9 / 18
序章
序章:8 "魔法のちスキル、時々錬金術(1)"
しおりを挟む
食事を終え、空腹を満たしたリベルは、いよいよお待ちかねの魔法の属性適性の診断を始めようとしていた。
『それではこれより、魔法についての授業を始めます』
(起立!礼!お願いしまーす!)
そう、これから楽しい魔法の授業がーーー
(で、これって必要だったんですか?ナル様)
『こういうのは形からと思ってね』
という軽い学校ネタを挟んでいた二人。というのもナルがリベルから取り入れた前世の世界の知識に学校があった為、感じだけでもやってみたかったらしい。
『では改めて、リベル。キミの適性となる属性を調べさせてもらうね』
(はい!待ってました!)
食事の合間に魔法について話を聞くはずだったのに、思いのほかミルモの実が美味しかったのと、ナルとの会話が弾んだ為に結局食
事を終えた後になってしまった。
(けど、どんな方法で調べるんだろう?)
ここはやはり専用の魔法の掛かった道具でも使うのか、それとも特殊な紙に触れることで見極めるのか、はたまたナル様が魔法で確認をするのだろうか、とリベルは想像しながら期待を高めていた。
『では早速、このスライムに触れてもらえるかな?』
(……はい?)
気が付けばナルの足下にはいつの間に現れたのか、一匹のスライムが大人しくその場で揺れながら佇んでいた。
(…あの~属性の適性を調べるって話でしたよね?)
『うん、そうだけど?』
(…ちなみに、ここには属性を測るモノって他には無いんでしょうか?)
『一応、無いこともないけど?』
(ならなんでスライム!?適性を調べるのに何故スライム!?てか、どっから現れたこのスライム!!)
『落ち着いて、落ち着いて』
小さな両手をバタバタと振りながらスライムに向かって叫ぶリベルをナルは両手を控えめにして落ち着かせる。
『詳しい説明は後でするから、とりあえずこの子に触れてみなさい』
(はぁ、まぁナル様が言うなら…)
溜息を吐くものの、ナルがすることには何かしら意味があると信じ、彼のいうことをリベルは素直に聞くことにした。
そして言われるがまま、こちらに近づいて来るスライムに両手で触れた。丁度いい具合にひんやりとした冷たさに、感触はゼリー…というよりは滑らかな水風船にマシュマロの柔らかさを合わせたような触り心地だ。触り続けても飽きが来ない。
『よし。ではまずその状態で何も考えず深呼吸をして』
(深呼吸を?)
本当にこんなことで適性が測れるのだろうか?と疑問を持ちつつも、リベルは小さな身体から力と息を抜いてできるだけ深く呼吸を始めた。しばらくして、三回目辺りでスライムに変化が現れた。
(あっ!色が変わった!?)
『これは…』
よく見ると透明なスライムの中心辺りに赤・青・黄・橙・緑・白・黒の色へと変化しながら、まるでイルミネーションの様に輝いていた。
『…うん、もう手を離しても良いよ。キミの属性が分かった』
(…あっはい!)
リベルはスライムの輝きに目を奪われて少し反応が遅れた。言われた通り手を離すと、スライムの色がいつの間にか消えて元の無色透明になっていた。
ちなみにその間スライムはというと、ユラユラと揺れていた触れる前と違い、リベルが触れて深呼吸を始めた時から微動だにしていなかった。
わざわざアレを見せたかったからスライムを使ったのか?と思ったが、今はそれより。
(それでナル様。一体どうやって属性を判断したんですか?僕は何も分からなかったんですけど…)
多分、スライムに起こったあの現象で属性を見たのだとは思うが、何も知らされていないリベルでは判断が付かなかった。そろそろ教えて欲しい。
『それならまず、マナについて説明しないといけないね』
(マナ?)
