悪役令嬢が死んだ後

ぐう

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 黙り込むフェリクスを見てデングラー公爵の方から尋ねた。

「それで聞きたいことというのは」

 フェリクスはデングラー公爵の目を見据えて言った。

「公爵 令嬢の殺害犯人に付いては聞いているか」

 急に何を言い出すのかと不審げにデングラー公爵が答えた。

「どこかの男爵令嬢でエトムントが入れ込んでいたのは先程見聞きしましたが……」

「多分同一人物だと思うが、令嬢に冤罪をかけようとして失敗して令嬢を刺殺した犯人は“マリア・ヘニッヒ”という男爵家の娘だ」

 デングラー公爵は衝撃を受けたようだった。

「そ……それではダニエルの妹が…乳母の娘が……あの子を殺したと」

「これは近衛騎士が目撃していて、医師の検死もあった。マリア・ヘニッヒが犯人だ」

「公爵はどの位アルベルトが令嬢を邪険にし学園で側近と共に迫害していた事を知っていた?」

 聞かれたデングラー公爵の顔は青ざめるを通り過ぎて色が抜け落ちていた。

「……何も……そう何も……気が付きも……いえ……注意すら向けませんでした。自分が娘を疎んじて放置したために虐待を受けた事がつらくて、娘の周りには信頼の置ける大人を配した後は自分は娘に一切近付きませんでした。罪と向き合うのが怖かったのです」

「デングラー公爵家は反王家派だ」

 いきなりフェリクスにそう言われてデングラー公爵は俯いたのをフェリクスに向けて視線をもどした。

「フェリクス殿下 何をおっしゃるのですか。我が公爵家は忠誠を……」

「代々誓ってはいないな。表立っては反王家を出してはないけれど、常に王家の勢力を削ぐことに力を注いでる。一例では第一側妃が王宮に上がれるように侯爵に力を貸したな?」

「……なんのことですか」

「はっきり言って侯爵家が金銭を配りまくっても嫌がる国王に無理矢理側妃を娶らせることはできない。デングラー公爵家のような配下の沢山いる有力な家の後押しでないとな」
 
 フェリクスがそこで言葉を切るとデングラー公爵は開き直ったようだった。

「ですが、そんな事をして我が家になんの徳になりますか?」

 フェリクスはその言葉を聞いて本性を出すのかと思った。今までは娘を亡くした悲劇の父親ぶっていたが政治家としての一面は汚いはずだ。その割には養子のエトムントの選別には失敗したしてるなとも思った。

「第一側妃は輿入れしてきた王妃に寵愛は自分にあるので遠慮しろと言った。考えると側妃が正妃によくそんな事を言えるな」

「考えなしなだけではないですか?」

「そうかな?そんな事を言っても庇ってくれる存在があったのだろう?」

「父親ですか」

「いや、その時には既に父親の侯爵は急死してる。不自然なくらいに側近や有力な貴族を買収したと言う証拠も消された。誰かが余計なものを片付けたのだ」

「誰でしょう。捕まって無いところをみるとそれは殿下の妄想では?」

 フェリクスはふっと笑った。

「確かにこの件については証拠隠滅が完全でどう調べても証拠は出てこなかった。先代デングラー公爵は完璧だった。だからこれは私の想像だ」

「……殿下、想像でそのような事を言うのは御身の将来に関わりますのでお止めになった方が……」

「まあ 最後まで聞けよ。第一側妃がそんな事を言ったのは嫉妬だが、言わせた奴の目的は国王と王妃との不和だ。王妃は思い込みが激しいタイプで否定する国王の言葉を受け入れなかった。事実として自分との婚姻前にいる側妃が愛されてないなどと思えなかったのだろうな。遠国から隣国を牽制するために嫁いで来た王妃とうまくいかないとどうなる?」

「……事実として王妃と不仲で別居されていても国王陛下の御代に影はさしていません」

 デングラー公爵はこの話を打ち切りたいようだった。

「それはたまたま鉱山が見つかり、王妹が隣国の王太子ーー今の国王に嫁いで、鉱山からの工業発展に両国で力を入れられたからだ。ーーーこれは人質覚悟で行って隣国で信頼を得た王妹の手柄だ。ーーその結果隣国を牽制する必要が無くなって隣国の向こうの王妃の母国との関係が悪化しても困らなくなった。王家としては一安心だがデングラー公爵家はどうかな?当てが外れた?」

 そこまで言われてデングラー公爵は言い返すのをやめた。

「王妃と不仲にさせて第一側妃に王子を生ませようとしたのに国王は見初めた我が母を側妃にして私が生まれた。困っただろう?」
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