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第一話

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 私はスカーレット・ジンデル。
 一応、ジンデル伯爵家の令嬢なんだけど、そんなものは名ばかりで、所謂、貧乏貴族です。
 うちの領地は広いんだけど、作物を育てるのには適していない。
 それでも、なんとか育てられる物を作っていたけど、度重なる災害のせいで不作が続き、領民の生活を守る為に、財産を使い果たしてしまったその結果、貧乏貴族になりました。

「お母様、ミントグリーンのドレスでいいかな?」
「そうね!少し手直しすれば、まだ着れるわね」

 一週間後にお城で、王太子殿下の婚約発表の為の夜会が開かれるのですが、私の一番の楽しみはなんといっても、豪華なお食事!
 我が家は貧乏なので、普段の食事はパンと家庭菜園で採れた野菜のスープが定番です。
 なので、こっそりお持ち帰り出来たらなー……とか思ったり。
 そして、夜会に着て行くドレスも新しく買う余裕はないので、小さくなった物を手直ししないといけません。

「お嬢様!この花のモチーフを付けたら可愛くないですか?」
「本当だ、可愛いね!ありがとう、リタ」

 侍女のリタがせっかく提案してくれたので、白や淡い黄色の花のモチーフを合わせてみたら、より可愛らしくなりました。
 貧乏貴族ではあるけれど、リタのように使用人の皆は家族同然に仲良しです。

「……僕の可愛らしいスカーレットがこんなに素敵なドレスを着たら、絶対に飢えた狼の餌食になっちゃうよぉぉぉ‼︎……あぁ、心配だぁっ‼︎」

 途中まで機嫌良くお茶を飲んでいたお父様が、大袈裟に狼狽え始めました。
 お父様は親バカだからなぁ。

「あなた、うるさいわよ」
「お父様、そんなに心配しなくても大丈夫だって!」

 心配せずとも、ずば抜けて美人というわけでもない、貧乏伯爵家の娘に声をかけてくる人はいないでしょ。

◇◇◇

「お嬢様、とってもお綺麗です!」
「ありがとう。リタのアドバイスのおかげで素敵なドレスになったわ」

 花のモチーフをあしらった、プリンセスラインのミントグリーンのドレスを纏い、少しクセのある赤い髪を後ろに緩く編んで、白と黄色のラナンキュラスの髪飾りを挿せば、なんとびっくり、立派なレディに見えるんだから不思議よね!
 普段は社交の場にも全然出ないし家庭菜園なんかもしてるしで、汚れてもいいようにお仕着せを着てるから、たまにドレスを着るとちょっとドキドキ。

「それじゃあ、行こうか」

 お父様に声をかけられ、馬車に乗り込みます。
 お父様、お母様、リタ、私の四人を乗せた馬車はしばらく走ると、城下町に差し掛かった時、突然止まりました。

「どうした?」

 お父様が御者に声をかけます。

「申し訳ありません。少し先の道の上に何かありまして……」

 何か?何だろう。
 気になって馬車の窓から顔を出して見てみました。

「お嬢様!お行儀が悪いです!」

 リタが言うのを無視して目を凝らして見ると、道の上の物が少し動きました。

「あれは……」

 私達の馬車の後方から、別の馬車の走って来る音が聞こえてきた時、道の上の物が何かわかりました。

――子供だ……‼︎

 その瞬間、私は馬車の扉を開け、その子供の元へ駆け出していました。
 この道は馬車が並んで走れるくらい広い。
 後ろの馬車があの子に気づかずそのまま走ってきたら、あの子が轢かれてしまう。

 ――間に合って‼︎

「「スカーレットっ⁉︎」」
「お嬢様っ⁉︎」

 子供の元に着いた私は、無我夢中でその子を抱き上げると、そのまま道の端に飛んで転がりました。
 後ろから来ていた馬車は、子供に気づいたけど止まるのが間に合わなかったのか、さっきまで子供がいた所を通過して、だいぶ先の方で止まりました。

「お嬢様大丈夫ですか⁉︎お怪我は⁉︎」
「大丈夫、怪我も無いみたい」

 あれだけ派手に転がった割に無傷で良かった。

「スカーレット‼︎なんて無茶をするんだ‼︎」
「生きた心地がしなかったわ‼︎」
「ごめんなさい、お父様お母様」

 お父様とお母様が血相を変えて駆け寄る。
 心配をかけてしまったな。
 でも、この子が間に合って良かっ……。

「――大変!この子、凄い熱!早くお医者様に診てもらわないとっ‼︎」

 腕の中の5歳くらいの女の子の体は熱く、苦しそうにぜいぜいと荒い呼吸をしている。

「スカーレット、急いで馬車に乗りなさい。近くの診療所に行くよ」
「お父様、いいの?」

 私達は夜会に出席するためお城に向かっている途中。
 この子を診療所に連れて行くという事は……。

「いいのよ、スカーレット。私達が欠席したところで、困る人がいるわけじゃないのだから。子供の命の方が大事、貴女もそう思ったから馬車から飛び出したのでしょ?」
「お母様……」
「さぁ、早くその子を診てもらいに行こう。そこの方、すまないが、この子のご家族が探されていたら、ジンデル伯爵家の者が近くの診療所に連れて行ったと伝えてください」
「あ……はい!わかりました」

 お父様は近くのお店の方に声をかけると、私の腕から女の子を抱き上げ、馬車に乗り込みました。
 私達も続いて乗り込み、診療所へと向かいます。

 私達がバタバタとその場を離れた後、先の方で止まった馬車から降りてきた人物が、今まで私達がいた場所に来たことを、私達は知る由もありませんでした。

「……ラナンキュラス」

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