『マナは自然物における生命力で、生物なら誰でもその身に宿している魔法の源だよ』
ナルはそのままマナについて詳細に説明をしてくれた。
マナとは、この世界に存在する魔法の根源となる自然の生命力で、動物や植物、自然物であれば全てに備わっているモノだそうだ。
マナそのものは決して目に見えるモノでは無く、普段は粒子状となって水に溶け込んでいたり、空気と共に風に乗って漂っていたり、地面に宿って恵みをもたらしているらしい。
(お~!まさにファンタジー!)
『今説明したように、マナは色んな形となって世界に存在している。魔法もまた、マナを形作る表現のひとつといってもいい』
(じゃあ、僕にもマナが宿っているの?)
『うん。その証拠にキミはさっきそのスライムにマナを与えていたから、スライムは反応を示していたとも言える』
(でも僕、ただ触れていただけでしたよ?)
『いや、違う。正しくは深呼吸をしていた状態で触れていた。この時にリベルは無意識にマナを与えていたんだよ』
(どういうこと?)
何故、深呼吸することでスライムにマナを与えることに繋がるのか、リベルは理解出来なかった。そこでナルは更に掻い摘んで説明をした。
『生き物が呼吸をする際、空気を吸って体内に取り込むように、魔法を行使する時もマナを体内に取り込む必要がある。その時に身体を楽にした状態こそ、効率良くマナを取り入れる姿勢となるんだ』
(ヘぇ~。それが深呼吸なんですか?)
『基本的にはね。他にも寝ている時や瞑想する時、本人が最も落ち着ける状態であればマナは自然と取り入れられるよ』
(なるほど!リラックスした状態である程、マナを体に巡らせやすいんですね!)
ようやく理解出来たのかリベルは両手を上下に振って喜びを表現してみせた。ナルもまた、理解したリベルの喜ぶ姿にうんうん、と頷き返した。
『その通り。そしてその状態のマナはより純度の高い状態となる、よって自身の属性を測る絶好の機会となるんだ』
確かに血液検査をする時だって、純度が高い状態にした方が結果が良く分かるし、そうした面でもあの方法は理に適っているのかもしれない。
(大体分かりました。けど、なんで属性を測るのにスライムを?)
ナルは最初に測定するモノは他にあると言っていた。測定出来るモノがあるなら、それを使えば良いところをわざわざスライムを使う必要があるのか、それについてリベルはどうしても分からなかった。
『では、ちょっと見せてあげよう』
そう言うとナルは、懐から一つの丸い水晶を取り出した。
『これが世間一般的に使用されている、属性を測定する魔水晶だ。方法はさっきスライムにやったものと同じだよ』
(おぉ、なんかそれっぽい)
むしろ、こっちを使っても良かったんじゃないのかと聞こうとする前に、ナルが実演してみせた。
『ただし、この魔水晶には少々欠点があるんだ』
(欠点って?)
(マナの許容量が存在することだよ。例えば、マナを制御せずにこの魔水晶にマナを与え続けてしまうとーーー)
説明をしながらナルは魔水晶にマナを送り続ける。その間、水晶は様々な色に変化し続けていく。すると水晶にヒビが入っていき……。
ビキッビキッ………パリーンッ!!
(ぴぇっ!?)
ガラスが割れるような音と同時に、ナルの手の中の魔水晶が粉々に散ってしまった。
『このようにマナが溜まり続けてしまい、最後には破裂する。リベルに分かりやすく例えるなら、水道の蛇口を開けた状態で取り付けた水風船が破裂するような………』
と続けた辺りでナルは説明を中断した。
「うぅっ…ひっく……ひっくっ」
『あっ』
理由は魔水晶の破裂音に驚いたリベルが、今にも泣き出しそうになっていたからだ。
『ごっごめんごめん!驚かせてしまったね』
と泣きそうになっているリベルに近寄り、彼の頭を撫でて宥めるナル。
(別に怖かった訳ではないんです!ただ、身体が勝手に反応してしまって…)
まさかあんな事で泣きそうになるなんて、と自身でも予測出来なかった行動にリベルも驚いていた。
数分後、ぐずっていたリベルも落ち着いてきたので再びナルは説明を開始した。
『とにかく、まだマナを制御出来ないリベルには魔水晶では十分に測れないこともあると思って、無限ともいえるマナの許容量を誇るスライムを使った測定法を利用したんだ』
(そうだったんですね。で、どうやって属性を判断するんですか?)
