11 / 11
番外編
幸せの貌
しおりを挟む
外で馬の蹄の音がする。私は繕いをしていた手を止めて慌てて、玄関まで夫を迎えに行く。玄関ホールで執事に出迎えられているところへ飛び込んで行く。
「お帰りなさい!」
夫のたくましい胸に向かって飛び込む。
「こら、おてんば。腹の子に触るだろう。」
夫が慌てて抱きとめてくれる。夫の胸はとても温かい。
「だって三日ぶりなんですもの。会いたかった!」
「おやおや、もう母親なのにうちの奥様は甘えん坊だ。」
夫に抱えられるように、室内に入って来た。
「野盗退治は終わったの?」
「隣国に逃げ込みそうになったので、あちらの辺境騎士団に協力してもらって、仕留めて来たよ。これで旅人も安心して移動できる。」
「野盗退治は宿願だったものね。」
「そうだな。この国に来てもう7年か、長いようで短かったな。」
「来た時は歓迎されてなくて、どうなるかと思って泣きそうだったもの。」
「この邸は俺の父の遺産だったけど、俺と亡くなった母は父の仇みたいなものだから、来た当時の非難の眼差しは凄かった。」
7年前領地に拘束されていた私を夫が隣国に行くからと連れ出してくれた。
学園で一度も話したこともなかったのに、いつも見てた。幸せにしたいと言ってくれた。嬉しかった。愚かなことをした私でもいいと言ってくれた。
隣国に来た私達には試練が待っていた。
夫の母は不義密通をして離縁され、その後病死したことになってる。この国の王族からも抹消された存在だ。
彼に実父の領地と爵位を返す事を条件にかの国から食糧を援助してもらうことになっていた。それぐらいここは貧しいのだ。
そんなところに余計者が帰って来たのだから、世間の目は冷たかった。
この邸に初めて来た時の使用人達の冷たい目も忘れられない。
夫も騎士団に入団したが、噂話と冷遇に悩んだらしい。
でもどんな事をされても、夫が居れば乗り越えられると思った。夫もお前が居ればと言ってくれた。形だけの夫婦でいいと言われたが、夫の温かい腕に抱きしめられたくて、自分から妻にして下さいと願った
夫は生来の生真面目さで鍛錬に取り組み騎士として腕を上げたことで、だんだんと騎士団で認められて行った。ある日暴漢に襲われた王を助けた事で勲章も貰った。
勲章を授与された後別室に呼ばれて、王から姉がすまなかった。姉のしたことは許せないが、そなたには幸せになって欲しい。と言われたそうだ。
私達が来たことで嫌がって使用人が減ってしまっていた。私は自分でできることはなんでもやった。できないことはできるようになればいいのだと熱心にやってみた。
あんなに勉学が嫌いだったけど、どうやったら裏畑で作ってる野菜がうまく作れるか一緒にやってくれる侍女と試行錯誤した。
本を読み夫の領地の農家の名人という人に教えを乞い願い満足行く野菜ができるようになった。
この国は広がる平野があり、農作物を栽培するには最適な土地だ。もったいないと思い農家の名人とともに、まだ痩せている土地でも収穫のあがる作物を選んで、植えて行った。農家の名人のもとにだんだんと若者が集まり熱心に広がっていた。
貧しいけれど希望のある国へと若者が動き出したので、私はいつも支えてくれていた夫の妻に専念することにした。
それからすぐ子供も授かり幸せだ。
かの国で私が執着していた美しさは今でもなんだったかわからない。でも今は幸せの貌がここにある。
「お帰りなさい!」
夫のたくましい胸に向かって飛び込む。
「こら、おてんば。腹の子に触るだろう。」
夫が慌てて抱きとめてくれる。夫の胸はとても温かい。
「だって三日ぶりなんですもの。会いたかった!」
「おやおや、もう母親なのにうちの奥様は甘えん坊だ。」
夫に抱えられるように、室内に入って来た。
「野盗退治は終わったの?」
「隣国に逃げ込みそうになったので、あちらの辺境騎士団に協力してもらって、仕留めて来たよ。これで旅人も安心して移動できる。」
「野盗退治は宿願だったものね。」
