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第一部
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ユリウスは女官長の周りを探り、カイルは子爵家の現状を探りジークハルトは厨房の新しい料理人について聞き込みをする事になった。
ジークハルトは厨房専任の文官と一緒に料理長との打ち合わせに向かった。
「料理長からの要望の増員だが、女官長が料理人三人を雇ったそうだが、その三人の態度はどうだ?」
「恐れながら申し上げます。女官長が雇ったと言う三人ですが腕は悪くありません。こちらの要望する程度の技術はあります。ただ…」
「ただ?」
ジークハルトが言いにくそうな料理長に水を向ける。料理長は声をひそめるようにして言った。
「女官長の縁故とかで態度が大きいのです。問題なのは厨房のものは料理長の私以外王宮の中に許可なく立ち入ってはいけないのですが、目を離すと三人のうち誰かが王宮内を歩いているのです何度だめだと言っても女官長の名前を出して逆らうのです」
「それは問題だ。その料理人に会わせてくれ」
料理長に呼ばれて新参の三人が入って来た。まず文官が尋ねた。
「君たちの採用は女官長だったそうだが、女官長とどう言う繋がりがあるんだね?」
三人は顔を見合わせて、一番年長のものが答えた。
「女官長様の御親類の家で料理人をしておりましたが、解雇されてしまったので女官長様のツテでこちらに」
解雇されるような腕の人間を王宮に勤めさせるのはおかしくないか?そう思ったジークハルトは文官に代わって言った。
「三人とも解雇されたのか?」
「はい。そのお邸では必要ないからって」
「ではその邸のご主人の名前を教えて貰いたい」
三人はまた顔を見合わせた。
「それは私どもからは言えないので、女官長様から聞いて下さい」
「なぜ言えない?」
「解雇された時に言わない約束で……」
「おかしいな。解雇されるのにそんな約束するのか?」
それからは何を聞いても貝のように口を閉じてしまった。ジークハルトは衛兵を呼んで三人を取り調べが終わるまで、牢に入れるように申し付けた。三人はジークハルトを睨みつけ衛兵に引き立てられて去って行った。料理長は明らかにほっとした表情になった。
「人手は不足してますが、あんなに怪しい奴らでは困ります。でも女官長の名前を出されると我らでなんともできなくて。ありがとうございました」
「婚儀が済めば仕事は元に戻るから、公爵家から婚儀の前後に料理人が応援に来る事になった」
「そうですか!ありがとうございます。助かります」
執務室に戻りながら、多分女官長が怒鳴り込んでくるだろうなと思った。途中でマルガリータに出会った。文官に先に行くようと言ったら文官ににやり笑われたが。マルガリータと例の庭園の隅で話をした。
「例の料理人は出所もはっきり言わないので牢に入れた。多分女官長は怒鳴り込んでくると思うよ」
マルガリータは大丈夫なのかと言う顔で見るので
「ユリウス様がいるので大丈夫だ」
と言ったらなーんだと言う顔をされてしまった。不味かったかな?
「新しい出入りの商人ですが、茶葉の商人でした。女官長は何かと買い入れているようですが、文官や女官は新規の商人ということで用心して買っていません」
「商人の名前は?」
「カロッサ商会と名乗っています。商品を持って来るのはいつも若い男です。なんでも茶葉の産地の出身と言っていました」
「その男と接触したのか?危険だから接触しない方がいい」
「心配してくださってありがとう。でも女官長が教えてくれるはずもないから自分でやらないと。でも気をつけます」
おや?いいムードじゃないかと思うジークハルト。
「では商人について何かわかったら知らせます」
いいムードと思ったのに、マルガリータはさっさと行ってしまった。仕方ないのでとぼとぼと執務室に帰ったらいきなり怒鳴り声が聞こえた。
「わたくしが雇い入れたものにどんなご不満があるのですか!」
扉を開けて入室すると、女官長がユリウスにヒステリックに噛み付いていた。ジークハルトは怖い気持ちを押し込めて、勇気を奮って女官長に言った。
「私が牢に繋ぐように言いました。どこの邸で働いていたか出自を言えないようなものを婚儀の近い今厨房に置いておけません」
「何ですって!」
今度はユリウスに詰め寄るのはやめて、ジークハルトに詰め寄った。ユリウスが手で女官長を制して
「オルノー子爵夫人!彼はブーリーゲル侯爵令息でまもなく伯爵位を継ぐ人間だ。あなたがそんな口をきいていい身分ではない!」
強い口調で女官長に言い渡した。女官長は言葉に詰まりうっと黙った。でもすぐ立ち直った。
「そうですか。身分を盾に取られるのなら、わたくしにも考えがあります」
そう言ってさっさと出て行った。
「やれやれ あれは王妃に言い付けるな」
カイルが苦笑いした。
「ユリウス様いきなり牢は不味かったでしょうか?料理人が王宮を探ってるらしかったので禁足したつもりでしたが」
「いやそれでいい。手駒を取られた女官長がどう動くかだ。何が目的かもはっきりわからない。ただオルノー子爵家には娘がいる。その娘を殿下にと思っていたらしいから目的はミケーレ排除ではないかと思っている。女官長は殿下に娘が殿下を慕っているので、かなえてやって欲しいと願ったそうだ」
「殿下とオルノー子爵令嬢との仲は希望が持てるほどよかったのですか?」
「王宮に連れて来ていたから、子供の頃は幼馴染と言ってもいい関係だったらしい。殿下が立太子して東宮に居を移してからは没交渉だそうだ。もちろん殿下はなんとも思っていない。ミケーレに捨てられたくないので誤解されるようなことを言うなと必死っだったな」
ジークハルトはカイルと二人で顔を見合わせてしまった。あーあ殿下敷かれてる。
ジークハルトは厨房専任の文官と一緒に料理長との打ち合わせに向かった。
「料理長からの要望の増員だが、女官長が料理人三人を雇ったそうだが、その三人の態度はどうだ?」
「恐れながら申し上げます。女官長が雇ったと言う三人ですが腕は悪くありません。こちらの要望する程度の技術はあります。ただ…」
「ただ?」
ジークハルトが言いにくそうな料理長に水を向ける。料理長は声をひそめるようにして言った。
「女官長の縁故とかで態度が大きいのです。問題なのは厨房のものは料理長の私以外王宮の中に許可なく立ち入ってはいけないのですが、目を離すと三人のうち誰かが王宮内を歩いているのです何度だめだと言っても女官長の名前を出して逆らうのです」
「それは問題だ。その料理人に会わせてくれ」
料理長に呼ばれて新参の三人が入って来た。まず文官が尋ねた。
「君たちの採用は女官長だったそうだが、女官長とどう言う繋がりがあるんだね?」
三人は顔を見合わせて、一番年長のものが答えた。
「女官長様の御親類の家で料理人をしておりましたが、解雇されてしまったので女官長様のツテでこちらに」
解雇されるような腕の人間を王宮に勤めさせるのはおかしくないか?そう思ったジークハルトは文官に代わって言った。
「三人とも解雇されたのか?」
「はい。そのお邸では必要ないからって」
「ではその邸のご主人の名前を教えて貰いたい」
三人はまた顔を見合わせた。
「それは私どもからは言えないので、女官長様から聞いて下さい」
「なぜ言えない?」
「解雇された時に言わない約束で……」
「おかしいな。解雇されるのにそんな約束するのか?」
それからは何を聞いても貝のように口を閉じてしまった。ジークハルトは衛兵を呼んで三人を取り調べが終わるまで、牢に入れるように申し付けた。三人はジークハルトを睨みつけ衛兵に引き立てられて去って行った。料理長は明らかにほっとした表情になった。
「人手は不足してますが、あんなに怪しい奴らでは困ります。でも女官長の名前を出されると我らでなんともできなくて。ありがとうございました」
「婚儀が済めば仕事は元に戻るから、公爵家から婚儀の前後に料理人が応援に来る事になった」
「そうですか!ありがとうございます。助かります」
執務室に戻りながら、多分女官長が怒鳴り込んでくるだろうなと思った。途中でマルガリータに出会った。文官に先に行くようと言ったら文官ににやり笑われたが。マルガリータと例の庭園の隅で話をした。
「例の料理人は出所もはっきり言わないので牢に入れた。多分女官長は怒鳴り込んでくると思うよ」
マルガリータは大丈夫なのかと言う顔で見るので
「ユリウス様がいるので大丈夫だ」
と言ったらなーんだと言う顔をされてしまった。不味かったかな?
「新しい出入りの商人ですが、茶葉の商人でした。女官長は何かと買い入れているようですが、文官や女官は新規の商人ということで用心して買っていません」
「商人の名前は?」
「カロッサ商会と名乗っています。商品を持って来るのはいつも若い男です。なんでも茶葉の産地の出身と言っていました」
「その男と接触したのか?危険だから接触しない方がいい」
「心配してくださってありがとう。でも女官長が教えてくれるはずもないから自分でやらないと。でも気をつけます」
おや?いいムードじゃないかと思うジークハルト。
「では商人について何かわかったら知らせます」
いいムードと思ったのに、マルガリータはさっさと行ってしまった。仕方ないのでとぼとぼと執務室に帰ったらいきなり怒鳴り声が聞こえた。
「わたくしが雇い入れたものにどんなご不満があるのですか!」
扉を開けて入室すると、女官長がユリウスにヒステリックに噛み付いていた。ジークハルトは怖い気持ちを押し込めて、勇気を奮って女官長に言った。
「私が牢に繋ぐように言いました。どこの邸で働いていたか出自を言えないようなものを婚儀の近い今厨房に置いておけません」
「何ですって!」
今度はユリウスに詰め寄るのはやめて、ジークハルトに詰め寄った。ユリウスが手で女官長を制して
「オルノー子爵夫人!彼はブーリーゲル侯爵令息でまもなく伯爵位を継ぐ人間だ。あなたがそんな口をきいていい身分ではない!」
強い口調で女官長に言い渡した。女官長は言葉に詰まりうっと黙った。でもすぐ立ち直った。
「そうですか。身分を盾に取られるのなら、わたくしにも考えがあります」
そう言ってさっさと出て行った。
「やれやれ あれは王妃に言い付けるな」
カイルが苦笑いした。
「ユリウス様いきなり牢は不味かったでしょうか?料理人が王宮を探ってるらしかったので禁足したつもりでしたが」
「いやそれでいい。手駒を取られた女官長がどう動くかだ。何が目的かもはっきりわからない。ただオルノー子爵家には娘がいる。その娘を殿下にと思っていたらしいから目的はミケーレ排除ではないかと思っている。女官長は殿下に娘が殿下を慕っているので、かなえてやって欲しいと願ったそうだ」
「殿下とオルノー子爵令嬢との仲は希望が持てるほどよかったのですか?」
「王宮に連れて来ていたから、子供の頃は幼馴染と言ってもいい関係だったらしい。殿下が立太子して東宮に居を移してからは没交渉だそうだ。もちろん殿下はなんとも思っていない。ミケーレに捨てられたくないので誤解されるようなことを言うなと必死っだったな」
ジークハルトはカイルと二人で顔を見合わせてしまった。あーあ殿下敷かれてる。
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