ここまでの説明でマナについては理解出来たリベル、なので一番初めに聞いた属性の区別についての説明を促した。
『そういえばそういう質問だったね』
するとナルはリベルにも見えるようにスライムの前で屈み、片手をスライムに掲げた。
『今からこの子に火属性のマナを与えてみるよ』
(?)
ナルの手からマナが注がれていき、スライムはみるみるうちに輝き出していき次の瞬間、気付けばスライムの全身の色が真っ赤に染まっていた。
(あっ!赤くなった!)
『スライムはマナの影響を受けやすい為、取り込んだマナによって色が変わる。だからその色で属性を見極めるのさ』
ざっくりした説明だとこういうことだろう。火属性は赤、水属性は青、と言った具合に判断するとリベルは思った。
(おぉ、今ので納得出来ました)
これでようやく属性の判断基準についての理解が深まり、リベルはスッキリとした表情になった。
しかし、まだ当初の目的であるリベルの属性が何なのか、まだ聞かされていない。
(あれ?でも僕の時は透明の中にたくさんの色が光ってましたけど、結局僕は何の属性に適性があったんですか?)
『っ!』
リベルが質問をした時、ナルが少しピクッと反応した様な気がしたが、気のせいだろうか?
そして、そんな素振りを感じさせない様にナルはリベルに背を向けた。
『…実は、そのことで話しておきたいことがあるんだけど…』
突然、ナルが神妙な雰囲気を出して語り出す。
(ん?)
ナルの変化に疑問を持ったリベルだが、ナルは気に留める事なく話し続ける。
『属性は基本となる五種類と、希少である二種類が存在する』
そこからはそれぞれの属性についての特徴と、相性の関係の説明を黙々と進めていった。
『まず、基本となる五種類の属性、火・水・雷・土・風といった世界を形作る自然を司る力が元となっている』
五つの属性の相性は、ざっくり言えば五すくみの関係となっている。
・火は風に強く、水に弱い。
・水は火に強く、雷に弱い。
・雷は水に強く、土に弱い。
・土は雷に強く、風に弱い。
・風は土に強く、火に弱い。
というように属性同士が調和を保っているのが特徴だ。
『次に適性者があまりおらず、極めて例が少ない二つの属性。これは、世界が創られる前から存在していたとされる原初たる光と闇のことを言う』
となるとこちらの相性関係はシンプルに……。
・光は闇に、闇は光に強い。
光や闇の関係は互いに有利でもあり、不利でもあるのは恒例みたいだ。
『これらがこの世界に存在する七つの属性だよ』
(へぇ、やっぱり光と闇の属性って珍しいモノなんですね)
以上が属性についての大まかな説明だった。しかし、これでは当初の質問に対しての問いからかなり離れている気がする。
(それで、僕の属性ーーー)
『だが、これはあくまでこの世界に生きる者達の常識。転生者の常識を含めたら属性は八つになる』
(……八つ、ですか?)
あれ?おかしいな?再び質問を重ねようとしたら、ナル様が畳み掛けるように言葉を遮ったような気がするんだけど……いや、気のせいだな。とリベルはそう思う事にした。
『うん、その属性は七つ全ての属性に有効で、攻撃・補助・生活等のあらゆる面で活躍できる使い勝手の良い属性なんだ』
そのチートっぽい属性に多少呆れ気味にリベルは問う。
(何ですか、その便利な属性は?)
『異世界へと渡り歩いた転生者達のみが持つとされる特別な属性。時空属性だ!』
(じ、時空属性…!)
時空ときたか。なるほど、納得がいく属性かも知れない。時間と空間を司る属性なら他の属性が見劣りするのも理解出来る。
しかも異世界へと流れ着いた転生者だからこそ、手に入れられるというのも特別に感じるというものだ。
『正直、最初は驚いたよ。まさかキミが全属性に適性があるとはね』
いきなりこの人は何を言っているのだろうか?今、全ての属性に適性があると言われたような気がしたんだが……。
(…って待ってください!属性はスライムの色で見分けていたんでしょ?ボクのは七つだったじゃないですか!)
