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第二話

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 スッ、と手を挙げるとホールの扉が開き、国王陛下、第二王子のテオドーロ殿下、私の父のドナーティ伯爵、ロジータの父のアッカルド男爵が入って来た。

「なっ!父上⁉︎どうされたのですか⁉︎」

 卒業パーティー程度に顔を出される事の無い陛下がお越しになれば、それは驚きますわね。
 周りの令息令嬢達も一気に緊張した面持ちになっているし。

「ベネデット、お前にはつくづく愛想が尽きた。ここまで愚かだとは……」
「ち、父上?」
「何故、アドリア嬢を蔑ろにしたのだ。美しく教養もあり、将来の王妃候補として申し分無かったであろう」
「アドリアは性根が腐っています!とても王妃に相応しいとは思えません!現にロジータを虐めているのですから‼︎」

 よくもまぁ、親のいる前でその娘を貶せること。

「……殿下、本当に我が娘のアドリアが、ロジータ嬢を虐めたと仰るのですか?」
「そうだ!ドナーティ伯爵、育て方を間違えたようだな!ロジータの様に育てるべきだったのだ‼︎」
「……ほう?」

 あらあら、お父様ったら青筋を立てていらっしゃるわ。
 その隣ではアッカルド男爵が血の気の引いた顔で、成り行きを見守っている。黙って見ているよう言われたのかしら。
 父親の方はまともな感性を持っているようね。

「それでは、この場にいる皆様に、ベネデット様がお褒めになるロジータ嬢の素晴らしき行いを見ていただきましょう!」

 普段から身につけていたネックレスを外し、ネックレスの仕掛けを作動させる。
 ネックレスの上に天井近くまで大きく、教室が映し出され、そこにロジータが現れた。

「へ?ロジータ?」

 アホなお顔が更にアホに見えるので、ベネデット様は口は閉じた方が良いと思いますわ。

 映し出された人気の無い教室。
 ロジータは私の鞄から、教科書やノートを取り出し、それはもう見事なまでにビリビリにしていく。
 更にはペン等も踏みつけ、バキバキにして笑っている。

「な、何よこれっ⁉︎」
「よく撮れていますでしょ?」

 ベネデット様の腕に縋りついたままロジータが狼狽している。
 まさか、撮られているなんて思いもしなかったんでしょうね。
 証拠というのはこういう物の事を言うのよ。

 そして、場面が変わり学園の人気の無い廊下。
 前からロジータが歩いて来る。そのまま進めば当たるはずもない位置にいるのに、わざわざこちらへ寄ってきて私にぶつかり、

「うっわ、きったなーい!菌が感染るー!」

 などと、意地の悪い顔でニヤニヤしながら言う。

「――やめてっ!止めてよっ‼︎」

 ロジータが必死の形相で映像を止めようと近づいて来ようとするも、我が家の執事に阻まれる。

 また場面が変わり、学園の人気の無い階段の踊り場。
 後ろからやって来たロジータが、

「バーカ!」

 と言って私を突き飛ばす。
 階下に落ちて行く所で映像は停止。

 まぁ、突き飛ばされた程度、華麗に着地してみせましたわ。映ってはいませんけれど。

「これが、ベネデット様が絶賛されたロジータ嬢による素晴らしき行いですわ。あら、でもおかしいですわね?映像でロジータ嬢が行っていた事で私は断罪されましたのに、どういう事でしょうかベネデット様?」

 ざわついている衆人の視線が一斉にベネデット様に集まる。

「……こ、こんなのっ、作り物だ‼︎ロジータを貶める為にお前が作った物なんだろ‼︎」
「……はぁ」

 この期に及んで、なんとも愚かな……。
 こうも愚かだと溜め息しか出ませんわ。
 映像を流し始めた後のロジータの言動が真実であると物語っているというのに。
 自分の信じたいことしか信じない人間が、次期国王になどなれるはずがありませんわね。
 あぁ、お父様、眉間の皺がくっきりはっきり出過ぎですわ。握った拳の震えもお隠しになってください。
 ぶん殴りたい気持ちはアドリアも一緒ですわ。

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