「そうだな。この国に来てもう7年か、長いようで短かったな。」
「来た時は歓迎されてなくて、どうなるかと思って泣きそうだったもの。」
「この邸は俺の父の遺産だったけど、俺と亡くなった母は父の仇みたいなものだから、来た当時の非難の眼差しは凄かった。」
7年前領地に拘束されていた私を夫が隣国に行くからと連れ出してくれた。
学園で一度も話したこともなかったのに、いつも見てた。幸せにしたいと言ってくれた。嬉しかった。愚かなことをした私でもいいと言ってくれた。
隣国に来た私達には試練が待っていた。
夫の母は不義密通をして離縁され、その後病死したことになってる。この国の王族からも抹消された存在だ。
彼に実父の領地と爵位を返す事を条件にかの国から食糧を援助してもらうことになっていた。それぐらいここは貧しいのだ。
そんなところに余計者が帰って来たのだから、世間の目は冷たかった。
この邸に初めて来た時の使用人達の冷たい目も忘れられない。
夫も騎士団に入団したが、噂話と冷遇に悩んだらしい。
でもどんな事をされても、夫が居れば乗り越えられると思った。夫もお前が居ればと言ってくれた。形だけの夫婦でいいと言われたが、夫の温かい腕に抱きしめられたくて、自分から妻にして下さいと願った
夫は生来の生真面目さで鍛錬に取り組み騎士として腕を上げたことで、だんだんと騎士団で認められて行った。ある日暴漢に襲われた王を助けた事で勲章も貰った。
勲章を授与された後別室に呼ばれて、王から姉がすまなかった。姉のしたことは許せないが、そなたには幸せになって欲しい。と言われたそうだ。
私達が来たことで嫌がって使用人が減ってしまっていた。私は自分でできることはなんでもやった。できないことはできるようになればいいのだと熱心にやってみた。
あんなに勉学が嫌いだったけど、どうやったら裏畑で作ってる野菜がうまく作れるか一緒にやってくれる侍女と試行錯誤した。
本を読み夫の領地の農家の名人という人に教えを乞い願い満足行く野菜ができるようになった。
この国は広がる平野があり、農作物を栽培するには最適な土地だ。もったいないと思い農家の名人とともに、まだ痩せている土地でも収穫のあがる作物を選んで、植えて行った。農家の名人のもとにだんだんと若者が集まり熱心に広がっていた。
貧しいけれど希望のある国へと若者が動き出したので、私はいつも支えてくれていた夫の妻に専念することにした。
それからすぐ子供も授かり幸せだ。
かの国で私が執着していた美しさは今でもなんだったかわからない。でも今は幸せの貌がここにある。
21
お気に入りに追加
230
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説
死んで巻き戻りましたが、婚約者の王太子が追いかけて来ます。
拓海のり
恋愛
侯爵令嬢のアリゼは夜会の時に血を吐いて死んだ。しかし、朝起きると時間が巻き戻っていた。二度目は自分に冷たかった婚約者の王太子フランソワや、王太子にべったりだった侯爵令嬢ジャニーヌのいない隣国に留学したが──。
一万字ちょいの短編です。他サイトにも投稿しています。
残酷表現がありますのでR15にいたしました。タイトル変更しました。
貴族としては欠陥品悪役令嬢はその世界が乙女ゲームの世界だと気づいていない
白雲八鈴
恋愛
(ショートショートから一話目も含め、加筆しております)
「ヴィネーラエリス・ザッフィーロ公爵令嬢!貴様との婚約は破棄とする!」
私の名前が呼ばれ婚約破棄を言い渡されました。
····あの?そもそもキラキラ王子の婚約者は私ではありませんわ。
しかし、キラキラ王子の後ろに隠れてるピンクの髪の少女は、目が痛くなるほどショッキングピンクですわね。
もしかして、なんたら男爵令嬢と言うのはその少女の事を言っています?私、会ったこともない人のことを言われても困りますわ。
*n番煎じの悪役令嬢モノです?
