞い続けていく。しかし、それでも捉えているはずのリベルを両断することが出来ず、全て空振ってしまう。

「くっ!おっ!?よっ!!」

 擦りでもすれば身体ごと持っていかれそうな連撃をリベルは躱していく。
 長く続けば続くほど危険であるが、リベルは避けるだけで攻撃を仕掛ける様子はなかった。まるでなにかを待っているようだった。
 
(くそっシムーフはまだか!?思った以上にマナの消費が早すぎる!このままだと僕が先にバテる!)

 内心焦るリベルだが、正直なところ今の状況でシムーフが乱入してしまうとどんなことになるか予測不能にもかかわらず、彼はシムーフの乱入を心待ちにしていた。
 そしてその時は来た。

シムーフ⦅〆〆ー⦆♪♪♪

 リベルとチョウザンのいる場所より遠くでシムーフは的確にリベルを狙い定め、"地・堕ッ墳打"を繰り出した。
 直立不動の姿勢で片手剣での突きを放つシムーフの姿をリベルは視界に入れていない。しかしその存在だけはしっかり捉えていた。

ゾワッ!

(きたっ!)

 死の気配を察知したリベルは残っているマナのほとんどを術式にまわし、回避に全振りした。
 チョウザンの攻撃を回避した後、リベルの背後からシムーフが迫っていた。

「ここぉっ!」

 体勢的には避けるのは難しいはずだが、リベルは術式によって難なくシムーフの攻撃をも躱す。となればシムーフの攻撃は自然と、両手剣を振りかぶったチョウザンへと向かっていくことになる。
 よってーーーーーーーーーーーーーーー。

ズドンッ!

チョウザン⦅〆ッー⦆?☆#׿

 シムーフの強烈な一撃はチョウザンを貫き、胸部が大破し魔鉱石が露出した剥き出し状態になっていた。
 シムーフの"武具破壊"はオートマタにも有効で、言ってみればオートマタの存在そのものが武器や防具等に分類されているので、必然的にシムーフの攻撃は他のドリフターズにとっても有効であった。

チョウザン⦅〆〆ー⦆!!!

ザンッ!

シムーフ⦅〆〆ッ⦆ッ!!

 思わぬ一撃を受けて一度は停止しかけるチョウザンだったが、自身を攻撃したシムーフを邪魔な存在とみなし、縦から一刀両断し、シムーフを機能停止にさせた。

シムーフ⦅〆〆〆⦆………

 見事に真っ二つにシムーフを斬ったチョウザン。しかし胸の魔鉱石にはシムーフの片手剣によりヒビが入っていた。
 次に一撃を叩き込まれれば、いつ壊れてもおかしくない状態にあった。

「ナル様からヒントだけは聞いていたからね。チョウザンにとってシムーフは天敵のような関係だって」
チョウザン⦅〆〆ー⦆………

 片膝をつき、息を整えながらほぼ半壊状態のチョウザンに語りかけるようにリベルは呟いた。

「動力源の核である魔鉱石はそこら辺の石より硬いし、純度が高いほど内包するマナの量も大きく変わる。でも少しヒビが入るだけでその質は落ちるし、使い続ければ形を保てず脆くなり、砕けやすくなる。ってナル様は言ってたらね」

 チョウザンを相手にシムーフを利用して攻撃を与える以外にもリベルには狙いがあった。

「だから沢山動かせてマナを消費させ、破壊しやすい状態にさせてからシムーフで攻撃。そうすれば僕でも魔鉱石を壊せるようになるってわけだ」

 チョウザンのスペックは間違いなく格上だ。ただ攻撃をしたとしてもその後の戦闘で勝てるかと言われれば不安だった。なのでシムーフの攻撃で魔鉱石を傷付けてもらい、身体能力を低下させる事で倒せるようにしておきたかった。
 つまり、リベルがシムーフを利用して狙っていた目的は、チョウザンの弱体化だったということだ。

「けどあのナル様のことだから、まだ何かあるはず」

 ドリフターズの魔結晶を作った製作者はナルである。
 そもそもコレはより実戦に近い戦闘訓練。ありえないだろうと思うことをナルは平気で仕込んでくることは、リベルには予想出来ていた。