むしろ七つも属性があるというのに、これで特別な属性まで持っているとなるとどんだけ欲張りなんだよって話になるので、流石にそれは無いだろうとリベルは思っていた。
(いくらなんでもそれはありえない……って待てよ。そういえばあの時…)
この時リベルは自身がマナを与えていた時のスライムと、ナルがマナを与えていた時のスライムの変化の違いについて思い出していた。
リベルの時のスライムは、中心辺りの一部分に赤・青・黄・橙・緑・白・黒の色へと変化していた。それに対しナルの時のスライムは、全身が真っ赤に染まっていて、透明な部分はどこにも見られなかった。コレが意味するのは……。
(……ま、まさか、あの透明が八つ目の属性の色ですか?)
『うん』
コクリっ、とナルは肯定する様に頷いた。
(と、いうことは……)
『キミには八つの属性全てに適性があるんだよ』
(…………)
『…………』
(えええぇぇぇっ!!本当にっ!?)
しばしの沈黙後、あまりの出来過ぎた展開に驚いた表情のままリベルは後方に寝っ転がる様に倒れた。
『えっと…驚くのも無理も無いけど、まだ話が…』
ナルは話を続けようとするも、今のリベルにはほとんど聞こえておらず、今は自分が全属性チート魔法無双する姿をウキウキ気分で想像していた。
そして起き上がり、目をキラキラと輝かせながらナルに話しかけた。
(ということは、ボクは全ての属性を扱う魔法使いにもなれるってことですか!?)
ギクッ!!
ナルはここでしてはいけない反応をしてしまい、しまったっ!と思った時には既に手遅れだった。
リベルはそのナルの反応をしっかりと見ていた為、先程興奮していた状態から少しずつ血の気が引いていく様に冷めていくのを感じていた。
(…ナル様。なんですか?その嫌な感じのギクッ!!っていうのは?)
『………』
リベルは恐る恐ると尋ねる。ナルはこちらを振り向こうとはせず、ただ沈黙に徹しようとする構えのようだが後ろからでも分かるくらい動揺していた。
(ナル様、正直におっしゃってください。でないと困ります)
実のところ、リベルは薄々気付いてはいる、だがその事実を受け入れたくない自身もいる為、聞くのはあまりに勇気がいることだろう。が、それでも尋ねた。
(どうか、そんな事にならないように!)
よっぽど魔法無双をしたかったのか、会話とは別に自然と心の声が漏れ出ている事にすら気付いていないリベル。
しかし、現実は残酷な結果を求めているのか、ナルは気まずそうに口を開いた。
『…リベル。属性診断の判断基準についてなんだけど、それは適性だけでなく魔法を扱う素質を測ることも含まれているんだ』
(そっそれは一体…?)
『属性適性というのは、当人がいずれかの属性に適性があるというだけで、その属性を扱えるかどうかはまた別の話なんだ』
(………僕の場合は、どうですか?)
『時空属性の中に七つの属性が小さく存在している。これが表しているのは時空の適性が九割、それ以外の属性は一割…と言ったところだね』
属性適性の見方は、色が適性である属性で、大きさが扱える素質を表している。
リベルの場合、透明の大きさが九割、その他の属性を合わせて一割の比率で出来ている。よってリベルは全属性に適性があるものの、時空属性に特化した偏った素質の持ち主となる。
(…でっでも一割はあるってことだから扱えないわけでは無いんでしょ?それに逆に考えれば時空属性だけは問題なくーーー)
それでも魔法を使えると希望を持とうとするリベル。しかしナルは無情にも次の言葉を投げかける。
『それだけではない。キミの魔法使いとしての素質も一から十までとすれば……一だ』
リベルは完全に固まったような表情をしていた。それもそのはず、せっかく全属性持ちであると分かったというのに、これでは宝の持ち腐れというものだ。
(……それってまさか、僕……)
『………魔法使いの素質は…無いに等しい…』
この日、二度目の赤ん坊の泣き声が再び天樹に木霊した。
『それではこれより、魔法についての授業を始めます』
(起立!礼!お願いしまーす!)