*誤字脱字はいつもどおりです。見直してはいるものの、すみません。
*不快感を感じられた読者様はそのまま閉じていただくことをお勧めします。
加筆によりR15指定をさせていただきます。
*2022/06/07.大幅に加筆しました。
一話目も加筆をしております。
ですので、一話の文字数がまばらにになっております。
*小説家になろう様で
2022/06/01日間総合13位、日間恋愛異世界転生1位の評価をいただきました。色々あり、その経緯で大幅加筆になっております。
悪役令嬢に転生!?わたくし取り急ぎ王太子殿下との婚約を阻止して、婚約者探しを始めますわ
春ことのは
恋愛
深夜、高熱に魘されて目覚めると公爵令嬢エリザベス・グリサリオに転生していた。
エリザベスって…もしかしてあのベストセラー小説「悠久の麗しき薔薇に捧ぐシリーズ」に出てくる悪役令嬢!?
この先、王太子殿下の婚約者に選ばれ、この身を王家に捧げるべく血の滲むような努力をしても、結局は平民出身のヒロインに殿下の心を奪われてしまうなんて…
しかも婚約を破棄されて毒殺?
わたくし、そんな未来はご免ですわ!
取り急ぎ殿下との婚約を阻止して、わが公爵家に縁のある殿方達から婚約者を探さなくては…。
__________
※2023.3.21 HOTランキングで11位に入らせて頂きました。
読んでくださった皆様のお陰です!
本当にありがとうございました。
※お気に入り登録やしおりをありがとうございます。
とても励みになっています!
※この作品は小説家になろう様にも投稿しています。
裏切りの公爵令嬢は処刑台で笑う
千 遊雲
恋愛
公爵家令嬢のセルディナ・マクバーレンは咎人である。
彼女は奴隷の魔物に唆され、国を裏切った。投獄された彼女は牢獄の中でも奴隷の男の名を呼んでいたが、処刑台に立たされた彼女を助けようとする者は居なかった。
哀れな彼女はそれでも笑った。英雄とも裏切り者とも呼ばれる彼女の笑みの理由とは?
【現在更新中の「毒殺未遂三昧だった私が王子様の婚約者? 申し訳ありませんが、その令嬢はもう死にました」の元ネタのようなものです】
(完結)夫に殺された公爵令嬢のさっくり復讐劇(全5話)
青空一夏
恋愛
自分に自信が持てない私は夫を容姿だけで選んでしまう。彼は結婚する前までは優しかったが、結婚した途端に冷たくなったヒューゴ様。
私に笑いかけない。話しかけてくる言葉もない。蔑む眼差しだけが私に突き刺さる。
「ねぇ、私、なにか悪いことした?」
遠慮がちに聞いてみる。とても綺麗な形のいい唇の口角があがり、ほんの少し微笑む。その美しさに私は圧倒されるが、彼の口から紡ぎ出された言葉は残酷だ。
「いや、何もしていない。むしろ何もしていないから俺がイライラするのかな?」と言った。
夫は私に・・・・・・お金を要求した。そう、彼は私のお金だけが目当てだったのだ。
※異世界中世ヨーロッパ風。残酷のR15。ざまぁ。胸くそ夫。タイムリープ(時間が戻り人生やり直し)。現代の言葉遣い、現代にある機器や製品等がでてくる場合があります。全く史実に基づいておりません。
※3話目からラブコメ化しております。
※残酷シーンを含むお話しには※をつけます。初めにどんな内容かざっと書いてありますので、苦手な方は飛ばして読んでくださいね。ハンムラビ法典的ざまぁで、強めの因果応報を望む方向きです。
安息を求めた婚約破棄
あみにあ
恋愛
とある同窓の晴れ舞台の場で、突然に王子から婚約破棄を言い渡された。
そして新たな婚約者は私の妹。
衝撃的な事実に周りがざわめく中、二人が寄り添う姿を眺めながらに、私は一人小さくほくそ笑んだのだった。
そう全ては計画通り。
これで全てから解放される。
……けれども事はそう上手くいかなくて。
そんな令嬢のとあるお話です。
※なろうでも投稿しております。
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
あり得そうだな~と思わせる読み易い物語でした。
一体誰が悪かったのでしょう?
