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番外編

幸せの貌

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 外で馬の蹄の音がする。私は繕いをしていた手を止めて慌てて、玄関まで夫を迎えに行く。玄関ホールで執事に出迎えられているところへ飛び込んで行く。

「お帰りなさい!」

 夫のたくましい胸に向かって飛び込む。

「こら、おてんば。腹の子に触るだろう。」

 夫が慌てて抱きとめてくれる。夫の胸はとても温かい。

「だって三日ぶりなんですもの。会いたかった!」

「おやおや、もう母親なのにうちの奥様は甘えん坊だ。」

 夫に抱えられるように、室内に入って来た。

「野盗退治は終わったの?」

「隣国に逃げ込みそうになったので、あちらの辺境騎士団に協力してもらって、仕留めて来たよ。これで旅人も安心して移動できる。」

「野盗退治は宿願だったものね。」

「そうだな。この国に来てもう7年か、長いようで短かったな。」

「来た時は歓迎されてなくて、どうなるかと思って泣きそうだったもの。」

「この邸は俺の父の遺産だったけど、俺と亡くなった母は父の仇みたいなものだから、来た当時の非難の眼差しは凄かった。」




 7年前領地に拘束されていた私を夫が隣国に行くからと連れ出してくれた。
 学園で一度も話したこともなかったのに、いつも見てた。幸せにしたいと言ってくれた。嬉しかった。愚かなことをした私でもいいと言ってくれた。


 隣国に来た私達には試練が待っていた。


 夫の母は不義密通をして離縁され、その後病死したことになってる。この国の王族からも抹消された存在だ。
 彼に実父の領地と爵位を返す事を条件にかの国から食糧を援助してもらうことになっていた。それぐらいここは貧しいのだ。

 そんなところに余計者が帰って来たのだから、世間の目は冷たかった。
 この邸に初めて来た時の使用人達の冷たい目も忘れられない。
 夫も騎士団に入団したが、噂話と冷遇に悩んだらしい。
 でもどんな事をされても、夫が居れば乗り越えられると思った。夫もお前が居ればと言ってくれた。形だけの夫婦でいいと言われたが、夫の温かい腕に抱きしめられたくて、自分から妻にして下さいと願った

 夫は生来の生真面目さで鍛錬に取り組み騎士として腕を上げたことで、だんだんと騎士団で認められて行った。ある日暴漢に襲われた王を助けた事で勲章も貰った。
 勲章を授与された後別室に呼ばれて、王から姉がすまなかった。姉のしたことは許せないが、そなたには幸せになって欲しい。と言われたそうだ。

 私達が来たことで嫌がって使用人が減ってしまっていた。私は自分でできることはなんでもやった。できないことはできるようになればいいのだと熱心にやってみた。
 あんなに勉学が嫌いだったけど、どうやったら裏畑で作ってる野菜がうまく作れるか一緒にやってくれる侍女と試行錯誤した。
 本を読み夫の領地の農家の名人という人に教えを乞い願い満足行く野菜ができるようになった。


 この国は広がる平野があり、農作物を栽培するには最適な土地だ。もったいないと思い農家の名人とともに、まだ痩せている土地でも収穫のあがる作物を選んで、植えて行った。農家の名人のもとにだんだんと若者が集まり熱心に広がっていた。
 貧しいけれど希望のある国へと若者が動き出したので、私はいつも支えてくれていた夫の妻に専念することにした。
 それからすぐ子供も授かり幸せだ。


 かの国で私が執着していた美しさは今でもなんだったかわからない。でも今は幸せの貌がここにある。

 

 
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みんなの感想(3件)

hiyo
2020.12.16 hiyo

あり得そうだな~と思わせる読み易い物語でした。

一体誰が悪かったのでしょう?
自分磨きをしなかった公爵令嬢、貴族としての在り方を教えなかった父公爵、
相手を思い遣れなかった第二王子、王妃を大事にしなかった王様と寂し過ぎた王妃

やはり一番の罪人は国を思って王妃を大事にしなかった王様でしょうか?

番外編で救われました。
読ませて頂いて有難うございました。

ぐう
2020.12.16 ぐう

お読みいただきありがとうございました。
この話の中で一番救われないのは王妃とその護衛騎士でしょう。
王妃がもう少し自分に自信があったら、もう少し素直に愛を表現できたらと言うifがあります。
それでもねじれてしまった事は取り戻せません。
護衛騎士は王妃に惹かれていたので、王妃の懇願を断れませんでした。
でも自分に似て来る第一王子を見て耐えきれずに逃げ出します。
第二王子も公爵令嬢を愛せなくても、大事にしたいと思っていました。
上手くは行きませんでしたが。
この話に出てくる登場人物第一王子と護衛騎士以外自分勝手で自分だけ可愛い人達です。
現実世界でも普通にそう言う人いますよね。
公爵令嬢と第一王子が生き直しを成功できた事は救いとして書きました。
ありがとうございました。

解除
ちびたん
2020.05.06 ちびたん

誰が一体悪かったのか?
彼女を甘やかし、諫めなかった
父親は勿論のこと( ̄∇ ̄)ヤレヤレ!
正しく導く心ある人が、彼女には居なかった…本当の愛を知らず
空虚な心を満たす為、無意識下の言動が美しいものを愛でる事。

欲望は誰にもあるもの。
貴族として未完成の彼女は、
隠す術を知らず (。・ω・。)唯々💧
奇行を繰り返すのみ…哀れな😢

最後まで読み進めて解る
きれいに隠された欺瞞の数々。
始まりは誰なのか?過ちを犯し諸悪の根源を生み出し放置した
王か王妃かそれとも…( ̄Δ ̄)ハァ

婚約者が有りながら
隠れて愛を育む王子と😅
解りやすく顰蹙を買う公爵令嬢。
ヤッテイル事は同じく浮気ですがネ(笑)
幼稚な彼女は排除され、( ̄∇ ̄)
上手く立ち回る腹黒さを武器に
幸せに成った元婚約者と異母兄。
公爵の死因も疑わしい?怖っ😨

一番幸せに成ったのは誰。
私には、我が儘に振る舞い😅
奇行を繰り返し自滅して終った
公爵令嬢ですかね。( ̄∇ ̄)クスクス
馬鹿カワイイのがツボですね♡
母国に追放処分に成った元王子。母親(元王妃)の遺恨を晴らす為、
同じ境遇の彼女を娶った。(//∇//)
漢気あふれる、厳つい彼と暮らす日々は…愛されず疎まれた彼女にとって心安らぐご褒美かもしれません…お幸せに。🌱🐥🐤💗

貴族って汚いですね…😨
綺麗な微笑みの裏の隠された💧
真実に…ぞっとしました(〃ω〃)色々と考えさせて頂き、感謝しか有りません。面白かったです😆
新作を楽しみにしていますね。

ぐう
2020.05.07 ぐう

お読みいただきありがとうございます。それぞれの言い分があって、それぞれの幸せを求める気持ちがあってねじれてます。
父公爵も愛を求めて、正妻に拒否されて、公爵令嬢の母を選んだのですが、すぐ亡くなってしまい代わりに娘に愛を注ぎ込んだのですが、彼女のためにはならなかったようですね。
最後はせめて希望を見つけさせたくて、こんなエンドになりました。感想ありがとうございました。

解除
文可
2020.05.06 文可

それぞれに言い分があってみんな利己的で
だけどあたたかいエピローグをむかえていいお話でした。

ぐう
2020.05.06 ぐう

読んでいただきありがとうございます。第一王子とその父親の護衛騎士以外自分の欲望に忠実な人間です。感想ありがとうございました。

解除

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