そう、これから楽しい魔法の授業がーーー
(で、これって必要だったんですか?ナル様)
『こういうのは形からと思ってね』
という軽い学校ネタを挟んでいた二人。というのもナルがリベルから取り入れた前世の世界の知識に学校があった為、感じだけでもやってみたかったらしい。
『では改めて、リベル。キミの適性となる属性を調べさせてもらうね』
(はい!待ってました!)
食事の合間に魔法について話を聞くはずだったのに、思いのほかミルモの実が美味しかったのと、ナルとの会話が弾んだ為に結局食
事を終えた後になってしまった。
(けど、どんな方法で調べるんだろう?)
ここはやはり専用の魔法の掛かった道具でも使うのか、それとも特殊な紙に触れることで見極めるのか、はたまたナル様が魔法で確認をするのだろうか、とリベルは想像しながら期待を高めていた。
『では早速、このスライムに触れてもらえるかな?』
(……はい?)
気が付けばナルの足下にはいつの間に現れたのか、一匹のスライムが大人しくその場で揺れながら佇んでいた。
(…あの~属性の適性を調べるって話でしたよね?)
『うん、そうだけど?』
(…ちなみに、ここには属性を測るモノって他には無いんでしょうか?)
『一応、無いこともないけど?』
(ならなんでスライム!?適性を調べるのに何故スライム!?てか、どっから現れたこのスライム!!)
『落ち着いて、落ち着いて』
小さな両手をバタバタと振りながらスライムに向かって叫ぶリベルをナルは両手を控えめにして落ち着かせる。
『詳しい説明は後でするから、とりあえずこの子に触れてみなさい』
(はぁ、まぁナル様が言うなら…)
溜息を吐くものの、ナルがすることには何かしら意味があると信じ、彼のいうことをリベルは素直に聞くことにした。
そして言われるがまま、こちらに近づいて来るスライムに両手で触れた。丁度いい具合にひんやりとした冷たさに、感触はゼリー…というよりは滑らかな水風船にマシュマロの柔らかさを合わせたような触り心地だ。触り続けても飽きが来ない。
『よし。ではまずその状態で何も考えず深呼吸をして』
(深呼吸を?)
本当にこんなことで適性が測れるのだろうか?と疑問を持ちつつも、リベルは小さな身体から力と息を抜いてできるだけ深く呼吸を始めた。しばらくして、三回目辺りでスライムに変化が現れた。
(あっ!色が変わった!?)
『これは…』
よく見ると透明なスライムの中心辺りに赤・青・黄・橙・緑・白・黒の色へと変化しながら、まるでイルミネーションの様に輝いていた。
『…うん、もう手を離しても良いよ。キミの属性が分かった』
(…あっはい!)
リベルはスライムの輝きに目を奪われて少し反応が遅れた。言われた通り手を離すと、スライムの色がいつの間にか消えて元の無色透明になっていた。
ちなみにその間スライムはというと、ユラユラと揺れていた触れる前と違い、リベルが触れて深呼吸を始めた時から微動だにしていなかった。
わざわざアレを見せたかったからスライムを使ったのか?と思ったが、今はそれより。
(それでナル様。一体どうやって属性を判断したんですか?僕は何も分からなかったんですけど…)
多分、スライムに起こったあの現象で属性を見たのだとは思うが、何も知らされていないリベルでは判断が付かなかった。そろそろ教えて欲しい。
『それならまず、マナについて説明しないといけないね』
(マナ?)
『マナは自然物における生命力で、生物なら誰でもその身に宿している魔法の源だよ』
ナルはそのままマナについて詳細に説明をしてくれた。
マナとは、この世界に存在する魔法の根源となる自然の生命力で、動物や植物、自然物であれば全てに備わっているモノだそうだ。
マナそのものは決して目に見えるモノでは無く、普段は粒子状となって水に溶け込んでいたり、空気と共に風に乗って漂っていたり、地面に宿って恵みをもたらしているらしい。
(お~!まさにファンタジー!)
