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第二部
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しおりを挟むジークハルトは顔と手を洗い着替えて客間に戻った。ノックをして入室するとアンナニーナはまだ来ていなかった。女性の方が身支度に時間がかかるからなと思い、バルトーク伯爵に断り伯爵の目の前の椅子に座った。侍女がお茶を入れてくれた。
「ジークハルト アンナニーナが来る前にざっと言っておくけれど、この後捕物があるからアンナニーナはまだしばらく預かるわ。でも残念ながらあなたの婚約者候補の候補ではなくて危険だから預かるそれだけ。護衛は増やして、あなたも警備に回って。剣だけ腕が立つものね。アンナニーナはしばらく我が家で缶詰よ」
剣だけは…否定できない。それに婚約者候補の候補ってなんなんだ。ジークハルトはこの時この言葉を深く考えずに痛い目に遭うのだった。
「迷惑かけます。アンナニーナの相談相手になってやって下さい」
とバルトーク伯爵に言われた。
そこにアンナニーナがやって来た。侍女達が頑張ったらしく短時間でも前のような地味な姿でなく、家でくつろぐような簡易なドレスだが、茜色にレースを重ねたドレスでアンナニーナの白い透き通るような肌によく似合っていた。髪も茜色のバレッタで止めて、よくとかしてある艶やかな髪を肩に流して、前の髪型の引っ詰め髪とはまるで違った。
「ローゼ……」
バルトーク伯爵が感慨深げに呟いた。
「そうでしょう?益々ローゼに似て来たわ。メリンダがアンナニーナを地味に装わせたのはこれが理由よ」
母が何やら得意げに言うけどなんのことやらわからないので、思わずアンナニーナと顔を見合わせてしまった。
「まあ 座りなさい」
ジークハルトの母に言われて、アンナニーナはバルトーク伯爵の隣に座った。あれ こっちに座ってくれないんだとがっくりした。バルトーク伯爵は優しい目でアンナニーナを見つめた。
「アンナニーナ 我が家の領地での綿花の盗難が増えた事に気が付いているかい?」
「はい 見廻りを増やしても増やしても収穫時期に持ち去られて。犯人を捕まえてもトカゲの尻尾きりで黒幕が掴めないと」
「そうだ。黒幕は隣の領地のターラント男爵だと目星をつけたが証拠がない。盗んだ綿花は男爵家側の街道を通って隣国で売られているとなんとか調べたが、印が付いているわけではないのでどれが我が家の綿花かわからない」
「それであなたはメリンダと再婚したの?最低最悪な案じゃないの?メリンダはローゼそっくりなアンナニーナをいじめていたのよ。気が付かなかったの!」
母が強い口調でバルトーク伯爵を責め立てる。バルトーク伯爵は眉を下げて申し訳なさそうに言う。
「それは本当に気がつかなかった。私に気に入られようといい人ぶっていて私の前ではアンナニーナに優しくしていたから騙された」
「騙そうとして騙されるなんって最低!」
「あのー母上 私達は話が見えません。綿花の盗難と再婚はどこに繋がるのですか?」
「まあ ジークハルト相変わらず鈍いわね」
いえ 説明ないのだからわかりませんよ。母が苛立ったように説明してくれた。
「ターラント男爵の妻はメリンダの姉よ」
それはあの自称幼馴染男に聞いた。
「メリンダの実家の子爵家は没落寸前でいつもお金に困ってるの」
ああ 共犯か。
「ちまちま綿花を盗むより伯爵家乗っ取りを企んでさらに悪事も働こうとしていたの。まずメリンダがハロルドに一服盛って裸で捨て身の色仕掛けをやらせたわけ」
こら、淑女の鑑。未婚の令嬢の前で何を言う。案の定アンナニーナは真っ赤にーーーなってない!
「お父様 どういうことですか」
「しつこく泊まらせろというので何かすると思って、差し出された水を飲んだふりして寝たふりをしたらメリンダが忍び込んで来て私の服を脱がせて勃たせようとしたけれど勃たなかったんだ。ローゼの悪口を言う女に勃つわけない」
わああああ 。これR指定してないんだから、発言には気をつけてくれーーーー
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