自分磨きをしなかった公爵令嬢、貴族としての在り方を教えなかった父公爵、
相手を思い遣れなかった第二王子、王妃を大事にしなかった王様と寂し過ぎた王妃
やはり一番の罪人は国を思って王妃を大事にしなかった王様でしょうか?
番外編で救われました。
読ませて頂いて有難うございました。
お読みいただきありがとうございました。
この話の中で一番救われないのは王妃とその護衛騎士でしょう。
王妃がもう少し自分に自信があったら、もう少し素直に愛を表現できたらと言うifがあります。
それでもねじれてしまった事は取り戻せません。
護衛騎士は王妃に惹かれていたので、王妃の懇願を断れませんでした。
でも自分に似て来る第一王子を見て耐えきれずに逃げ出します。
第二王子も公爵令嬢を愛せなくても、大事にしたいと思っていました。
上手くは行きませんでしたが。
この話に出てくる登場人物第一王子と護衛騎士以外自分勝手で自分だけ可愛い人達です。
現実世界でも普通にそう言う人いますよね。
公爵令嬢と第一王子が生き直しを成功できた事は救いとして書きました。
ありがとうございました。
誰が一体悪かったのか?
彼女を甘やかし、諫めなかった
父親は勿論のこと( ̄∇ ̄)ヤレヤレ!
正しく導く心ある人が、彼女には居なかった…本当の愛を知らず
空虚な心を満たす為、無意識下の言動が美しいものを愛でる事。
欲望は誰にもあるもの。
貴族として未完成の彼女は、
隠す術を知らず (。・ω・。)唯々💧
奇行を繰り返すのみ…哀れな😢
最後まで読み進めて解る
きれいに隠された欺瞞の数々。
始まりは誰なのか?過ちを犯し諸悪の根源を生み出し放置した
王か王妃かそれとも…( ̄Δ ̄)ハァ
婚約者が有りながら
隠れて愛を育む王子と😅
解りやすく顰蹙を買う公爵令嬢。
ヤッテイル事は同じく浮気ですがネ(笑)
幼稚な彼女は排除され、( ̄∇ ̄)
上手く立ち回る腹黒さを武器に
幸せに成った元婚約者と異母兄。
公爵の死因も疑わしい?怖っ😨
一番幸せに成ったのは誰。
私には、我が儘に振る舞い😅
奇行を繰り返し自滅して終った
公爵令嬢ですかね。( ̄∇ ̄)クスクス
馬鹿カワイイのがツボですね♡
母国に追放処分に成った元王子。母親(元王妃)の遺恨を晴らす為、
同じ境遇の彼女を娶った。(//∇//)
漢気あふれる、厳つい彼と暮らす日々は…愛されず疎まれた彼女にとって心安らぐご褒美かもしれません…お幸せに。🌱🐥🐤💗
貴族って汚いですね…😨
綺麗な微笑みの裏の隠された💧
真実に…ぞっとしました(〃ω〃)色々と考えさせて頂き、感謝しか有りません。面白かったです😆
新作を楽しみにしていますね。
お読みいただきありがとうございます。それぞれの言い分があって、それぞれの幸せを求める気持ちがあってねじれてます。
父公爵も愛を求めて、正妻に拒否されて、公爵令嬢の母を選んだのですが、すぐ亡くなってしまい代わりに娘に愛を注ぎ込んだのですが、彼女のためにはならなかったようですね。
最後はせめて希望を見つけさせたくて、こんなエンドになりました。感想ありがとうございました。
それぞれに言い分があってみんな利己的で
だけどあたたかいエピローグをむかえていいお話でした。
読んでいただきありがとうございます。第一王子とその父親の護衛騎士以外自分の欲望に忠実な人間です。感想ありがとうございました。