『今説明したように、マナは色んな形となって世界に存在している。魔法もまた、マナを形作る表現のひとつといってもいい』
(じゃあ、僕にもマナが宿っているの?)
『うん。その証拠にキミはさっきそのスライムにマナを与えていたから、スライムは反応を示していたとも言える』
(でも僕、ただ触れていただけでしたよ?)
『いや、違う。正しくは深呼吸をしていた状態で触れていた。この時にリベルは無意識にマナを与えていたんだよ』
(どういうこと?)
何故、深呼吸することでスライムにマナを与えることに繋がるのか、リベルは理解出来なかった。そこでナルは更に掻い摘んで説明をした。
『生き物が呼吸をする際、空気を吸って体内に取り込むように、魔法を行使する時もマナを体内に取り込む必要がある。その時に身体を楽にした状態こそ、効率良くマナを取り入れる姿勢となるんだ』
(ヘぇ~。それが深呼吸なんですか?)
『基本的にはね。他にも寝ている時や瞑想する時、本人が最も落ち着ける状態であればマナは自然と取り入れられるよ』
(なるほど!リラックスした状態である程、マナを体に巡らせやすいんですね!)
ようやく理解出来たのかリベルは両手を上下に振って喜びを表現してみせた。ナルもまた、理解したリベルの喜ぶ姿にうんうん、と頷き返した。
『その通り。そしてその状態のマナはより純度の高い状態となる、よって自身の属性を測る絶好の機会となるんだ』
確かに血液検査をする時だって、純度が高い状態にした方が結果が良く分かるし、そうした面でもあの方法は理に適っているのかもしれない。
(大体分かりました。けど、なんで属性を測るのにスライムを?)
ナルは最初に測定するモノは他にあると言っていた。測定出来るモノがあるなら、それを使えば良いところをわざわざスライムを使う必要があるのか、それについてリベルはどうしても分からなかった。
『では、ちょっと見せてあげよう』
そう言うとナルは、懐から一つの丸い水晶を取り出した。
『これが世間一般的に使用されている、属性を測定する魔水晶だ。方法はさっきスライムにやったものと同じだよ』
(おぉ、なんかそれっぽい)
むしろ、こっちを使っても良かったんじゃないのかと聞こうとする前に、ナルが実演してみせた。
『ただし、この魔水晶には少々欠点があるんだ』
(欠点って?)
(マナの許容量が存在することだよ。例えば、マナを制御せずにこの魔水晶にマナを与え続けてしまうとーーー)
説明をしながらナルは魔水晶にマナを送り続ける。その間、水晶は様々な色に変化し続けていく。すると水晶にヒビが入っていき……。
ビキッビキッ………パリーンッ!!
(ぴぇっ!?)
ガラスが割れるような音と同時に、ナルの手の中の魔水晶が粉々に散ってしまった。
『このようにマナが溜まり続けてしまい、最後には破裂する。リベルに分かりやすく例えるなら、水道の蛇口を開けた状態で取り付けた水風船が破裂するような………』
と続けた辺りでナルは説明を中断した。
「うぅっ…ひっく……ひっくっ」
『あっ』
理由は魔水晶の破裂音に驚いたリベルが、今にも泣き出しそうになっていたからだ。
『ごっごめんごめん!驚かせてしまったね』
と泣きそうになっているリベルに近寄り、彼の頭を撫でて宥めるナル。
(別に怖かった訳ではないんです!ただ、身体が勝手に反応してしまって…)
まさかあんな事で泣きそうになるなんて、と自身でも予測出来なかった行動にリベルも驚いていた。
数分後、ぐずっていたリベルも落ち着いてきたので再びナルは説明を開始した。
『とにかく、まだマナを制御出来ないリベルには魔水晶では十分に測れないこともあると思って、無限ともいえるマナの許容量を誇るスライムを使った測定法を利用したんだ』
(そうだったんですね。で、どうやって属性を判断するんですか?)
