私のドラゴンライフ

秋の味覚を堪能しましょう

マリアは結界を解除するとその代わりに出口のあるマリア側と二分する茨を生やす。
王族達が憎々しげにマリアに視線を向けるが気にもとめず空中に無数の丸い物体を出現させると、周りには異様な匂いが立ち込め多くの者が鼻をつまんだりハンカチで鼻を覆った。

「これは秋になるとイッチョウという木に実るものなのですが調度良いので出してみました。」

マリアがニッコリ笑顔をつくった瞬間、空中に出されたイッチョウの実は一斉に王族や貴族たちを襲った。
声が出ないので悲鳴等は聞こえないが他人を盾にしようとする者、身を小さくして凌ごうとする者、うっかり踏んでしまい転倒する者など茨の向こうは大惨事だった。
マリアは匂いを飛ばしているので平気そうだがグラデーン公爵は気分が悪そうだったのでマリアは匂いを飛ばす範囲を広げる。

三十分程してイッチョウの実が無くなる頃、戦意よりも気持ち悪さと疲労が勝り力無く座り込む姿にマリアは少しは反省したか確認する為に声を戻した。

「皆さん少しはドラゴンの気持ちをお分かり頂けましたか？」
 
「巫山戯るでない！私にこんな仕打ちをしおって…うっぷ…許さんからな！！」

「あらあら、まだお分かり頂けない…残念ですね。では今度はドラゴン達を怒らせた時の予習をしましょう。」

マリアの言葉に皆が震え上がりもうたくさんだと首を振る。

「こ、これは復讐なんだろ？！マリアンヌ嬢を凶弾して辱めたのも国外追放したのも全部王子とその女だ！俺達は関係無いじゃないか！！」

「そうよ！なんで私がこんな目にあわなくてはならないの！こんなの逆恨みよ！！」

まるで自身は被害者であるかのように次々にあがる非難の声にマリアは人間扱いする必要性について考えてしまった。目の前にいるのは言葉の通じない人型をした動物なのかもしれない。

「ここまで愚かだと同情も出来んな……。」

「良心が痛まなくて助かります。それにしても……床と壁が汚れただけで実から種が案外出なかったですね。これでは大変なので少し手伝って貰いましょう。」

マリアは収納から丸いボールの様なものを取り出すと茨の向こうに放り投げた。すると、その中から大量の虫が飛び出してきてイッチョウの実を食べ始める。

「この虫はギンチョウと言う蜂の一種で、蝶のように美しい羽が名前の由来です。刺激しなければ何もされないですよ。」

イッチョウの実の匂いにつられ寄ってくるギンチョウにパニック状態の向こう側にはマリアの声が届いた者はいなかったにちがいない。
扇や手で払らわれ刺激されたギンチョウは美しい羽を鋼のように硬くして攻撃の姿勢に移る。こうなってしまえば止める手立ては無いのでマリアは収納から椅子とテーブルを出しグラデーン公爵に着席を促すと二人分の紅茶を入れてくつろぎ始めた。

ほぼ全員がギンチョウに刺されたりイッチョウの実でかぶれ原型が分からない程無惨な姿になるとギンチョウはマリアの元までイッチョウの種を運び巣に戻っていった。
マリアはギンチョウの巣とイッチョウの種を収納すると立ち上がりまたニッコリ笑顔を作る。

「さぁ、次は皆さんがいかに愚かな行動をしたのかを学びましょう。」