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第二部
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しおりを挟むジークハルトは結婚を申し込む前にアンナニーナに自信を持たせたい。それから彼女に自分を選んでもらいたいと強く願った。
「アンナニーナ こちらを向いて」
ジークハルトは指でアンナニーナの顎を上げさせた。俯きがちなアンナニーナを無理矢理こちらに向かせるためだ。アンナニーナはそんなことをされてびっくりして顔を上げてジークハルトを見つめた。
「目が腫れていて一層不器量でしょう」
「君は自分がわかってない。この前の舞踏会でどれだけの男が君に目を奪われたか」
「ジークハルト様はお優しいですね。そんなことあるわけないじゃないですか」
「……君は信じないんだ。じゃあ確実なことを言おう。私は君のドレス姿に初めて見た時から見惚れていたよ」
「前が酷すぎたから比べてでしょう?」
頑固だ。なんと頑固なことだ。ジークハルトはちょっと気持ちが砕けそうになった。
ジークハルトは今までの自分では出来ないことを頑張っているので、いっぱいいっぱいなのだ。経験が無いって怖い!
「前だって地味に仕立てていただけで、君の知性の輝きは抑えられてなかったよ」
ああ むず痒いーーーこんな言葉を自分が言う日が来るなんて。ジークハルトは床に転がって叫びたい気分だった。
「そ……そんな」
アンナニーナに今度の言葉は届いたらしく、頬に手を当ててほんのり赤くなった。
いまだ!といきこんで
「だから卑下することなど何もない」
と言うとアンナニーナが顔を上げた。ジークハルトがじっと見つめるとアンナニーナも視線を合わせてくれ見つめあった。
ここで告白すべきか!と思った時ノックの音が響きマークの『晩餐のお支度が整いました』と言う声が聞こえた。
出鼻を挫かれたが、好意は伝わっただろうと晩餐に向かうことにして、立ち上がりアンナニーナに向けて左肘を向けた。アンナニーナはそっとそこに指を置いてくれ食堂に向かった。
アンナニーナにとってあまりにも色んな事があったから性急に結婚を申し込まれても困惑するかもしれない。アンナニーナともう少し交流してから自然に申し込もうと決心した。
数日後、王宮に出仕したジークハルトはバルトーク伯爵の領地で第一騎士団の手によって盗賊団全員捕まったことを知った。教えてくれたカイル曰く、同時に裏から手を引いていたフランクの父親の男爵とメリンダの父親の子爵も全員捕まったそうだ。綿花の買取先の隣国の商人は盗品だとわかって買い叩いていたので、隣国の騎士団に引き渡された。
これでバルトーク伯爵領でずっと解決しなかった盗難事件は終わった。解決したのもメリンダから聞き出せた事が一番解決に繋がったらしい。アンナニーナが嫌な思いをさせられたが全く無駄ではなかったと言うことだ。
どのような罪になるかはこれからになるだろうけれど、アンナニーナは伯爵家に戻れることになる。ーー寂しいな。
でも跡取りになるアンナニーナをいつまでも留めてはおけない。頑張って告白するぞ。おーとジークハルトは心中で雄叫びを上げていた。
復帰早々仕事が山積みだったが、一身上の都合です!私の未来のために帰らせて下さい!とユリウスに嘆願したら、にやりと笑われたが帰してくれた。帰る道はすっかり暗くなっていた。ジークハルトの出仕が始まると毎朝毎夕アンナニーナが玄関ポーチまで来てくれて幸せを噛み締めていた。今日も来てくれるかなと思いつつ、馬車から降りると玄関ポーチにアンナニーナが微笑みながら立っていてくれた。そのアンナニーナに近づこうとしたその時に暗がりから
「ローゼ!!!許さない!!!」
何かが飛び出てきた。手元に持っているものを玄関の灯りがきらりと銀色に光らせた。
ジークハルトは咄嗟に走り出し、アンナニーナの前に身体を投げ出した。
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