ここまでの説明でマナについては理解出来たリベル、なので一番初めに聞いた属性の区別についての説明を促した。
『そういえばそういう質問だったね』
するとナルはリベルにも見えるようにスライムの前で屈み、片手をスライムに掲げた。
『今からこの子に火属性のマナを与えてみるよ』
(?)
ナルの手からマナが注がれていき、スライムはみるみるうちに輝き出していき次の瞬間、気付けばスライムの全身の色が真っ赤に染まっていた。
(あっ!赤くなった!)
『スライムはマナの影響を受けやすい為、取り込んだマナによって色が変わる。だからその色で属性を見極めるのさ』
ざっくりした説明だとこういうことだろう。火属性は赤、水属性は青、と言った具合に判断するとリベルは思った。
(おぉ、今ので納得出来ました)
これでようやく属性の判断基準についての理解が深まり、リベルはスッキリとした表情になった。
しかし、まだ当初の目的であるリベルの属性が何なのか、まだ聞かされていない。
(あれ?でも僕の時は透明の中にたくさんの色が光ってましたけど、結局僕は何の属性に適性があったんですか?)
『っ!』
リベルが質問をした時、ナルが少しピクッと反応した様な気がしたが、気のせいだろうか?
そして、そんな素振りを感じさせない様にナルはリベルに背を向けた。
『…実は、そのことで話しておきたいことがあるんだけど…』
突然、ナルが神妙な雰囲気を出して語り出す。
(ん?)
ナルの変化に疑問を持ったリベルだが、ナルは気に留める事なく話し続ける。
『属性は基本となる五種類と、希少である二種類が存在する』
そこからはそれぞれの属性についての特徴と、相性の関係の説明を黙々と進めていった。
『まず、基本となる五種類の属性、火・水・雷・土・風といった世界を形作る自然を司る力が元となっている』
五つの属性の相性は、ざっくり言えば五すくみの関係となっている。
・火は風に強く、水に弱い。
・水は火に強く、雷に弱い。
・雷は水に強く、土に弱い。
・土は雷に強く、風に弱い。
・風は土に強く、火に弱い。
というように属性同士が調和を保っているのが特徴だ。
『次に適性者があまりおらず、極めて例が少ない二つの属性。これは、世界が創られる前から存在していたとされる原初たる光と闇のことを言う』
となるとこちらの相性関係はシンプルに……。
・光は闇に、闇は光に強い。
光や闇の関係は互いに有利でもあり、不利でもあるのは恒例みたいだ。
『これらがこの世界に存在する七つの属性だよ』
(へぇ、やっぱり光と闇の属性って珍しいモノなんですね)
以上が属性についての大まかな説明だった。しかし、これでは当初の質問に対しての問いからかなり離れている気がする。
(それで、僕の属性ーーー)
『だが、これはあくまでこの世界に生きる者達の常識。転生者の常識を含めたら属性は八つになる』
(……八つ、ですか?)
あれ?おかしいな?再び質問を重ねようとしたら、ナル様が畳み掛けるように言葉を遮ったような気がするんだけど……いや、気のせいだな。とリベルはそう思う事にした。
『うん、その属性は七つ全ての属性に有効で、攻撃・補助・生活等のあらゆる面で活躍できる使い勝手の良い属性なんだ』
そのチートっぽい属性に多少呆れ気味にリベルは問う。
(何ですか、その便利な属性は?)
『異世界へと渡り歩いた転生者達のみが持つとされる特別な属性。時空属性だ!』
(じ、時空属性…!)
時空ときたか。なるほど、納得がいく属性かも知れない。時間と空間を司る属性なら他の属性が見劣りするのも理解出来る。
しかも異世界へと流れ着いた転生者だからこそ、手に入れられるというのも特別に感じるというものだ。
『正直、最初は驚いたよ。まさかキミが全属性に適性があるとはね』
いきなりこの人は何を言っているのだろうか?今、全ての属性に適性があると言われたような気がしたんだが……。
(…って待ってください!属性はスライムの色で見分けていたんでしょ?ボクのは七つだったじゃないですか!)
