私が尽くす貴女は絶対

聖 りんご

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再生の短剣とは、モノを切り裂くのでは無く復元する力を持った奇跡の短剣。
名前から何となく教会で祀られるような神聖な物のように感じるが、材料とレシピと気力があれば作ることができるものだ。

ジルは再生の短剣を作るのに必要な材料を集めていた。

元となる短剣・浄化する聖水・再生力の高いビッグフロッグの粘液・毒耐性のある腐臭花・欠損すら治すスモールリザードの血液、これらを三日間かけて集めて現在、湖の辺でレシピを片手に奮闘していた。

「分かってはいましたが…なかなか骨が折れますね。」

一人呟きながら短剣以外の材料が入った恐ろしい悪臭を放つ鍋を混ぜ合わせるジル。
悪臭のせいで嗅覚はとおにバカになり、現時点で5時間程混ぜ続けているが、何者も近寄ってはこなかった。
そして、月が真上に来る頃にようやくその作業から解放され鍋の中に短剣を放り込む。

原理は不明だが、液体が無くなり短剣のみになれば完成とレシピには書かれている。
やっと作業を終えたジルは、強烈な臭いがするであろう自身と衣服の洗浄の為に湖で水浴びをする事にした。

服は洗っても洗っても臭いがとれているのか分からない。
こういう時に一人とは不便だとジルはため息をついた。
3回程服を洗い折り合いをつけると、今度は自身を綺麗にする為に水の中に入った。
月を写す湖は美しく、まるで心まで洗われているような気持ちになる。
ジルは静かに身を清めた。

静寂の中、ボーッと空を眺めているとプリマの事が頭に浮んだ。

いつも共に居る主、遣いを頼まれ離れる事はあるが、それも主に不便の無いように準備しての事。
何の準備も無く二日以上離れるなど初めての事だった。
短剣が完成すれば戻ろうとは思っているが、主人に逆らったジルをプリマが受け入れてくれるかは分からない。

もしかしたら用済みとされるかもしれない。
不安が頭を過ぎるが、プリマの側に居られないのなら生きてる意味もない。
その時はプリマの手で終わらせてもらおうとジルは密かに誓った。

ジルがなぜこのような事をしているのか、全てはプリマの誕生日に遡る。

プリマの誕生日当日、ジルはいつも以上に気合いを入れて食事の用意をしていた。
バラを模したケーキに最高級の酒類や紅茶、王宮の料理長すら師事を願い出そうな程に美しい料理。
プレゼントも用意し全て完璧だった。

プリマを起こしに行きプレゼントを渡しいつも以上に甘やかし誕生日を祝った。
しかし、幸せな一時はプリマの一言で壊れる。

「新しく従者を作ろうと思うの。」
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