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皐月のケーキ作り

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「はーい。今日は初めてのケーキ作りという事で千秋お姉さんが初心者でもちゃんと可愛いケーキになるようにレクチャーしちゃいます。ハイ拍手!」

皐月と要は強制された拍手をしっかりして千秋を盛り立てる。
こうなったのにはクリスマスに浮かれる男子高校生の無責任なイメージが関係している。


遡る事二日前。
未だ拓海へのクリスマスプレゼントが決まらない皐月は教室で項垂れていた。そんな時、クラスの男子が皐月の近くでこんな話をしてしまったのだ。

「クリスマス近いけど彼女にリクエストした?」

リクエストという言葉にその手があったかと立ち上がりかけた皐月は次に聞こえてきた言葉にそれをやめた。

「俺リクエストとかしないだ。彼女が一生懸命選んでくれるのが嬉しいからね。」

この男子の彼女とはたくさん語り合う事が出来そうだと再び項垂れた皐月はこの会話の行く末が気になったのでそのまま聞いていた。
すると話は何を貰えたら嬉しいかという話題になり皐月も嬉しくなりながら耳をダンボにする。

「彼女が一生懸命作ったケーキとか夢があるよな!」

全てはこの一言で決まった。
その後、クッキーすら作った事が無い皐月は要に泣きつき二日後にこの千秋の簡単クッキングが開かれたのだ。

「材料は目の前に用意しました!後は計って混ぜて焼いて飾り付けるだけでーす。」

「ハイ!先生!!動画撮っておいてもいいですか!」

「やる気充分ね。許可しましょう。」

この時はまだ微笑ましいなどと思っていた千秋は作り終わる頃にはそんな事微塵も思わなくなっていた。

「皐月ちゃん!雑に計らないで!!お菓子作りは正確にが基本よ!!」

「千秋さん皐月のボールの中身がオカシイよ~。」

「皐月ちゃん?!さっき計って入れてたよね?!」

「途中で何杯目か忘れちゃった…。」

「さ、さー焼きますよ…ってオーブンの温度高くなってない?!」

「冷めたら大変だと思って…。」

千秋は頑張った。何故か言った通りに出来ない皐月に振り回されながらも必死に修正した。
出来上がったケーキは売り物のような千秋と要のケーキ、その横に歪な形のまるでヨーグルトがかけてあるようにクリームがドロりとした皐月のケーキ。

「大丈夫。拓海なら食べてくれるよ~。」

「料理もお菓子も愛情よ!」

二人のフォローに悲しさを覚えながらもケーキを家に持ち帰った皐月は父親から「このケーキ落としちゃったのか?勿体ないな~。」と言われ更に傷を深くした。
家族全員で試食した結果は満場一致で「ケーキへの冒涜だ。」という感想だった。
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