甘い言葉を囁いて

聖 りんご

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いち

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「ミシュ、庭の薔薇が綺麗に咲いているから行かないかい。」

「ええ。レン兄さま。もちろんお供しますわ。」

レン兄さまは時間がある時はいつも私の車椅子を引いて部屋から連れ出してくれる。
私は優しいレン兄さまが大好きだ。

産まれた時から目が見えなかった私は父や母から見向きもされない。
私の家は男爵家だけど裕福とは言えないから政略結婚に使えない私は価値が無いみたい。

だけど十五年間一緒にご飯を食べた事も誕生日を祝われた事も無いけど三歳上のレン兄さまだけは違う。
両親がいない時は一緒に食事をしてくれるし毎日会いに来てくれる。
部屋から連れ出してくれるし誕生日のプレゼントもくれる。
唯一家族と呼べる存在。


「わぁ…花のいい香りがします。お日様も暖かい…。」

「そうだね。今日はとても良い天気だよ。」

「レン兄さま、少し元気が無いようですけれど…どうされたのですか?」

「…参ったな。ミシュには隠し事は出来ないね。」

私は目が見えない代わりに感覚が鋭いのでレン兄さまの声で悩み事があるのは直ぐに分かった。
声のトーンからして結構深刻…かな?

「実は…サラの様子が少し気になってね。」

「サラさんがどうかされたのですか?」

サラさんはレン兄さまの婚約者で準男爵家の一人娘。
造形が良いのと可愛らしい声が男性に人気ってメイドが話しているのを聞いたけど、私は正直好きじゃない。

「最近、サラに会おうとしても忙しいと断られるんだ。しかも噂が…いや、きっと忙しいだけだな。」

「レン兄さま…。」

「心配かけてごめんよ。そろそろ戻ろうか。」

車椅子を引いてくれるレン兄さまからはやっぱり元気の無さが伝わってくる。
レン兄さまの心を煩わせるなんてサラさんには少しお灸が必要みたい。

まぁ元々サラさんにレン兄さまは勿体ないって思っていたし、あわよくば破局しちゃったりしないかしら。
ああ…でもそしたらレン兄さまが悲しむかな…ううん、そしたら私がたくさん慰めて差し上げればいいもの。

「じゃあ、今日はこれから出かけなくちゃいけないからまた夜にね。」

「はい。行ってらっしゃいませ、レン兄さま。」

部屋に戻ってきた私は早速行動を起こすことにした。
ベルで専属のメイドを呼ぶと少し休むから夕食まで部屋には誰も近づけないようにと伝える。

まだ昼を少し過ぎたくらいだから時間は充分に出来た。
私は車椅子から立ち上がり準備を始めた。
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