むしろ七つも属性があるというのに、これで特別な属性まで持っているとなるとどんだけ欲張りなんだよって話になるので、流石にそれは無いだろうとリベルは思っていた。
(いくらなんでもそれはありえない……って待てよ。そういえばあの時…)
この時リベルは自身がマナを与えていた時のスライムと、ナルがマナを与えていた時のスライムの変化の違いについて思い出していた。
リベルの時のスライムは、中心辺りの一部分に赤・青・黄・橙・緑・白・黒の色へと変化していた。それに対しナルの時のスライムは、全身が真っ赤に染まっていて、透明な部分はどこにも見られなかった。コレが意味するのは……。
(……ま、まさか、あの透明が八つ目の属性の色ですか?)
『うん』
コクリっ、とナルは肯定する様に頷いた。
(と、いうことは……)
『キミには八つの属性全てに適性があるんだよ』
(…………)
『…………』
(えええぇぇぇっ!!本当にっ!?)
しばしの沈黙後、あまりの出来過ぎた展開に驚いた表情のままリベルは後方に寝っ転がる様に倒れた。
『えっと…驚くのも無理も無いけど、まだ話が…』
ナルは話を続けようとするも、今のリベルにはほとんど聞こえておらず、今は自分が全属性チート魔法無双する姿をウキウキ気分で想像していた。
そして起き上がり、目をキラキラと輝かせながらナルに話しかけた。
(ということは、ボクは全ての属性を扱う魔法使いにもなれるってことですか!?)
ギクッ!!
ナルはここでしてはいけない反応をしてしまい、しまったっ!と思った時には既に手遅れだった。
リベルはそのナルの反応をしっかりと見ていた為、先程興奮していた状態から少しずつ血の気が引いていく様に冷めていくのを感じていた。
(…ナル様。なんですか?その嫌な感じのギクッ!!っていうのは?)
『………』
リベルは恐る恐ると尋ねる。ナルはこちらを振り向こうとはせず、ただ沈黙に徹しようとする構えのようだが後ろからでも分かるくらい動揺していた。
(ナル様、正直におっしゃってください。でないと困ります)
実のところ、リベルは薄々気付いてはいる、だがその事実を受け入れたくない自身もいる為、聞くのはあまりに勇気がいることだろう。が、それでも尋ねた。
(どうか、そんな事にならないように!)
よっぽど魔法無双をしたかったのか、会話とは別に自然と心の声が漏れ出ている事にすら気付いていないリベル。
しかし、現実は残酷な結果を求めているのか、ナルは気まずそうに口を開いた。
『…リベル。属性診断の判断基準についてなんだけど、それは適性だけでなく魔法を扱う素質を測ることも含まれているんだ』
(そっそれは一体…?)
『属性適性というのは、当人がいずれかの属性に適性があるというだけで、その属性を扱えるかどうかはまた別の話なんだ』
(………僕の場合は、どうですか?)
『時空属性の中に七つの属性が小さく存在している。これが表しているのは時空の適性が九割、それ以外の属性は一割…と言ったところだね』
属性適性の見方は、色が適性である属性で、大きさが扱える素質を表している。
リベルの場合、透明の大きさが九割、その他の属性を合わせて一割の比率で出来ている。よってリベルは全属性に適性があるものの、時空属性に特化した偏った素質の持ち主となる。
(…でっでも一割はあるってことだから扱えないわけでは無いんでしょ?それに逆に考えれば時空属性だけは問題なくーーー)
それでも魔法を使えると希望を持とうとするリベル。しかしナルは無情にも次の言葉を投げかける。
『それだけではない。キミの魔法使いとしての素質も一から十までとすれば……一だ』
リベルは完全に固まったような表情をしていた。それもそのはず、せっかく全属性持ちであると分かったというのに、これでは宝の持ち腐れというものだ。
(……それってまさか、僕……)
『………魔法使いの素質は…無いに等しい…』
この日、二度目の赤ん坊の泣き声が再び天樹に木霊した。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる