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第二部
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廊下から階段を降りて庭先から四人で向かった先は裏門だった。足早に通り過ぎる奥庭は外国の賓客を迎える館とは思えないほど荒れていた。玄関先の庭には手入れがしてあったのにだ。また迎賓館と言うのに使用人の数が明らかに少ない。
これは我が国を侮ってこのようにしているのか、そこまで手が回せないのかこれだけでは判断が付かない。
だが、使用人が出入りする裏門は門番すらいなかった。これでは何が入ってきてもわからない。
「これは警備もザルだな。護送のためと言って騎士団から多めに騎士について来てもらって正解だったな」
ユリウスが付いてきてくれた騎士の一人に振り返って声を掛ける。彼はこの度の使節団の護衛隊長の第一騎士団副団長のオットー・クリンゲラインだ。彼は伯爵家の次男で子爵位を持っている。
「帰りましたら裏手にも騎士を多く配備いたします」
「そうしてくれ」
行き先は決まっているようで迷いなく足を進める。それに慌ててついて行くジークハルト。
「ユリウス様 行き先は決まっているのですか」
ユリウスが足を止めてジークハルトを自分の方に引き寄せて耳元でささやいた。もう一人の騎士を指さして言った。
「彼は前からこの国に潜入調査している密偵の一人だ。我らが入国したので合流した」
さすがのジークハルトも行きの馬車の中で聞いたユリウスがこの国に干渉した経緯を思い出した。その時の手足になった密偵なのか。それからは黙ってユリウスに付いて行った。下町の商店街のような街並みを抜けて、雑貨店の前に出た。
「一気に入ると目立ちます。二人ずつ入ります」
まずユリウスとオットーが入って行った。しばらく周りを警戒して周りを密偵という男とジークハルトでぐるぐる回り、しばらくしてから入店した。
「いらっしゃいませ」
と中年の店主らしき男が声をかけてきた。密偵という男がその男に
「オルゴールが欲しいのだが」
と声を掛けた。その男は無表情に答えた。
「それなら奥にあります。どうぞ」
そう言われて奥に入ると、カーテンで仕切られた場所を抜けると商品が積み込まれた棚があった。二番目の棚板の商品を少し退けて棚板の一部を捲ると取手が現れて、それを横にぐっと押すと棚が横にズズッと開いた。
目で合図されてぽーと見ていたジークハルトは慌ててその隙間に身を滑り込ませた。そこには階段があり、下には灯を持ったオットーが待っていた。その灯に導かれて下に降りると地下室があった。後ろで先程の棚を元に戻す音がした。
「周りに怪しい人影はなかったか?」
ユリウスが密偵という男に声をかけると
「大丈夫でした。到着して早々に抜け出すとは思ってないのかもしれません」
と答えた。
「まあ ジークハルト座ってくれ。全員を紹介しよう。ここにいる人間がボーウ王国での調査を行う」
ユリウスがそう言って一人一人立たせて紹介した。
「知っているだろうが、表の行動隊長のオットー・クリンゲライン子爵。彼は爵位を持っているのでボーウ王国の王宮での行動に付き添ってもらう。連れてきた騎士達はオットーが指揮をする」
「裏の実働隊のカールとエルマーとザシャだ。彼らの下には表に出てこない潜入している密偵が何人もいる。その実態は私にも知らされてない。この三人がそれぞれの場所での情報を取りまとめて上げてくる」
「この男が側近に加わった、ジークハルト・ブリーゲル伯爵だ。お坊ちゃんだがボーデ公爵事件を潜り抜けて少し逞しくなった」
褒められているようで褒められていない。微妙だなー
「それでは報告してくれ」
ザシャと名乗った男が立ち上がった。
「ボーウ王国は今大きくは二つに分かれています。現国王を推す改革派、こちらは前国王に煮湯を飲まされた貴族が多い。もう一つは利益で結ばれた前国王派。前国王が心臓の病で急死したことで急速に勢いを無くしたが、自分達の利益のために第一王女を抱きこんで女王即位を狙うつもりです」
「自分の利益しか見えない貴族に利用されるような愚かな王女なのか」
確かに見た目はそんな風には見えないな。でもマーガレットの例があるし、女を見る目はゼロの自分では判断はできないと思うジークハルト。
「王妃と前国王は前国王が側妃に骨抜きになる前までは政略結婚でも仲は悪くなかったのです。子供が三人いる事でわかると思いますが」
「政略結婚なのか」
「ボーウ王国で高位貴族、王族は皆政略結婚です。王族が恋愛結婚する我が国とは違うのです」
ジークハルトはふと思いついた。
「政略結婚が普通なのにクラリッサには自分で選んだ伯爵令息が婚約者だったのですよね?」
ザシャがジークハルトの方を見て説明を始めた。
「最初クラリッサには侯爵令息と言う政略での婚約者がいたのです。姉の第一王女、第二王女にも政略での婚約者がいました。クラリッサは姉達に嫌がらせをするのが大好きだったそうです。それで第一王女の婚約者を寝取ったのです。当時は大騒ぎだったらしいです。第一王女と婚約者は婚約解消になり、クラリッサとその婚約者が婚約するのかと思ったら、クラリッサは近衛騎士団にいた美形の伯爵令息に惚れたのです」
開いた口が塞がらない。
「結局クラリッサに甘い国王が伯爵令息にクラリッサとの婚約を王命で命じました。第一王女と婚約者は何のために婚約を解消したかわからなくなりました。婚約者は元に戻ることを希望しましたが、第一王女は拒否しました。第一王女が前国王派に担がれる事を良しとしないと思えるエピソードですが、実際には親しくしているようです」
第一王女は何を考えているのだろうか。
これは我が国を侮ってこのようにしているのか、そこまで手が回せないのかこれだけでは判断が付かない。
だが、使用人が出入りする裏門は門番すらいなかった。これでは何が入ってきてもわからない。
「これは警備もザルだな。護送のためと言って騎士団から多めに騎士について来てもらって正解だったな」
ユリウスが付いてきてくれた騎士の一人に振り返って声を掛ける。彼はこの度の使節団の護衛隊長の第一騎士団副団長のオットー・クリンゲラインだ。彼は伯爵家の次男で子爵位を持っている。
「帰りましたら裏手にも騎士を多く配備いたします」
「そうしてくれ」
行き先は決まっているようで迷いなく足を進める。それに慌ててついて行くジークハルト。
「ユリウス様 行き先は決まっているのですか」
ユリウスが足を止めてジークハルトを自分の方に引き寄せて耳元でささやいた。もう一人の騎士を指さして言った。
「彼は前からこの国に潜入調査している密偵の一人だ。我らが入国したので合流した」
さすがのジークハルトも行きの馬車の中で聞いたユリウスがこの国に干渉した経緯を思い出した。その時の手足になった密偵なのか。それからは黙ってユリウスに付いて行った。下町の商店街のような街並みを抜けて、雑貨店の前に出た。
「一気に入ると目立ちます。二人ずつ入ります」
まずユリウスとオットーが入って行った。しばらく周りを警戒して周りを密偵という男とジークハルトでぐるぐる回り、しばらくしてから入店した。
「いらっしゃいませ」
と中年の店主らしき男が声をかけてきた。密偵という男がその男に
「オルゴールが欲しいのだが」
と声を掛けた。その男は無表情に答えた。
「それなら奥にあります。どうぞ」
そう言われて奥に入ると、カーテンで仕切られた場所を抜けると商品が積み込まれた棚があった。二番目の棚板の商品を少し退けて棚板の一部を捲ると取手が現れて、それを横にぐっと押すと棚が横にズズッと開いた。
目で合図されてぽーと見ていたジークハルトは慌ててその隙間に身を滑り込ませた。そこには階段があり、下には灯を持ったオットーが待っていた。その灯に導かれて下に降りると地下室があった。後ろで先程の棚を元に戻す音がした。
「周りに怪しい人影はなかったか?」
ユリウスが密偵という男に声をかけると
「大丈夫でした。到着して早々に抜け出すとは思ってないのかもしれません」
と答えた。
「まあ ジークハルト座ってくれ。全員を紹介しよう。ここにいる人間がボーウ王国での調査を行う」
ユリウスがそう言って一人一人立たせて紹介した。
「知っているだろうが、表の行動隊長のオットー・クリンゲライン子爵。彼は爵位を持っているのでボーウ王国の王宮での行動に付き添ってもらう。連れてきた騎士達はオットーが指揮をする」
「裏の実働隊のカールとエルマーとザシャだ。彼らの下には表に出てこない潜入している密偵が何人もいる。その実態は私にも知らされてない。この三人がそれぞれの場所での情報を取りまとめて上げてくる」
「この男が側近に加わった、ジークハルト・ブリーゲル伯爵だ。お坊ちゃんだがボーデ公爵事件を潜り抜けて少し逞しくなった」
褒められているようで褒められていない。微妙だなー
「それでは報告してくれ」
ザシャと名乗った男が立ち上がった。
「ボーウ王国は今大きくは二つに分かれています。現国王を推す改革派、こちらは前国王に煮湯を飲まされた貴族が多い。もう一つは利益で結ばれた前国王派。前国王が心臓の病で急死したことで急速に勢いを無くしたが、自分達の利益のために第一王女を抱きこんで女王即位を狙うつもりです」
「自分の利益しか見えない貴族に利用されるような愚かな王女なのか」
確かに見た目はそんな風には見えないな。でもマーガレットの例があるし、女を見る目はゼロの自分では判断はできないと思うジークハルト。
「王妃と前国王は前国王が側妃に骨抜きになる前までは政略結婚でも仲は悪くなかったのです。子供が三人いる事でわかると思いますが」
「政略結婚なのか」
「ボーウ王国で高位貴族、王族は皆政略結婚です。王族が恋愛結婚する我が国とは違うのです」
ジークハルトはふと思いついた。
「政略結婚が普通なのにクラリッサには自分で選んだ伯爵令息が婚約者だったのですよね?」
ザシャがジークハルトの方を見て説明を始めた。
「最初クラリッサには侯爵令息と言う政略での婚約者がいたのです。姉の第一王女、第二王女にも政略での婚約者がいました。クラリッサは姉達に嫌がらせをするのが大好きだったそうです。それで第一王女の婚約者を寝取ったのです。当時は大騒ぎだったらしいです。第一王女と婚約者は婚約解消になり、クラリッサとその婚約者が婚約するのかと思ったら、クラリッサは近衛騎士団にいた美形の伯爵令息に惚れたのです」
開いた口が塞がらない。
「結局クラリッサに甘い国王が伯爵令息にクラリッサとの婚約を王命で命じました。第一王女と婚約者は何のために婚約を解消したかわからなくなりました。婚約者は元に戻ることを希望しましたが、第一王女は拒否しました。第一王女が前国王派に担がれる事を良しとしないと思えるエピソードですが、実際には親しくしているようです」
第一王女は何を考えているのだろうか。
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