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第五話

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「あれは……」

 馬車に揺られながらふと外に視線を向けると、道端に座り込む男性が目に止まった。
 物乞いなのか、自分の前に器の様な物を置いている。
 瞳に生気は無く、虚なその瞳は置かれている器をただぼうっと見ている。

「クリスティナ?」

 私の向かいに座る人から名を呼ばれた瞬間、弾かれた様にその男性がこちらへ視線を向けた。
 驚いた様に見開かれた瞳は、先ほどまでの生気のない瞳では無く、どこか縋る様な、怒りの様な、色んな感情が混ざった様に見えた。
 立ち上がろうとしたものの、力が入らないのか転んでしまったが、それでも瞳は私を見ていた。
 そんな彼に私はにっこりと笑み手を振った。

「知り合いでもいたのかい?」

 私の向かいに座る男性は、手を振っていた私を不思議そうに見ていた。

「えぇ、ちょっとした知り合いが」
「その人は呼ばなくて良かったの?」
「えぇ。もう会う事も無い人だから」
「?」

 にっこり笑う私に不思議そうに首を傾げるこの人は、半年前にエフェリーネ様が私に紹介したいとおっしゃっていた人。
 エフェリーネ様の弟で、次期公爵のエフベルト様。
 そして、これから挙式を行う私の旦那様だ。
 私に想いを寄せてくださっていたけれど、その時は私に婚約者がいた為に諦めていたそうで、それをご存知だったエフェリーネ様が、カスペル様との婚約を辞めると言った私に引き合わせてくださり、親交を深めた後に新たにエフベルト様と婚約する事になった。

「エフベルト様。私、とても幸せです」

 妹に裏切られ、婚約者に裏切られたけれど、想い合える人と結ばれる事が出来た。

「僕も幸せだよ」

 式場に着いた馬車から、エフベルト様にエスコートされ降りて行く。
 私を裏切った元婚約者の成れの果ても見れた事だし、この晴れの日に、こんなに晴れやかな気分になれてなんて最高なのかしら。
 ……言ってみてもいいかしら?

「ざまぁみろ」


「何か言った?クリスティナ」
「いいえ、何も」
「じゃあ、行こうか」
「えぇ」

 私を裏切ったお二人さん、裏切ってくれてありがとう。

 私、最高に幸せです。
 

 
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感想 2

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みんなの感想(2件)

Vitch
2024.11.17 Vitch

カスペルの家、タイミングの良い没落でしたね。

エフェリーネ様が調査させたのかな?

咲貴
2024.12.14 咲貴

クリスティナを手に入れる好機を逃すまいとエフベルトが頑張りました。
読んで頂きありがとうございました。

解除
たっかみー
2024.11.04 たっかみー

読後感の良いザマァでした。
最後はお幸せに。ですね。

咲貴
2024.12.14 咲貴

楽しんで頂けたなら幸いです。
読んで頂きありがとうございました。

解除

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