「なんせ追い込まれた奴が最後に勝つって逆転劇に、敵も味方も関係ないしね」

チョウザン⦅〆〆ー⦆……グググッ

 リベルの予想が的中したのか、チョウザンから赤いオーラらしきモノが浮かび上がり、鬼気迫るような気配を醸し出していた。

「でも、いいかげん僕も動き回り続けるのは無理だから、この一撃で決める!」

 それは決して臆病であるからではなく、十数年以上もの間、ともに暮らしていたことから生まれる、一種の信頼感からくるモノだった。
 少なくともリベルはナルが想定外の事態にも対応できるよう訓練法プランを組んでいることを知っていた。

ーーー軌道変更シフトチェンジ術式・一点突破ブレイク・ラインーーー

 再び術式の種類を変え、今度は橙色に変色させて六尺棒の先端へとマナを集中させた。
 しばらくすると先端には術式によるマナで構成された鋭い突起物が出来上がっていた。
 そしてリベルが構え始めた瞬間、先に動いたのはチョウザンのほうだった。

チョウザン⦅〆ーー⦆ッ!!

 初めの守りの姿勢を貫き、落ち着いていた印象とは打って変わり、今度は暴れ狂うゴリラの様に力任せに大きく動き出した。
 互いに約十歩程あった距離を、一秒にも満たない速度でチョウザンは縮めてリベルへと迫り、大振りの攻撃を仕掛けた。

(来た!ここっ!)

 一気に間合いを縮められたがリベルは怯まずチョウザンの胸の魔鉱石を見据えながら一歩前に踏み、相手の動きに合わせて刺突を放った。

「だぁああああっ!!」
チョウザン⦅〆ーー⦆!!!

 先に仕掛けたのはチョウザンだが、攻撃速度はリベルの方が速く、先に六尺棒の攻撃が届く………と思ったその時だった。

チョウザン⦅〆ーー⦆ザッ!
「あっ!」

 危険を察知したのか、チョウザンは振りかぶる手前で立ち止まり、すぐさま背後に跳んで攻撃を回避した。
 リベルの仕掛けた攻撃は既に伸び切り、このままでは攻撃は魔鉱石に届かず、無防備な状態を晒してチョウザンの攻撃を正面から受けてしまう…はずだった。

「マジで一点突破コッチにしといて良かったっ!」

 そう叫びながらリベルは六尺棒を、届くはずの無いチョウザンの胸に捩じ込むように手首を回した。
 
ーーー錬成・千枚通しクラフト・ピック!!ーーー

 突如、先端の橙色のマナが形を変えて細長く伸び、チョウザンの胸の魔鉱石を貫いた。

チョウザン⦅ッーー⦆!!!

 橙色の術式、一点突破ブレイクスルーは、集中力を高めて攻撃を一点のみにさせ、高威力の一撃クリティカルヒットを作り出すことが出来るスキルだ。
 ただし当たりさえすれば相手に大きなダメージを与えられる反面、繰り出せるのが一撃ずつでしかも連発は不可能である為、使い所が難しいスキルでもある。
 チョウザンの攻撃は核を貫かれたことによりリベルに届かず、両手剣は頭上でピタリと止まった。

チョウザン⦅ッーー⦆ガガ…ガシャンッ

 そしてチョウザンは他のオートマタの例に漏れず、崩れ落ちるように機能を停止した。
 こうしてリベルはドリフターズを全て倒し、無事に戦闘訓練を終えることが出来たのであった。

「………か…勝った~~~!」

 チョウザンが倒れたのを確認し、命懸けの訓練を終えたリベルは六尺棒を手放し、腰から崩れ落ちるように仰向けに倒れた。

『ごしゅじん、かった~~~!』
『おっと、ムークン!』
『むぅ?』
『忘れ物だよ』

 喜びながらリベルの元へと駆けつけようとその場から飛び降りようとするムークンをナルは止め、フタ付きの小さなツボを差し出した。

『む!なるさま、ありがとう!』
『うん。降りる時は気をつけるんだよ』
『は~い!』

 ムークンは元気な返事をしてからナルの手元のツボの中にキレイに収まり、その状態で再び飛び降りた。

『ご~しゅじ~ん!』

 ツボに入ったままリベルの元へ向かうムークンは苔や太い枝に乗ったり、時々身体を伸ばして枝に絡み付いたりして器用に降りていく。

『さて、ワタシは階段でゆっくり降りようかな』

 ムークンを見送り、ナルは普通にリベルの元へ向かうことにした。

(…初めて戦うはずの格上のチョウザンを相手に一歩も引かず、さらに負ける事なく打ち破った。今までの戦闘経験が実を結んだ証拠だ)

『あとでいっぱい褒めてあげないと』

 リベルの成長を実感し、ナルは少し浮き足立つかのように歩を進めた。
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